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Appleデバイスの新技術は、なぜ発表前に“バレる”のか。明日からできる予想の仕方、教えます。

著者: 牧野武文

Appleデバイスの新技術は、なぜ発表前に“バレる”のか。明日からできる予想の仕方、教えます。

※この記事は『Mac Fan 2013年11月号』に掲載されたものです。

話題のiPhone 5c、iPhone 5sが発表された。新機能や本体の仕様は大方の予想どおりという声も多い。ところで、世のアナリストや専門家という人たちは、どうしてズバズバと新製品の仕様が予想できるのだろうか。

これが今回の疑問だ。

Appleの“秘密”のほとんどは公開情報にある

iPhoneに限らず、新製品の仕様に関する情報が事前に流れることをAppleは厳しくコントロールしている。そのため、Apple内部から情報が漏れてくるということは考えづらい。一説によると、Appleはニセの情報をわざとリークして、どのルートから情報漏れが起こるのかをチェックしているとも聞く。

次に考えられる情報入手先は、Appleに部品を供給しているサプライヤーだ。たとえばカメラ部分を製造しているS社では、当然次期iPhoneのカメラに関する仕様を知っているだろう。しかし、S社に聞いたところで答えてくれるはずはない。

なぜなら、Appleとの秘密保持契約(NDA)で情報を外に出すこと、それどころかAppleに部品供給をしていることすら公にしてはならないことになっているからだ。もしそれに違反すると、莫大な額の違約金を支払い、二度とAppleの仕事は回ってこないという企業存続の危機に陥ってしまう。

では、アナリストなどいわゆる「専門家」たちはいったいどうやって新製品の情報を手に入れているのだろうか。実は簡単な方法があるのだ。それは裏情報でもなんでもなく日々のニュースに気をつけておき、Appleが企業買収をしたニュースが流れたら、その買収された企業の技術を見るという方法だ。すると、それがしばらくのちにiPhoneやiPad、Macに搭載されることが間々ある。

Touch IDの登場も予想されたものだった

たとえば、iPhoneやiPodタッチの使いやすさを決定づけたマルチタッチ技術。この技術はフィンガーワークス社というベンチャー企業が開発していたものだ。Appleは2005年に同社を買収していて、2007年にはマルチタッチ技術を使った初代iPhoneが発売される。

また、音声アシスタントであるSiriは、その名もSiri社が開発していた技術だ。2010年にAppleが買収し、2011年に発売されたiPhone 4sで採用された。ちなみにSiri社はスタンフォード研究所(SRI)の研究員が興したベンチャー企業で、SRIをもじって社名をつけたと思われる。

さらに今回、指紋認証機能の搭載が取り沙汰されていたのも、2012年7月に指紋認証技術を開発したオーセンテック社を3億6500万ドルで買収していたという事実があったからなのだ。これがご存じのとおり「Touch ID」としてiPhone 5sに採用された。

つまり、「カメラの解像度がいくつになる?」といった細かい情報はともかく、今後iPhoneやiPadに搭載されるサプライズな機能であれば、Appleが買収する企業をウォッチしていれば、ある程度は予測がつくのだ。

通常、企業は買収の事実を発表する義務はないが、Appleほどの企業になると買収の噂が流れただけでメディアがAppleや関係者に問い合わせを行う。一部からは買収の事実に「Yes」と返答する場合もあるだろう。アナリストはそこから、次世代製品がどんなものになるかの予測を立てるというわけだ。種を明かしてしまえば、驚くべき秘密など何もないのだ。

これは別に専門家でなくても、ネットの技術系ニュースを根気よくウォッチする、あるいは「Apple 企業買収」でグーグル検索してみるだけで、誰でも予測ができてしまう簡単な方法といえる。

誰でもできる! Apple新製品の予想方法

さて、この方法を利用して、私も次世代iPhoneの大胆予測をしてみたい。2010年にAppleが買収した企業にPolar Rose社がある。この企業が所有していたコア技術は「顔認識」だ。すでに2011年のiPhone 4sにも顔を認識して焦点が自動的に合う機能が搭載されたが、同社の技術は単なる顔認識にとどまらず、顔の特徴を解析して個人識別できる技術も持っているのだ。

Polar Rose社が以前公開していたAndroidアプリ。カメラで人物を撮影すると、その人を特定して、データベースからYouTubeやSkypeなどのアカウントを検索する。アイコンをタップすると、その人とアカウント交換ができるというアプリだ。

この技術は「iPhoto」に搭載され、写真を人物ごとに整理する機能として実現している。以前、Polar Rose社が公開していたデモビデオでは、人の写真を撮影するとリアルタイムで特徴を読み取り、ネット上のデータベースと照合して個人を特定し、その人のブログのURLなどの個人情報を返すアプリのデモをやっていた。つまり、iPhoneにもこの機能が搭載される可能性があるわけだ。たとえば、ツーショット写真を撮るだけで名刺交換が自動的に行われたり、顔写真をタップするだけで、電話がかけられたりする機能が搭載されても不思議ではない。

次期iPhoneの目玉は「マップ」の進化?

さらに気が早くて恐縮だが2014年に発売されるであろうiPhoneとiOSはどんなものになるだろうか。個人的な予想だが、「マップ」のさらなる進化が大きな注目を浴びることはほぼ確実だ。なぜなら、Appleは今年になってからマップ関連企業を続々と買収しているからだ。当初マップに対する失望の声が大きかったためか、Appleも本格的に巻き返しを図っているのかもしれない。

実はiPhone 5(iOS 6)でApple独自のマップが搭載されることも、ほぼ確定事項だった。なぜなら2009年にPlacebase社、2010年にはPoly9社を、2011年にはC3 Technologies社を買収しているからだ。特にC3 Technologiesは3D地図の技術を持っていて、Appleの独自マップが3D対応になるのは確実だった。

Poly9社は、Google Earthそっくりのサービスを以前提供していた。こちらもAppleの買収後にサービスが停止され、サイトも閉鎖された。このようなGoogle Earth的な機能がマップに搭載される日も近い?
意外と知られていないが、Appleのマップの3Dビューはかなり優れている。3Dビューが提供されている地域はまだ限られているが、ぐりぐり回して街の中に入っていける。これもC3 Technologies社の開発した技術だった。

テクノロジー系のニュースで”予測遊び”

そして、今年に入ってからも3月にWiFi SLAM社を、6月にLocationary社とHopStop社、8月にはEmbarkと怒涛の勢いで「大人買い」している。WiFi SLAM社はWi−Fiアクセスポイントの位置を利用して屋内での位置測定を行う技術を持っている。ビルやショッピングモールの中でも、何階のどこにいるかまでわかるのだ。

また、Locationary社は企業の位置情報をリアルタイムで更新する機能を持っているので、「今、開店しているレストランだけ表示」みたいなことが可能となる。HopStop社、Embark社はいずれも公共機関の乗り換え検索の技術を持っている。現状のマップでは、車と徒歩のルート検索しかできず、公共機関のルート検索は外部アプリに渡される仕組みだが、この不便さが解消されるだろう。

なお、HopStop社はすでに「HopStop」というアプリを公開しているので、使ってみれば将来のマップがどのような感じになるのかある程度わかるはずだ。日本地域には対応していないが、バス、タクシー、鉄道、自転車、徒歩のルート検索に対応し、事故情報などはリアルタイムで反映する。

HopStop社、Embark社はいずれも公共交通機関のルート検索アプリを提供している(日本はサービス地域外)。両者とも動きが軽く、センスのいい表示だ。iOS7.1あたりで、「マップ」も公共交通機関のルート検索に対応してくれるだろうか。

もちろん、Appleが企業を買収したからといって、その企業の技術を必ず搭載するとは限らない。狙いは技術そのものではなく、その企業の人材や開発ノウハウだったりすることもあるし、最終的にユーザが喜ぶとAppleが判断したものしか採用しないからだ。

しかし、ちょっとテクノロジー系ニュースに気をつけておくだけで、未来のiPhoneがどんなものになるのか予想できる。これは結構楽しい遊びではないだろうか。

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著者プロフィール

牧野武文

牧野武文

フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。

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