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サングラス型ディスプレイはVision Proの代わりになるの? 「XREAL Air 2 Pro」&「VITURE Pro」比較レビュー

著者: 村上タクタ

サングラス型ディスプレイはVision Proの代わりになるの? 「XREAL Air 2 Pro」&「VITURE Pro」比較レビュー

Vision Proより安価で軽量な、サングラス型ディスプレイ「XREAL Air 2 Pro」と「VITURE Pro」は、どんなデバイスなのでしょう。

Vision Proと比較するべきなのか?

本編に移る前に前提を整理しましょう。編集部からの初期の要望は、「高価なVision Proに手が届かない人に向けて、「XREAL Air 2 Pro」と「VITURE Pro XRグラス(以降、VITURE Pro)」を紹介してほしい」というものでした。しかし、Vision Proは「空間コンピュータ」を目指しているもの、「XREAL Air 2 Pro」と「VITURE Pro」は“サングラス型ディスプレイ”というのが筆者の認識です。すなわち、3製品を同じ土俵で比べるのは違うと思うのです。

XREAL Air 2 Pro

【発売】
XREAL
【価格】
6万1980円

【URL】 https://jp.shop.xreal.com/products/xreal-air-2-pro

VITURE Pro XRグラス

【発売】
VITURE
【価格】
7万4880円

【URL】 https://store.viture.jp/products/viture-one-xr-glasses?

これらの技術は発展途上なので、多くの人の認識や名称も混乱しがち。なので、ちょっとここで用語を確認しておきましょう。まず、多くの人がすでに体験したことがありそうな、左右の目の前にディスプレイがあり、ジャイロと連動して仮想空間を表示できるのがVR。たとえば、Meta Quest 2や、PICO 4などがこれに当たります。

VR/AR/XRデバイスやサングラス型デバイス。言葉の定義はさまざまで、それぞれのデバイスの機能も違ううえに、アップデートで変化していきます。混乱するのも無理はないでしょう。

ARやXRは、現実世界の情報に、デジタル情報を追加して表示できるシステムです。典型的な例でいうと、MicrosoftのHoloLensがこれにあたります。現実に見える空間に、プリズムなどを使ってコンピュータ映像を重ねて表示する仕組みです。

しかし、現在のところ、この光学シースルー型のAR/XRにはいくつか問題があります。それは、コンピュータ側の画像を表示できる領域が狭く、また現実空間の位置に常時映像を合わせて表示するのが困難なこと。また、現実の明暗に完全に対応するのは難しく、たとえば周囲が明る過ぎるとデジタル情報のほうが薄くて見えなかったりします。

ARデバイスというよりは、サングラス型ディスプレイとした方が理解しやすい

おそらくAppleも、最初は光学シースルー型を検討したのだと思いますが、Appleが求める完成度には至らなかったのでしょう。最終的にVision Proに採用したのは、外の風景をすべてカメラで撮影して、それをデジタル情報と合成してから、両目の前のディスプレイに表示するという方式でした。

Vision Proの完成度は驚異的に高く、ほとんど現実空間のような光景に、デジタル映像を空間として合成し、それを瞬時に処理してリアルタイムに表示し続けます。これを「ビデオパススルー型AR」と呼びます。常時、見えている映像を立体として処理して合成…を繰り返しているので、当然ながら常に凄まじい処理能力を必要とし、バッテリ消費も激しいし、本体も重いし、高価になる…などの欠点を持っています。でも、体験としては理想に一番近いデバイスなのは誰の目にも明らかでしょう。

対して、サングラス型ディスプレイは、テクノロジー的には少し違うものです。

手前が「XREAL Air 2 Pro」で、奥が「VITURE Pro」。いずれも、サングラス部上部の小型ディスプレイの映像を、プリズムで目の前に投影するデバイス。

小型のディスプレイを目の前に置いている…という意味では同じですが、それはあくまでプリズムで半透過するようにした小型のディスプレイ。これをARとか、XRと呼ぶのには筆者的には少し違和感があります。

ただ、Vision Proが明確に「ビジョン」を見せたことにより、「XREAL Air 2 Pro」と「VITURE Pro」も3DoFのセンサを使って(「XREAL Air 2 Pro」の場合は、BeamBeam Proなどオプション機器が必要)特定の方向に表示を固定して、AR的表示が可能となっています。しかし、Vision Proのように現実空間の形状を把握して表示しているわけではないので、あくまでARっぽい表示に留まっていると思います。

VR/AR/XRがバズワードになっていたり、定義があいまいなので混乱しがちですが、「ユーザの誤解を招くのでは?」と思うのは、これらの製品の広告ビジュアルが、あたかも完全に空間に巨大ディスプレイが空間に固定されて浮いているように見せかけているところでしょう。

実際は、基本的には頭を動かせばディスプレイは動いてしまいますし(文字通り目の前のサングラスに映っているのだから)、視野角も40~45度ぐらいなので、「300インチの大スクリーン!」という表現は大げさだと思います。もちろん、角度によって、感じ方や考え方は変わると思うのですが。

これは、90度ぐらいの視野角(通常の視野より少し狭いぐらい)で、視界と実際の部屋の形状を取り込んで、その“空間”にコンピュータ映像を取り込んで見せているVision Proとは大きく違うといえるでしょう。Vision Proだけは、デモ映像そのままの体験が可能です。

サングラス型ディスプレイならではの機能と魅力

では、サングラス型ディスプレイに価値がないかというと、そんなことはまったくありません。

まず、映像を見たりゲームをしたりするのにはとても便利です。

軽いし、いつでもどこでも使えるうえ、かなり美しい映像をパーソナルに楽しめます。Vision Proを通勤電車の中で装着するのは、今のところ、まだかなり気恥ずかしいのですが、「XREAL Air 2 Pro」と「VITURE Pro」なら、さほど違和感なく利用できそうです。

また、パソコンでもスマホでも接続すれば、すぐに映像が見られるのも便利な点です。ためしに、MacやiPhoneに接続して映画を見てみましたが、十分に楽しめます。

Vision Proよりも軽く、空間に固定されないので、たとえばソファーに座っても、寝転がっても自分の目の前にディスプレイがあります。これは大きなメリットでしょう。

こういう楽しみ方をするにはVision Proは少々重いし、それゆえ頭への締めつけ感もあるので、ちょっと疲れます。また、外付けのバッテリと接続されているのも気になるんです。

Vision Proは本体が600~650gありますが、「XREAL Air 2 Pro」は75g、「VITURE Pro」は78gと、いずれも軽量で、文字通りサングラスのように気軽に装着することができます。また、電源も接続したデバイス側から供給されるので、電池の持ちを気にする必要はありません。

さらに、Mac、iPhone、iPad、Nintendo SwitchPS45(USB-Cで接続できないものに関しては、別途販売されるアダプタが必要)など、さまざまなデバイスに接続できるので、対応範囲も広いといえるでしょう。

寝転がってゲームができるのはポイントが高いです。ダメになりそうなほど安楽。Vision ProやMeta Quest 3はこれほど気楽には使えません。

筆者はゲームをやりませんが、ゲーム用のディスプレイとしても非常に便利そうです。モニタの表示サイズもあるので、細かい文字を読まなければいけないゲームには向かないかもしれませんが、いつでもゲームできるパーソナルディスプレイとして、とくにNintendo Switchと相性がよいのではないでしょうか。また、PS4/5をテレビとつないで遊ぶ際に、家族とテレビの取り合いになる人もいるでしょう。そのような環境なら、自室で楽しんだりするのにもいいと思います。

また、Macの外付けディスプレイとしても利用できます。視野角と解像度の関係から、筆者は大画面の高解像度ディスプレイだとは感じられませんでした。サイズ的には通常の使用距離に置いた15インチのディスプレイというところでしょうか?

当人にどう見えているかを合成してみたイメージです。ディスプレイのサイズ感は、どこにあると想像するかによって違います。膝に置いたMacと同じような距離なら15インチより少し大きいぐらい。遠くにあると考えると大きくはなりますが、文字が見えにくい。また、この画像のイメージと違い、頭がブレると映像もブレるのが案外ツラいです。

「Macの外付けディスプレイとして仕事をする」というイメージでいうと、Webブラウジングに使ったり、原稿を書くのはなんとか可能ですが、大画面の高解像度ディスプレイを使っている感覚にはなれませんでした(空間に画面を置いて、必要に応じて近寄ったりできるVision Proと比べるからかもしれませんが)。

しかし、iPhoneやiPadのディスプレイとして使うには非常に素晴らしいと思います。

iPhoneで映画を見ているイメージ。3mほど離れた壁にあると想像すれば、このぐらいのサイズ感にはなります。こちらも頭を動かすと画像も動きます。ともあれ、スマホ首の対策としてはナイス。

私も含め、多くの人が、スマホやタブレットを見るために首を落とす、いわゆる『スマホ首』になって、肩が凝っていることと思いますが、「XREAL Air 2 Pro」や「VITURE Pro」があれば、頭を上げて楽な姿勢で画面を見ることができます。

SNSを見るのにも楽ですし、YouTubeを見るのにも最適です。

とりわけ、マンガや電子書籍を見るのには最高です。頭を向けた方向にディスプレイが表示されるので、肩凝りなしに、ずっと小説を読んだり、マンガを読んだりできるのです。

電子書籍やマンガを読むのには実に快適。首を前に起こせるので、非常に楽です。

ハードウェアとしての「XREAL Air 2 Pro」と「VITURE Pro」の違い

では、買うとすれば、「XREAL Air 2 Pro」と「VITURE Pro」のどちらがよいのでしょうか?

ちなみに、価格は「XREAL Air 2 Pro」が定価が6万1980円で、原稿執筆時点では15%オフとなっており5万2680円。「VITURE Pro」は、7万4800円です。

XREAL Air 2 Pro。完全に前が見えなくなるように塞ぐカバーが付いていて、明るい場所でも映像を楽しめます。

試用した感じでのディスプレイの性能は、解像度、視野角、明るさなど、この2機種で比べるとほぼ同等だと思えます。

VITURE ProもXREAL Air 2 Proと同じようにケースが付属します。

「XREAL Air 2 Pro」は3段階、「VITURE Pro」は2段階ですが、どちらも電子式の外光を調整する仕組みを持っています。さらに「XREAL Air 2 Pro」は完全に不透明にするカバーを同梱。外光が明るい晴天の屋外で使う場合などを除けば、この点においてはさほど差はないと思ってよいでしょう。

「VITURE Pro」が特徴的なのは左右のレンズに視度調整のダイヤルを持っていること。とくに左右の視力に差がある場合は、かなり便利に感じるはずです。

VITURE Proには視度調整ダイヤルがついています。左右の視力が違っても調整できるので、これはありがたい。

眼鏡を使っている人は、どちらのデバイスも別途インサートレンズをオーダーすることができます。

「XREAL Air 2 Pro」と「VITURE Pro」の差が出る3つのポイント

両者の選択で、差が出る点は3つ。

ひとつは、空間に画面を固定した3DoF表示が可能かどうか。

「XREAL Air 2 Pro」の場合は、BeamやBeam Proなどのオプション装備が、「VITURE Pro」でも、ネックバンドが必要です。ただし、それぞれNeburaSpaceWalkerという独自アプリを使った場合のみ3DoF表示可能です。それ以外の、普通にMacやiPhoneに接続したときは、空間に固定されない、目の前にディスプレイが現われる表示です。

2つ目は、オプションアイテムの違い。

「XREAL Air 2 Pro」はBeamという3DoF表示を可能としたり、HDMIケーブルにも接続可能になる装置や、空間写真/動画も撮影可能なBeam Pro、各種デバイスに接続するためのアダプタもあります。「VITURE One」にも各種アダプタや、Switchと接続するアダプタ、PS4/5他のデバイスとリモート接続を可能にするアダプタなどが用意されています。それぞれ、何との接続を重視するかによって、セット価格は変わってくるでしょう。

3つ目は、アプリケーションレイヤーの違い。

先に述べたNebura、SpaceWalkerという、それぞれのデバイス上で動くアプリケーションの機能に違いがあります。筆者が試した時点では、SpaceWalkerのほうが若干洗練されているように思いましたが、ここは今後のアップデートによって状況が変わるでしょう。

どちらを選ぶかは用途次第

シリーズとして普及しているのはXREALなので、さまざまなオプションなども含めて、入手性や、入手してからの対応の安心感は「XREAL Air 2 Pro」のほうが高いように感じます。

対して、ハードもソフトも「VITURE Pro」のほうが若干洗練されているように感じました。

しかし、いずれも差はわずか。Mac、iPhone、iPadの、外付けサングラス型ディスプレイとしては、どちらを選んでも機能としてはほぼ同等。どのデバイスと接続して使うか、どういう用途に主眼を置くかによって、どちらの製品のほうがよりパッケージとして安価か、あなたの用途にフィットするかは違ってくるはずです。

あなた自身の用途を考えて、オプションデバイスを組み合わせて、機能と価格を比較検討してみてください。

著者プロフィール

村上タクタ

村上タクタ

Webメディア編集長兼フリーライター。出版社に30年以上勤め、バイク、ラジコン飛行機、海水魚とサンゴ飼育…と、600冊以上の本を編集。2010年にテック系メディア「ThunderVolt」を創刊。

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