他人をうらやんだり、過去の後悔や将来への不安にとらわれたりする暇があったら、今目の前にあることに真摯な気持ちで取り組んだほうがいい。
いきなり転職などの決断をする前に、まずは今の環境を活用して、後に役立つ「ベーシックスキル」を習得すべく集中してみることをぼくは強く勧める。
それをしっかり身につけ、周囲より社会人としての信頼を得ることができて初めて、次のステップに進むことができる。いよいよ、仕事で成果を生み出すための「専門スキル」を手にすべく臨むのだ。
今の仕事がおもしろくない? 職場を好きになれないって?
なら、こう考えるといい。職場は「お金をもらいながら通えるビジネススクール」だと。そして、上司や先輩をビジネスコーチと考え、日々のタスクをトレーニングメニューだと捉えてみてほしい。
この「準備期間」の重要さをより理解してもらえるよう、ぼくのエピソードを事例としてあげて解説してみたい。
大学新卒からソニー・ミュージックエンタテインメントで約9年働き、そのあとワーナーミュージックに約5年半在籍。ソニーミュージックに入社して最初の2年間は、営業として小さなCDショップをまわった。しかし、幼少期から人嫌いだったぼくは営業活動が苦手だったため、いつもお店の人に「すみません、すみません」と謝る日々。
そんなダメ営業マンとして悶絶しながらも、厳しい先輩たちに、大切なビジネスマナーの基礎の基礎を叩き込まれた。
そのあと東京本社に異動となり、メディア宣伝とアシスタント・プロデューサーを兼務。過去もっとも激務だったその3年間、たいした結果も出せず、仕事に自信を持てないまま過ごす。
そんな最初の5年間は、会社の評価はずっとほぼ最低。しかし、その間にぼくは何人かの厳しいコーチたち(上司や取引先)に鍛えられ、どんな業界でも通用する、社会人として必須の「ベーシックスキル」を身につけることができた。
いよいよぼくが、その応用編ともいえる「専門スキル」を手にすることができたのは、それ以降のことだ。
プロデューサーとして2001年から担当したCHEMISTRYでアルバム売上300万枚という記録的な大ヒットを経験。その3年後にワーナーに転職し、のちにミリオンヒットを記録する絢香、そしてSuperflyに出会うことになる。約10年間、彼らアーティストたちのプロデュースワークに全精力を注いでいるうちに、いつのまにか今の働き方を支える専門スキルを身につけていた。
また、レコード会社に勤務した15年間は、どんなに忙しくても森や湖に出かけ、毎年のようにニュージーランドへ通うことを欠かさなかった。
2009年末、長年の夢が叶い、ニュージーランドの永住権を取得。それを受けて退職して、自身の会社を設立。移住後は、日本との行き来をする、2拠点生活をスタートすることに。(次号へ)

※この記事は『Mac Fan 2019年8月号』に掲載されたものです。
著者プロフィール

四角大輔
作家/森の生活者/環境保護アンバサダー。ニュージーランド湖畔の森でサステナブルな自給自足ライフを営み、場所・時間・お金に縛られず、組織や制度に依存しない生き方を構築。レコード会社プロデューサー時代に、10回のミリオンヒットを記録。Greenpeace JapanとFairtrade Japanの日本人初アンバサダー、環境省アンバサダーを務める。会員制コミュニティ〈LifestyleDesign.Camp〉主宰。ポッドキャスト〈noiseless world〉ナビゲーター。『超ミニマル・ライフ』『超ミニマル主義』『人生やらなくていいリスト』『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』『バックパッキング登山大全』など著書多数。