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「教育×マイクラ」の学習効果

著者: 神谷加代

「教育×マイクラ」の学習効果

直感的に“教育に使える!”

─マイクロソフト認定教育イノベーター(Microsoft Innovative Educator Expert)の皆さんがそもそもマインクラフトを知ったきっかけは何でしょうか。一般的にはマインクラフトはゲームとして知られていますが、教育現場で活用するにあたり抵抗はなかったでしょうか?

Microsoft Innovative Educator Experts

安藤昇 Noboru Ando

Microsoft Innovative Educator Experts 2018/佐野日本大学高等学校・佐野日本大学中等教育学校・ICT教育推進室室長。プログラミングや映像制作に精通し、教育版MinecraftのYoutubeサイトを開設、人気を博している。監修本として『マイクロソフト認定教育イノベーター教本 ハナのマイクラでプログラミング冒険』、共著『子どもの才能を引き出す最高の学び プログラミング教育』がある。

星野尚 Hisashi Hoshino

Microsoft Innovative Educator Experts 2018/那須町教育委員会学校教育課プログラミング教育推進SV/那須塩原クリエイティブ・ラボ代表。高等学校講師・教員、産業技術総合研究所での研究開発従事等を経て、現職に至る。著書『親子で学ぶプログラミング超入門』、共著『RaspberryPiではじめるどきどきプログラミング』があり、Minecraft活用分野開拓を探求中。

ドゥラゴ英理花 Erika Drago

Microsoft Innovative Educator Experts 2018/Microsoft Minecraft Global Mentor 2018/武蔵野大学附属千代田高等学院 ARCコーディネーター/教諭(情報)。ワシントン大学留学中に情報・プログラミング教育を学ぶ。国際バカロレアコース指導、情報教育と英語教育のコラボレーション、Minecraftとドローンを使用したプログラミング教育等、探究型の授業実践を行う。

安藤●自分の子どもがユーチューバーの公開しているマインクラフトの動画を見ていて、“遊んでみたい”と言い出したんです。それが最初に知ったきっかけですね。自分もゲームをきっかけにプログラミングを学び始めたので、子どもが面白いゲームに出会って、自分も作ってみたいという気持ちが生まれたらいいなと思っていました。学校でマインクラフトを使ってみた理由は、世界で一億人近くプレイヤーがいるのでプラットフォームとして強いと感じたからです。プログラミングが苦手な教員にも理解を得られるかなと注目しましたね。

ドゥラゴ●私は前任校が小中高の一貫校だったのですが、そのときに小学生たちが遊んでいるのを見て知りました。当時はまだ教育版のマインクラフト(以下、マインクラフトEE)がありませんでしたが、それでも学校のクラブ活動で使い始めたのです。学校の授業でマインクラフトを使うのは、特に抵抗はなかったですね。むしろ今の子どもたちにとってはゲーム感覚で学べる点も重要で、そうした教材も多いため、ゲームと教材の区別をつけずに子どもたちの好きなものを教育に活かしたいと思っていました。

星野●私はプログラミング教室を運営していまして、そこに来る子どもたちがマインクラフトで遊んでいたのがきっかけでした。自分もやってみたのですが、今までのゲームと違ってプレイヤーが自由にいろいろなことができるのに驚きました。ある子どもがレッドストーンブロックを使って仕掛けを作っていたのを見たときも、子どもに「これはプログラミングだね」と言うと、「私はマイクラをやっています」という返事が返ってきて。子どもたちはあくまでマインクラフトの世界で遊んでいて、その中でプログラミング的な考え方を自然と身につけているのだなと思い、教育に活かせる可能性を感じました。

─教育現場でマインクラフトを使い始めたときは、どのようなことをされたのですか?

安藤●学校ではいきなりマインクラフトを使うのではなく、最初はプログラミング学習支援団体である「コードオルグ(Code.org)」が提供する学習教材「マインクラフト アワー・オブ・コード(Minecraft Hour of Code)」から使い始めました。というのも、マインクラフトをまったく知らない生徒も多いですし、3D操作に慣れていない生徒もたくさんいるからです。

その点、マインクラフト アワー・オブ・コードは2次元ですし、ブロックを組み立てたり、壊したりするなどマインクラフトの世界観を知りつつ、プログラミングも体験できます。そして、その後にマインクラフトEEでプログラミングに挑戦しました。繰り返し処理でマインクラフトの世界に階段を作ったり、動物をいっぱい出したりしたのですが、生徒たちが最初からとても盛り上がったことを覚えています。

また、個人的にマインクラフトのプログラミングで好きなのは、ブロックを破壊できるところです(笑)。大抵のプログラミング教材は作ることばかりなのですが、マインクラフトの場合はプログラムで“壊す”ことができるんです。これが本当に楽しくて。私はそこに新鮮さを感じましたね。作ったり、壊したり、生徒が個々にやりたいことができるツールだと思ったんです。

ドゥラゴ●私は最初から、マインクラフトEEを使いました。マインクラフトEEには初心者向けのチュートリアルがあって、それを使うとキーボード操作やマインクラフトの世界観を体験できるんです。生徒たちにはチュートリアルで覚えてもらいました。その後、プログラミングを行ったのですが、それも、“さあ、今からプログラミングをするよ!”という感じではなくて、マインクラフトを楽しんでいたら自然にプログラミングの学習に移ったという感じでしたね。

星野●私のほうは学校での活用ではなく、栃木県那須町にある那須歴史探訪館のプロジェクトで使い始めました。そこには、歴史に興味のある中学生が学芸員として活動できるジュニア学芸員制度があるのですが、その生徒たちを対象に地域の重要文化財をマインクラフトで再現する活動をしました。もともと歴史が好きな生徒たちが来ていたので、プログラミングの知識はなく、マインクラフトを知っている生徒が一人しかいないという状況で使い始めました。

今までにない学びを実現!

─マインクラフトを使ってどんな学習・教育活動をされましたか?

星野●“那須町の失われた風景を再現しよう”という目的のもと、ジュニア学芸員の生徒たちが地域の重要文化財である「三森家住宅」をマインクラフトで再現しました。まずはマインクラフトを知っている生徒を中心に真っ平らのワールドに共同建築するところからスタート。すると、“建物の中ってどうなっているんだろう”という疑問が生まれ始めるんですよね。そこから、“じゃあ、現地に見に行ってみよう”と現地調査を始めるのですが、実際に行ってみると、生徒たちが作っていた建物は真っ平らな場所にはなく、高台にあるのです。生徒たちにしてみれば、もう一度作り直したいけど、手動で行うのは大変だと気づき、そこで初めて“プログラミングで地形を変更しよう”という結論に至りました。こうした困難にぶち当たってどうすればいいかを考えたときに、課題解決の手段としてプログラミングの必要性を感じとってもらえました。

ドゥラゴ●現在私が教諭を務める千代田高等学院は、今年で130周年を迎えます。そこで何か記念になるプロジェクトがしたいと考えて、安藤先生に協力をお願いしました。学校の上空にドローンを飛ばして、校舎のデータを読み込み、それをもとにマインクラフトで校舎を共同建築するプロジェクトを実施したのです。本校が設けている探究コースにも合致していた点も後押しとなりました。

マインクラフトは新しいテクノロジーと組み合わせたり、建築に興味を持ったり、協働作業が入ったりと、いろいろな学習に発展できると思っています。この秋に生徒たちはシアトルへ研修に行ったのですが、その際にマイクロソフト本社を訪問し、マインクラフトチームの前で完成した校舎をプレゼンしてきました。

安藤●今まで測量というのは、高価な機材でしかできなかったのですが、ドローンの登場によって簡単に安く、3Dモデリングができるようになりました。このデータを活用し、マインクラフトの中で現実に存在するものを再現したらリアリティを感じるモノづくりができるのではないかと思ったのです。

なぜなら、子どもたちは実在するものを作るほうが真剣に向き合うんですよ。きっと“本物に近づけたい”という気持ちが生まれるんでしょうね。千代田高等学院の生徒たちは本当に集中して何カ月もかけて作り、作品もよく再現されていると思います。マインクラフトは生徒をそんな気持ちにさせてくれるツールですね。

星野●それ、よくわかります。私の取り組みでも“来館者に見せるコンテンツとして使うよ”という前提で作っているので、中学生といえども真剣です。マインクラフトの場合は、仮想空間といっても現実の世界とうまくリンクしていますし、社会ともつながりやすいので、生徒たちが取り組む真剣さが違うのかもしれません。

那須町のジュニア学芸員(中学生)の生徒たちが取り組んだ作品。地域の重要文化財である「三森家住宅」をMinecraftで再現した。最初はフラットな土地に作ったが、現地を調査してみると建物が高台にあることが判明。プログラミングで地形の高さを変更した。

生徒の個性を再発見できる

─マインクラフトを使った学習では、生徒たちにどのような変化がありましたか? また、マインクラフトを教育で活用するメリットは何ですか?

安藤●生徒の変化というよりは、マインクラフトを通して自分が学ばされることのほうが断然多いです。たとえば、プログラミングの授業をマインクラフトで行った場合、「ブロックを積み上げなさい」という課題ひとつに対しても、プログラミングで解決しようとする生徒がいる一方で、自分の手で積み上げたほうが早いと判断する生徒も出てきます。

私は、この気づきこそがすごく大切だと思っています。教員が言ったからプログラミングをするのではなく、そもそもの目的に対してプログラミングが有効かどうかを自ら考えられるというのは、とても大事なことなのです。そういう意味で、マインクラフトで授業をすると、生徒たちは目的意識を持ちやすいのか、いろいろなアウトプットを見せてくれます。他の人と協力して答えを出したり、自分の力だけでやったり。そんな生徒の姿を見ていると、改めて、“やり方はひとつじゃない”ということを自分が学ばされた感じです。目的に対して、自分ならどういうやり方で達成するのかという視点を持てる、非常に面白い教材だと思っています。

ドゥラゴ●本校で初めてマインクラフトのマルチプレイをしたときに、A組とB組で大雑把にグループを分けてしまいました。そうしたら生徒たち、マインクラフトを学校でやることが珍しかったせいか荒れ始めて…。TNT(爆発を起こすのに利用されるブロック)を使ってあちらこちらで爆破して盛り上がったりしていました。

一同●“あるある”と笑いながら頷く。

ドゥラゴ●自分としては、まさか、こんなことになるとは思いもしなかったのですが、生徒たちにとってはもともとゲームだったわけですし、学校でどのように教育活用できるかはこれから学んでいけばいいかなと考えて使っていました。その後、グループを細分化し、グループの役割を与えたら、一気に上手に取り組めるようになりましたね。プログラミングの得意な子、建築の得意な子、情報収集が得意な子という具合に、自分たちで役割分担しながらプロジェクトを進めるスキルがついてきました。

生徒たちは最初、「なんで授業中にマインクラフトなの?」と感じていたと思うのですが、プロジェクトを進めるうちに、ゲームだと思っていたコンテンツが実はいろいろなことを学べるツールだと気づき、しかも、それによって自分たちのスキルも高まってきたのを実感できているようでした。宿題も出していないのにやり続けたりして。ドローンとのコラボも良くて、生徒たちはマインクラフトを通して今まで知らなかった分野や新しいことに触れる楽しさを感じるようになってきたのだと思います。

星野●自分の場合は少人数でしたが、ドゥラゴ先生と同じようにハプニングが発生しました(笑)。マインクラフトの世界に作った重要文化財に囲炉裏の部分があるのですが、そこから上に伸ばした木に火が燃え移ってしまって、バケツで急いで消火したんです。

マインクラフトはリアルな世界でも起こりうることが起きるので、生徒もハプニングに遭遇します。でも、その度に子どもたちがどうすればいいかを自分たちで考えるのが良いなと思います。それ以来、チームの結束力が固くなった気がします。

ドゥラゴ●あとは、発表する力、伝える力も伸びたなと感じますね。マインクラフト使う学習は、作品を発表する場面が多いし、生徒たちも伝えたいことが多いので、人前で話す力がついたと思います。

星野●それは、私も同感ですね。あるイベントで生徒たちに作品をプレゼンしてもらったのですが、自らの経験を自分の言葉で語ってもらうために、あえて原稿もナシ、練習もナシで本番に挑んでもらったのです。でも結果として、とても良いプレゼンをしてくれて。自分たちで作って、自分たちが経験してきたことだからこそ、原稿がなくても伝えられるんだなと感じました。

安藤●マインクラフトって、生徒の個性を引き出してくれるし、個々の個性に応じた学習が可能だなって思います。マインクラフトEEでは化学アップデートによって化学実験ができるようになりましたが、これも生徒たちの創造性をかき立ててくれますよね。

また、現在はアクアティック・アップデートもされて海の世界も充実してきました。生徒たちは“みんなが驚くような水族館をつくりたい”と話していて、創作意欲が湧いてくるんだなと思います。まだまだ生徒の個性を引き出せるんじゃないかと思いますね。

ドゥラゴ●そのとおりですね。私たちはマインクラフトEEとプログラミングを活用する授業が多いですが、ほかの教員の話を聞くと、マインクラフトで物語を作っている人もいるし、語学教材として活用している人もいます。教員が何を教えたいかによっていろいろ使えるツールなんだなと思います。だから、まずは教員自身がマインクラフトで遊んで、触ってもらって、いろいろ発見していくのが重要だと思います。

千代田高等学院ではIB・探究コースの生徒がMinecraftを活用したプロジェクトに挑戦。ドローンを自動航行させて連続撮影したあと、3Dモデリングのデータに生成し、そこから建物の高低差をDEM(数値標高モデル)で分析。プログラミングを活用してMinecraftのワールドで校舎を再現した。

iPad版でハードルが下がる!

─マインクラフトEEのiPad版がリリースされました。どんな点を期待されますか?

安藤●今の子どもたちは、タッチパネルのマインクラフトに親しんでいる子のほうが圧倒的に多いので、さらに子どもたちがとっつきやすい環境になったと思います。私は小学生の子どもたちにプログラミングを教えているのですが、マインクラフトはコンテンツとして本当に人気があるので、子どもたちにプログラミングへの興味をもたせやすくなったと思います。

あとは、iPad版の場合は、Macを用意すればプログラミング画面とマインクラフト画面を別々に表示できるのがいいですね。ウィンドウズは同じスクリーンで2画面を操作するのですが、子どもによっては切り替えの誤操作が多いんですよ。この点、学校で実施するときのハードルが下がったのではないでしょうか。

ドゥラゴ●iPad版が出たことで、マウスやキーボード操作に慣れていない小学校低学年の児童や幼稚園児など、低年齢の子どもたちが使える環境になったと思います。ただし、小さい子どもだと3Dに酔う子もいるので、休憩時間を取りながら遊ぶといった工夫も必要ですけどね。またiPadを導入している学校が増えていますが、家庭にデバイスを持ち帰るケースも多いので、お父さんにプログラミングを見てもらうとか、保護者の方にマインクラフトを見てもらえる機会を作れるのがいいなと思います。

星野●那須町は全小学校がiPadを導入しているのですが、今、日本全国にそうした自治体が増えています。だからiPad版のマインクラフトEEが出るのはとてもありがたい。那須町ではプログラミング学習のときに使うiPadにはマインクラフトEEを入れました。しかも、LTEのiPadを導入しているので、外にiPadを持って行って実際に建物を見ながらマインクラフトEEで建築するという、新しい形の表現活動ができたりもするんじゃないかと思っています。

iPadとMacがあれば、写真のようにMinecraftの画面をiPad側に表示して、プログラミングの画面をMac側で表示するなど、使い分けることができる。特にディスプレイの狭い場合は、2画面操作をするのは大変なので、学校で導入するときのハードルが下がった。