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第17話 “老いる”という意味

著者: 三宅 琢

第17話 “老いる”という意味

※本コラムは「Mac Fan 2022年1月号」に掲載されたものです。


今回は東京大学が行っている「GBER(ジーバー)」というサービスから、日本の高齢者について考えてみたいと思います。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、「Uber Eats」に代表される利用者と提供者をつなぐサービスが広く普及しました。GBERもその1つですが、彼らのサービスには、これからの時代を生きるうえで大切なメッセージが隠されています。

ジーバーとは元気高齢者の地域活動をサポートするウェブプラットフォームです。地域の元気高齢者を集めるという意味の英語である“Gathering Brisk Elderly in the Region”の頭文字を取り名付けました。名前はウーバーに似ていますが、地域の移動のニーズと人を乗せることのできる車とのマッチングを行うウーバーに対して、仕事、ボランティア、趣味や生涯学習などのあらゆる地域活動とそれに参加したいおじいちゃんおばあちゃんとの社会参加を促進するためにジーバーを研究開発しました。

GBER公式サイトより抜粋

ジーバーは、東大の研究室が高齢者の経験・知識・技能を社会の推進力とするICT基盤「高齢者クラウド」の研究開発として生まれました。たとえば植木や庭の手入れなど、高齢者たちに提供できるスキルを登録してもらい、一つの業務を複数の高齢者で担当することで、仕事として成立させるシステムです。

高齢者の人口が増えることが課題としてよく報道されていますが、高齢者が増えることの“本当の課題”はどこにあるのでしょうか? 介護関係の仕事をする友人が、こんな言葉を教えてくれました。

「高齢者が幸せに生きるためには、高齢者が教育と教養を持つことが重要です」

もっともらしい台詞に聞こえますが、彼は笑顔でこんな言葉を続けました。

「“きょういく”とは今日行く場所があることであり、“きょうよう”とは今日人と会う用事があることです。毎日行く場所と用事がある高齢者は、皆生き生きとしています

かつて高齢者は「町の物知り」であり、知識と経験に基づいた「叡智の人」という頼れる存在でした。しかしいつの頃からか、保護し介護すべき対象としての印象が強くなり、社会の重荷のように取り扱われているように私は感じます。

病気や障害を理由に介護が必要になることは当然ありますが、私の祖母は100歳で他界する直前まで、物書きを続けて人生を全うしました。“人生100年時代”と言われる現在、長く生きられることと幸せに生きられることは、必ずしも同じではないと言えます。

情報が溢れる現代だからこそ、戦争や震災などの経験でしか得ることのできない叡智や教訓を次の世代へと紡ぐための高齢者は、貴重な存在と言えます。いずれ高齢者に仲間入りをする立場として、人生の先輩方に学ぶ姿勢を持って、老いることの意味を考えるべき時期なのかもしれません

「老いる」とは、人生に無駄がなくなり、人の味が出ること。

著者プロフィール

三宅 琢

三宅 琢

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。

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