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Appleはなぜ“強い”のか。3兆ドル企業になり得た要因を、「フレームワーク」で解き明かすスペシャル対談

著者: 山田井ユウキ

Appleはなぜ“強い”のか。3兆ドル企業になり得た要因を、「フレームワーク」で解き明かすスペシャル対談

革新的な製品でイノベーションを起こし続けるApple。ついには時価総額3兆ドルを突破し、名実ともに世界最高レベルの企業となりました。なぜ、Appleはこれほどまでに成功できたのでしょうか。それを明らかにするため、Mac Fan Portalは特別鼎談を実施しました。

鼎談の参加者は、ジャーナリストの松村太郎氏、ベンチャー企業の社外取締役で書評ブロガーの徳本昌大氏、そしてイノベーション・エンジン社の雨宮秀仁氏。3名全員が、学校法人電子学園情報経営イノベーション専門職大学(通称:iU)で教鞭をとっています。

Apple製品を使い続ける理由

松村:この度、徳本さんと共著で『最強Appleフレームワーク: ジョブズを失っても、成長し続ける 最高・堅実モデル!』を出版しました。世界ではじめて時価総額3兆ドルを達成し、革新的な製品でイノベーションを起こし続けるAppleについて、17のフレームワークを用いながら読み解いていくという内容です。

今回はそれに合わせて、Appleのビジネスモデルについて語っていきたいのですが、まずは皆さんの自己紹介とApple遍歴について教えてください。

松村太郎。1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。ITジャーナリスト。

雨宮:イノベーション・エンジンの雨宮です。今回の鼎談の場所でもある、iUで客員教授を務めています。Apple遍歴は、2000年代後半にiPhoneを使い始めました。仕事ではiMacを使うこともありましたが、自分で所有しているのはiPhoneだけですね。

雨宮秀仁。1971年生まれ。イノベーション・エンジン株式会社 インベストメント・パートナー。

徳本:私は、2022年より、iUの特任教授としてビジネスフレームワークを教える「ビジネスフィールドリサーチ」科目を担当しています。普段はいろいろな企業の社外取締役やアドバイザーをやらせてもらっています。Apple製品は1994年ごろから使い始めて、2001年発売の初代iPod以降、Appleに夢中になりました。今は家中にApple製品が溢れかえっています(笑)。書評ブログも書いていますが、やはりAppleの話題が多いですね。

徳本昌大。1963年生まれ。IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動。

松村:ありがとうございます。私はジャーナリストとしてテクノロジー企業を中心に取材をしています。2020年からはお二人と同じくiUで、デザイン思考、アート思考、ビジネスフレームワーク科目の教鞭をとっています。Apple製品を初めて買ったのは2001年のiPodで、それを使いたいがためにWindowsからMacに乗り換えたスイッチ組です。

さて、お聞きしていると、やはり皆さんApple製品を長年使われているようですね。まずはその理由についてお聞きします。

雨宮:やはり、UI/UXが優れているからというのは大きいですね。加えて、Androidだと世代が進むことで操作性がガラリと変わる可能性がありそうで、ちょっと怖いんですよね。

松村:たしかにAppleはコンサバティブですよね。操作性をドラスティックに変ることはしません。それでいて、ユーザが不足感を覚えることもありません。

徳本:僕はもともと広告会社に勤めていたのですが、クリエイティブ系の人たちはみんなMacで、それ以外の僕らはWindowsなわけです。それが僕は不満で、部門長に頼み込んでMacを使い始めました。そうすると、やはりWindowsとはUI/UXが全然違う。なんでこんなにサクサク動くんだろうと驚きました。そういうことを会社員時代に経験したことが大きくて、Apple製品を使い続けています。

Appleを成功に導いた『Think different.』の本質

松村:使い勝手の良さは、Apple製品の大きな魅力でもありますね。では、なぜAppleはそのようなプロダクトを生み出せるのか。ここを少し掘り下げたいと思います。

雨宮:スティーブ・ジョブズの話になってしまいますが、僕はApple製品のことを「ジョブズがほしいものを実現したプロダクト」だと思っているんです。それも、中途半端に形にするのではなく、ペインやニーズをしっかりと落とし込み究極のプロダクトに仕上げてしまう。「こうあってほしい」を形にするという意思が非常に強かったのだと思います。

松村:そういう意味では、Apple製品ってすべての要素が「あるべき場所にあるべくしてある」という印象ですね。ただ、じゃあそれをなぜApple以外の会社ができないんだろうという疑問は残ります。

雨宮:Appleがキャッチコピーとして打ち出した『Think different.』という言葉が、その理由の一端ではないでしょうか。つまり、ハードなことを常に紐解き、分解していく作業です。それをきっちりやり切るのがAppleなんだと思います。

松村:今回、書籍にIDEOのティム・ブラウンさんのエピソードを入れたのですが、彼曰く「そういった(Think different)で開発ができる会社はAppleとハーマンミラーしかない」ということらしいです。

徳本:雨宮さんが先ほどおっしゃったように、プロダクトに対するこだわりをビジュアルにもしっかりと落とし込み、消費者にも欲しいと思わせるだけの力がApple製品にはあります。それは、ハード、ソフト、コンセプト、メッセージなどのすべてがつながっているからだと思います。たとえばバリューチェーンもそうです。プロダクトを発表した1週間後には世界中の消費者の手元に製品が届くわけですが、それができるメーカーがどれだけあるでしょうか。Appleはつまり、バリューチェーンまで統合して完璧なプロダクトを仕上げているわけです。これこそがAppleというブランドの礎になっています。

ハードからソフトまでカバーするAppleのすごさ

松村:そんなAppleの時価総額が近年、3兆ドルを突破しました。雨宮さんは投資家の目線でAppleを見て、その成功要因をどう分析されますか。

雨宮:App Storeというアプリ配信プラットフォームがあるというのは強いですよ。あれがなければ、Apple製品であっても一般的な昔ながらのパソコンと変わらないと思います。App Storeがあることで会社のビジネスが重層化され、ライフタイムバリューの向上を実現しています。

徳本:おっしゃるとおりだと思います。Appleも最初はパソコンというハード領域からスタートしました。そこにソフトウェアやコンテンツが乗り、どんどん重層化できたのはすばらしいですよね。

雨宮:重層化といえば日本企業だとソニーが思い浮かびます。

松村:そうですね。ソニーは保険や金融も伸びているし、コンテンツ事業も強いです。Appleはそれでもまだハードウェアが主体ですが、ソニーはどんどんソフトやサービスのほうにシフトしているのは面白い対比だと思いますね。

雨宮:ただ、ソニーとAppleが少し違うのは、ソニーはそれぞれの事業が独立している印象があるのですが、Appleはハードからソフトまですべてつながっているということです。

松村:投資家としてのAppleの評価はいかがですか。

雨宮:潤沢なキャッシュフローを武器に、ほかができないことにすばやく挑戦できるという点は大きな競争優位性だと思います。これはAmazonなどにも当てはまることですが。

松村:面白いデータがありまして、アメリカはずっと年率8%くらいでインフレしています。だけどiPhoneの値段は(最安値は)あまり変わっておらず、iPhone Xが発売された2017年からずっと同じです。それでも、ハードウェア部門全体の利益率が35%から45%くらいまで上がっているんですよ。値上げしていないのに利益率が上がっているということは、顧客がきちんと価格の高いモデルにシフトしているということです。

徳本:面白いですね!

スタートアップは、Appleから何を学び、何を真似るべきか

松村:そんなAppleから、スタートアップやベンチャー企業はどんなことが学べるのか。あるいはどのようなところを真似していくべきなのか。その点についてはどう思われますか。

雨宮:重要なのは、まさにお二人が書籍でも書かれている「フレームワーク」だと思います。といっても、なんでもかんでも全部やればいいわけではありません。企業がどこを目指すのかによってもやり方は変わります。そういう意味では、シンプルなフレームワークから入っていくのがいいんじゃないでしょうか。「3C4P」とか、「5フォース」とか。それから、ミッションやビジョン、バリューなど「自分たちはどうありたいのか」についてはじっくり時間をかけて考えるべきだと思います。

徳本:壮大な野望があって、そこに行くんだという強い気持ちを持つこと。一方で、その途中には当然さまざまな困難が待ち受けていますから、ピボットすることもあるでしょう。そこで諦めない気持ちは経営者には絶対に必要です。そのうえで、僕が最強のフレームワークだと思っているのは「マルチサイドプラットフォーム」です。外部ネットワークと相互依存ネットワークなどを含め、自社の強みをどう作っていくか。それができないと、価格勝負をするしかなくなるので、勝てるわけがない。それからアライアンス戦略も重要です。1社だけで勝てる時代ではありません。ベンチャーが成長していくためには、アライアンスの組み方はすごく大事です。

雨宮:皆さんのお話を聞いて思ったことがあります。それは、「機能改善」で終わるプロダクトはそんなに成長しないということです。やはりThink different、つまり難しいことや誰もやれないことにフォーカスできないと、徳本さんがおっしゃるような価格競争に陥ってしまう。ですから、最初からコンペティターがたくさんいるブルーオーシャンではない世界に飛び込んでも、何かを覆したり壊したりできる強さというのが、僕たち投資家には魅力的に映りますね。

徳本:大切なのは「変なこと」ですよね。今までにないものを生み出すことは「変」ですし、ピッチをしても馬鹿にされることもある。だけど、最初の1人が始めることで、2人目が現れて、3人目が出てきたらキャズムを乗り越えるだけのパワーが生まれることもある。多くの人はせっかく「変なこと」を考えても、妥協してやめてしまうことがすごく多い気がしています。もちろん顧客ニーズがまったくないとだめですが、どこかで「変なこと」を認めてくれる顧客が現れたら勝負できるわけです。

松村:そういう意味だと、ジョブズ時代のAppleは今よりももっとシンプルに物事を追求していた気がします。現在の世の中はもっと複雑化した問題に直面していて、それをどうやり遂げるかというアグレッシブさがAppleにも見えてきています。個人的にはたぶんジョブズだったらVision Proにはチャレンジしなかったと思うんですよ。ただ、現在のAppleは潤沢な資金を背景にチャレンジしている状態なのかなと。

雨宮:逆に“チャレンジしなきゃいけないポジション”になってしまった面もありますよね。GAFAと呼ばれるまでになって、ほかの会社がやっていることをやらざるを得ない立ち位置になっている。

松村:AIもそうですね。Apple Intelligenceが発表されたとき現地にいたのですが、面白かったですよ。発表当日は「なんだ、ChatGPTか」という空気があって株価が落ちたのに、話を聞いているとどうも違うぞということで翌日にはまた株価が上がるという(笑)。

起業家や自治体のスタートアップ担当者、そして学生にも読んでほしい書籍

松村:本日は興味深いお話をありがとうございました。最後に今回の鼎談のきっかけにもなった書籍『最強Appleフレームワーク: ジョブズを失っても、成長し続ける 最高・堅実モデル!』の感想や、どんな人におすすめしたいかについて、雨宮さんにお聞きします。

雨宮:フレームワークってWebにもたくさん情報が落ちているし、本も出ています。でも、皆さんの頭に入っていないと思っています。なぜかというと、実践していないんですよ。フレームワークは何度か試さないと理解できません。誰かがつくったフレームワークは、自分の中に落とし込まないと使えないんです。その意味では、Appleという誰もが知っている会社をフレームワークで分解されている本書は、すごく腹落ち感があって、誰にでも理解しやすい内容だと思いました。その意味では若い方にもおすすめです。高校生や大学生にも読んでほしいですね。それから、自治体の方にもおすすめしたいです。自治体のスタートアップ担当とか、サポーターとして入っている中小企業診断士とか税理士とか、誰もフレームワークを知らないですから。

徳本:僕もサラリーマンになったころは、ひたすらフレームワークを覚えたものです。フレームワークを覚えれば、一生使える武器になりますからね。本書もそういう気持ちで執筆しました。起業家が必要なフレームワークはほとんど網羅したつもりです。起業家はもちろん、大企業の経営者や経営戦略室、新規事業の担当者などにもぜひ読んでいただき、もう一度ベンチャー魂を取り戻してほしいです。

松村:ありがとうございます。フレームワーク自体が人と話すときのツールとして便利ですよね。特にピッチだと数十秒でやりたいことを伝えられるかどうかが勝負だったりします。フレームワークを使うことですばやく伝えられますし、ほかの人がフレームワークを使って説明したときに理解できるというメリットもあります。また、Appleがなぜここまで人気のある企業なのか、という疑問を解き明かす書籍でもあるので、そこに少しでも興味を持った方にも読んでいただきたいです。

最強Appleフレームワーク: ジョブズを失っても、成長し続ける 最高・堅実モデル!

【発売】
時事通信出版局
【価格】
1980円

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著者プロフィール

山田井ユウキ

山田井ユウキ

2001年より「マルコ」名義で趣味のテキストサイトを運営しているうちに、いつのまにか書くことが仕事になっていた“テキサイライター”。好きなものはワインとカメラとBL。

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