企業のさまざまな業務を効率化する基幹システムにMacが適さないと思われていたのは昔の話。「むしろ、パソコンの黎明期からMacは業務システムの開発と運用に適していました」。そう語るのはマーベルコンピュータ代表取締役社長の吉田正則さん。創業から一貫して業務システム開発を手掛けていた吉田さんに、Mac用ビジネスソフトの現状と、その根底にある重要なコンセプトについて話を聞きました。
株式会社マーベルコンピュータ
代表取締役社長
吉田正則さん
株式会社マーベルコンピュータは、兵庫県明石市に本社を置くソフトウェア開発会社。業務システム開発、ECサイト構築、4D(4th Dimension)、FileMakerを用いたシステム開発などを手がけ、AI、クラウドなどの最新技術にも注力しています。
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ビジネスソフトの嚆矢
MF◦まずマーベルコンピュータ設立の経緯や事業内容について教えていただけますか。
吉田◦1981年に兵庫県西明石でApple IIの販売代理店としてパソコンショップを始め、1984年のMacの登場をきっかけにハードウェア販売からソフトウェア開発専業にシフトしました。
MF◦その頃から業務用ソフトの開発にMacが使えると感じられていたのですね。
吉田◦もともと在庫管理などに興味があってデータベースソフトの「4D(4th Dimension)」に触れてみたのですが、これがとても先進的な設計だったのです。この4Dを使って1991年にMac初の本格的なビジネスソフトウェアシリーズとして、「Mac財務管理」をリリースしました。これに給与人事の機能を加えた基幹業務システムは、現在「ビズトレック(BIZTREK)」ブランドとして提供しています。また、これと並行して2000年代からは「ファイルメーカー(Claris FileMaker)」との連携も始めていて、店舗での顧客管理や売上など販売管理のデータと基幹業務システムとを連携して会社独自のワークフローを実現するのが、今回ご紹介する「マックウィンコネクト(MacWin Connect)」というソフトです。
コンポーザビリティの価値
MF◦マックウィンコネクトは、基幹業務システムとファイルメーカーのデータベースを接続してデータ連携するというコンセプトですよね。それ以外の組み合わせも可能なのでしょうか。
吉田◦多くのパターンが考えられます。たとえば、機密性の高い情報を社内の「ファイルメーカーサーバ(FileMaker Server)」で管理し、別の業務ではWebブラウザからアクセスできる「クラリススタジオ(Claris Studio)」を利用していたとします。このようにオンプレミスとクラウドにある複数のデータベースを自動連携させることも可能です。また、業務アプリ開発の「キントーン(kintone)」などのクラウドサービスを組み合わせて、それぞれの企業に最適なワークフローを実現できます。
MF◦たとえば、どのような業種や業態で導入されていますか。
吉田◦もともとはアパレルメーカーの業務システムを効率化するために開発された経緯もあり、原材料を仕入れて製造し、複数の拠点の店舗やネットショップで販売するといった複雑なビジネスロジックを持つ企業の多くで意義を感じていただけると思います。ほかにも、自動車部品の製造販売をしている企業や薪ストーブのメーカーさんなど、多くの導入実績があります。
MF◦最近は業務システムの導入や刷新で苦労されている企業も多いと聞きますが、どこに問題があると感じていますか?
吉田◦これまで多くの企業のシステム開発に携わってきて、現場の抱える課題も実に多様でした。しかし、私自身はシステムの開発や運用で失敗したことがないのです。その理由として挙げられるのが、「コンポーザビリティ(Composability)」という考え方です。この言葉はソフトウェア開発や金融などさまざまな分野で使われるもので、一般的には異なる部品やサービスなどの要素(コンポーネント)を組み合わせて、新しいものを構築する能力を意味します。これはビジネス戦略の分野にも当てはまり、コンポーザビリティの高い企業は市場の変化に強く、自らのビジネスを最適化して新たな価値を生み出せるとされています。
MF◦システム設計でも重要なコンセプトですね。
吉田◦システムがクラウドでも、オンプレミスでも、それぞれのコンポーネントの優れた特性をつなぎ合わせて、その企業独自のワークフローを表現していくことが重要です。なぜなら、ビジネスの価値はその新たなワークフローから生み出されるからです。この考え方は、マックウィンコネクトのコンセプトにも色濃く反映されています。
1991年のリリース以来進化を積み重ねたビジネスソフトの決定版
基幹業務システムの「BIZTREK」は、3種類のビジネスソフトウェアで構成されたシリーズとなっています。受発注や売上・仕入・在庫管理などが統合された「バックオフィス」、振替伝票や賃借対照表をはじめ部門ごとの損益計算書など日々の取引の把握に欠かせない「財務管理」、従業員の給与や賞与の計算、社会保険や年末調整などを管理できる「給与人事」の3つのソフトから自社に必要な組み合わせで導入可能です。
Mac版とWindows版のプラットフォームに対応し、自社のサーバで利用するマルチユーザ版の場合、Appleシリコンを搭載したMac miniでもデータベースエンジンが軽快に動作します。
※この記事は『Mac Fan』2024年9月号に掲載されたものです。
著者プロフィール
栗原亮
1975年東京都日野市生まれ、日本大学大学院文学研究科修士課程修了(哲学)。 出版社勤務を経て、2002年よりフリーランスの編集者兼ライターとして活動を開始。 主にApple社のMac、iPhone、iPadに関する記事を各メディアで執筆。 本誌『Mac Fan』でも「MacBook裏メニュー」「Macの媚薬」などを連載中。