Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日: 更新日:

通称“マイクラ”、ヒットの理由

著者: 神谷加代

通称“マイクラ”、ヒットの理由

マインクラフトの基本

「マインクラフト(Minecraft)」、通称“マイクラ”と呼ばれるゲームを知っているだろうか。おそらく、小中学生くらいの子どもを持つ親なら知っている方もいるだろう。マインクラフトは今、小中学生を中心とした子どもたちに大人気のゲームで、日本のみならず、世界中で爆発的なヒットを記録している。

そもそもマインクラフトは、2009年にスウェーデンで生まれたゲームで、現在は米マイクロソフトが展開している。発売から長い年月が過ぎた今でも、世界中で人気を博しており、PC版、スマートフォン版、ゲーム専用機など、すべてのバージョンを合わせた売上本数は1億5400万本(2018年10月時点)を突破。2018年夏の月間アクティブユーザ数も9100万人を記録し、世界第2位の売上本数を誇る。

マインクラフトは、どのようなゲームなのか。簡単に言うと、“ブロックでできた仮想空間の中で、ものづくりや冒険が楽しめるゲーム”だ(1)。「ワールド」と呼ばれる仮想空間は、すべてが3Dの立方体で構成されており、ひとつのワールドには草原や湿地、砂漠、雪原などさまざまな地形が広がる。その中でプレイヤーは、木や岩、鉄や金など、さまざまな種類のブロックを集めて、組み立てたり、壊したりしながら、自由なものづくりや冒険を楽しむ。マイン(=mine)が鉱山、クラフト(=craft)が手仕事・手作業を意味し、砂場で山や城を自由に作って遊ぶ感覚と似ていることから、マインクラフトは「サンドボックス(=砂場)ゲーム」と呼ばれている。

(1)仮想空間に何を作る!?

Minecraftには、ワールドと呼ばれる仮想空間の中に、さまざまな気候の地形やスポットが存在する。図は草原、砂漠、氷山、村。プレイヤーは、この中を自由に動き回ることができ、この空間でどう遊ぶのかを自分で決める。

人気があるのはなぜ?

マインクラフトが世界中で人気なのはなぜか。その理由は明白で、今までになかったゲームだからだ。中でも一番の魅力は、プレイヤーがゲームの中で“自由”になれること(2)。マインクラフトには他のアクションゲームやロールプレイングゲームのように勝敗や得点を競い合ったり、制限時間内にステージをクリアしたりといった、決められたゴールやルールが存在しない。

あるのは、3Dブロックで作られた世界のみで、その中でプレイヤーが気分の赴くまま動く。「今日は家をつくろう」とか、「知らない場所に行ってみよう」という具合に、自分で“やりたいこと”や“作りたいもの”を決めて遊び方を見つける。

実際に、子どもたちに “なぜ、そんなにマインクラフトが面白いの”と聞いてみると、“自由だから”との答えが圧倒的である。“自由にモノを作ることができる”“自分で目的を決めることができる”など、「プレイヤーの自由度の高さ」に魅力を感じているのだ。

(2)シナリオは一切なし

Minecraftには決められたゴールやルール、ゲームのシナリオが存在しない。ただし、ワールド内は時間の概念があり、昼は10分、夜は7分の間隔で1日が過ぎていく。プレイヤーは明るい間に何をするべきか考えなければならない。

遊びは「建築」と「冒険」

マインクラフトの遊び方は、大きく2つに分かれる(3)。1つは、さまざまな色やテクスチャーのブロックを組み合わせて建造物や装置、モノを作る「建築」と、もう1つはワールド内の秘境の地に生息するラスボス“エンダードラゴン”を倒したり、ワールドの中を自由に動きまわる「冒険」だ。基本的にはプレイヤーが何をしようと自由で、エンダードラゴンも倒す必要はないが、マインクラフトではどんな遊び方をしようとも、プレイヤーの情報収集がゲームを進める鍵となる。

なぜなら、マインクラフトはゲーム内で“次はこうしなさい”とか“〇〇を集めなさい”といった説明や指示があるわけではないからだ。たとえば、空腹を満たすためのパンを作りたい場合は、小麦の栽培から始めなければならない。その手順は、小麦の種を集め、道具で畑を耕し、水を引き、さらには外敵から守るために畑のまわりをフェンスで囲む。そうしなければ、小麦は枯れて、畑も外敵に攻撃されてしまう。

しかし、こうした手順や情報はゲーム内で指示されるわけではなく、WEBサイトや動画、書籍、仲間からのアドバイスなどを手掛かりに、すべて自分で情報収集しなければならない。大抵の場合、自分でやってみて失敗してから、“他の人はどうやっているんだろう”“何か良い方法はないだろうか”と調べるのだが、こうしたトラブルをひとつひとつ自分の手で解決していく楽しみがある。ゲームを知らない大人から見れば、“なんと手間のかかることか…”と思われるかもしれないが、プレイヤーから見れば、この試行錯誤に“ハマって”しまうのだ(4)。

ちなみにマインクラフトを愛するプレイヤーたちはネット上で多くの情報を共有し、作った建造物や遊び方を披露している。こうした情報を手がかかりに、“自分もこんなものを作ってみたい”と思わせてくれるのがマインクラフトの魅力でもある。

(3)遊び方によってモードを選択

Minecraftには、主に2種類のゲームモード「クリエイティブモード」と「サバイバルモード」がある。「クリエイティブモード」は、建造物や装置、ものづくりなど「建築」に専念できるモード。Minecraftのすべてのブロックを使用することが可能で、外敵から攻撃される心配もない。

「サバイバルモード」は、自分の命を守りながら冒険し、できることを増やしてワールド内の生活を充実させていく。外敵から襲われることもあり、体力ゲージや空腹感のバロメータに注意しながら、死んでしまわないようにプレイする。

(4)建物を作る面白さ

Minecraftではさまざまな建造物を作ることができる。図は遊園地、図書館、迷路。いずれも小学生が作った作品だ。

マルチプレイも魅力

マインクラフトのもうひとつの魅力は、マルチプレイで仲間と楽しめることだ(5)。通信機能を使えば、複数のプレイヤーがひとつのワールドに同時にアクセスすることが可能で、仲間と一緒に何かを作ったり、冒険したりできる。一人で建築をしていたときは小さな家しか作れなくても、仲間と一緒に作業をすれば、巨大な城を築くことも可能だ。

子ども向けのマインクラフトのイベントでは、マルチプレイを利用して「未来の街をつくろう」といった共同建築のワークショップが開催されている。子どもたちが未来の街に必要なものを考えて話し合い、それを実際に形にするという活動だが、それをマインクラフトで行うとなると、子どもたちは大いに盛り上がる。“街のエネルギーを太陽光にしてみました”とビルの屋上に日照センサのブロックを並べたり、“地域に観光客が来てくれるように海辺に地元の特産が食べられるカフェを作りました”と自分たちのアイデアを形にするなど、一人で遊ぶときには得られない楽しみがマルチプレイにはある。

(5)みんなと楽しめる

Minecraftでは、複数のプレイヤーがひとつのワールドに入って一緒に作業ができる。図はMinecraft EEを使って4人のプレイヤーがプログラミングの課題に挑んでいるところ。壁面の空いた箇所までキャラクターを動かし、ブロックを埋め込むプログラムを考える。

教育版の利活用 

マインクラフトには教育機関向けに作られた“教育版”がある。「マインクラフトエデュケーションエディション(Minecraft:

Education Edition)以下、マインクラフトEE」と呼ばれ、2016年11月に米マイクロソフトからリリースされた。

読者の中には、“ゲームが学校の教材になるの?”と思われる方もいるだろう。しかし、アメリカでは金融教育のツールとしてボードゲームの「モノポリー」が生まれるなど、ゲームを教育に活用するアイデアは海外では古くからある。マインクラフトも同様で、教育的価値があると考える教育者らを中心に、学校などで使われ始めた。

ただ、通常のマインクラフトを使うのは教員の準備も多く、児童・生徒の管理も煩雑である。そこでマインクラフトEEでは、学校の授業で使いやすいよう教育機関向けにカスタマイズされた機能が盛り込まれている。授業の進行を支援する「クラスルームモード(Classroom Mode)」や、児童・生徒たちが作った建造物をカメラで撮影して共有・保存できるポートフォリオ機能などがそうだ。また、マインクラフトはSTEM教育と親和性が高いことから、プログラミング学習機能「コードビルダー(Code Builder for Minecraft: Education Edition)」も用意されている(6)。

(6)STEM教育に活かせる

Minecraftでは「レッドストーン」と呼ばれるブロックを使って、“レバーをオンにすればランプが点灯する”といった簡単な仕掛けや装置を作ることができる。さらには、レッドストーンを駆使して電子回路のような装置を作ることも可能。図は、クロック回路を用いた打ち上げ花火の装置。STEM教育のひとつとして授業で取り入れる学校もある。

教育的効果とは?

教育者たちがマインクラフトを教育に使えると魅力を感じる理由は何か。海外の関連書籍や教育者のブログなどを読むと、なによりもマインクラフトに対する子どもたちのモチベーションの高さを学習に活かさない手はない、と考えている人が多い。たとえば、苦手な算数であっても、マインクラフトを使って面積や体積を考えるのであれば、子どもたちはそれだけでテンションが上がる。授業への参加感、学習への興味・関心を高めるために活かしているのだ。日本人の発想としては、こうした教材の与え方は子どもに迎合しすぎといった意見もあるかもしれないが、海外では子どもたちの好きなものを教育に取り入れる動きがある。

そして、もうひとつ、マインクラフトを使うと今までになかった学習ができると考える教育者も多い。昨今、学校教育の現場ではコミュニケーションやコラボレーション、創造性など、グローバル社会で生き抜くために必要な21世紀型スキルを伸ばすことが求められている。しかし、このような力は教員が知識を伝授するような一斉授業で身につくものではない。そのため、学校現場ではアクティブ・ラーニングや課題解決型学習など、さまざまな授業スタイルが取り入れられているが、マインクラフトは、こうした新しい学習スタイルの教材として有効だと捉えられている。

なぜなら、マインクラフトの持つ“自由なものづくり”や“マルチプレイによる共同作業”からは、学習者同士の新たなコミュニケーションやコラボレーションが生まれやすいからだ(7)。皆のアイデアを形にし、試行錯誤を繰り返しながら、ひとつのミッションを達成する学びが行いやすい。協働作業、意見交換、情報共有、課題解決、役割分担、助け合いなど、さまざまな教育的価値がマインクラフトには詰まっている。

もちろん、マインクラフトを使わなくても21世紀型スキルを伸ばす学習はできる、という意見もあるだろう。しかし、忘れてはならないのは、子どもたちのマインクラフトに対する思い入れだ。マインクラフトというだけで、やる気が倍になり、“良いものを作りたい”“みんなを驚かせるものを作りたい”とモチベーションが高まる点は、他の教材とは圧倒的に異なる。多くの教育者は子どもの原動力を引き出せるマインクラフトというコンテンツの強さに魅力を感じており、教育的に活用する価値があると考えているのだ。

(7)楽しめるワークショップ

共同建築のワークショップで子どもたちが作った三重塔。どのように作られているのか、参考になる設計図をネットで検索。それを見ながら完成形のイメージを共有し、ひとつの作品を作った。

教育版がiPad対応

そして、マイクロソフトは2018年9月にiPad版の「マインクラフトEE」をリリースした(8)。今の子どもたちはPC版やゲーム専用機よりも、スマートフォンやタブレットのマインクラフトに親しんでいる。すでにiPadでは「マインクラフトBE(Bedrock Edition)」を使って遊ぶことができたが、iPad対応の教育版がリリースされたことは大きい。特に日本においては、私立の教育機関を中心に児童・生徒がiPadを一人1台所有するなど、ICTを活用した学習に取り組む教育者が増えている。マインクラフトEEはすでに、ウィンドウズ導入校の教育者たちを中心に授業での活用も進んでいるので、iPad導入校でも活用の広がりが期待される。

繰り返しになるが、マインクラフトEEはこれまでなかった新しい学習が実現できるツールである。日本の教育現場には“教育とはこうあるべき”、“勉強とはこうあるべき”といった既成概念が色濃く残っているが、本来は子どもたちが本当の意味で“熱くなれる”学習を届けるべきだ。マインクラフトは遊びと学びの境界線がなくなる世界。子どもたちの未来につながる力を育てるためにも、マインクラフトEEがさらに普及してほしい。

(8)新しい教育的効果

日本マイクロソフトでは教育関係者を対象にMinecraft:Education Editionを活用した授業の研修会などを定期的に開催している。