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SNS台頭後に盛り上がり始める“能動的な”情報収集

著者: 三橋ゆか里

SNS台頭後に盛り上がり始める“能動的な”情報収集

アメリカに来てから習慣になったポッドキャストの視聴。「チューンイン(TuneIn)」というラジオアプリで、ITニュースから食やカルチャーに至るまでさまざまな情報収集に活用しています。

ポッドキャストの人気は、ここ数年でうなぎのぼり。アメリカでは、過去4年間でその視聴者数は倍増。6800万人、つまり約4人に1人が毎月何らかポッドキャストを視聴しています。視聴者の多くはミレニアル世代で、全体の半数弱(44%)を18~34歳が占めるそうです。

ニューヨークなどの大都会を除く大半が車社会のアメリカでは、もともと運転中にラジオを聞く文化があるため、ポッドキャストという選択肢は自然です。運転しながら、歩きながら、ジムで汗をかきながらなど、“ながら”作業でできてしまうことも、忙しい現代人に支持される理由のひとつだと言えます。

デジタル音声というメディアは古くから存在し、決して新しいものではないにもかかわらず、今になって人気が高まっている。アメリカでは、同じことが最近メールマガジンでも起こっています。日本では、有料メルマガの配信といえば「まぐまぐ!」がありますが、同等のサービスがアメリカで台頭しているのです。

2017年10月にサービスを開始した「サブスタック(Substack)」は専門分野を持つライターに対して、新たな収入源を提供する目的で開発されました。開始当初は有料メルマガ(月額5ドル~)のみの配信でしたが、現在は無料メルマガも配信可。今年7月時点の有料購読者数は、1万1000人。購読料の平均は、年間80ドルにのぼります。

サービス内容はまぐまぐ!と変わりませんが、モバイルに最適化され、デザインもモダン。メール配信の管理画面も使いやすく、ライターは肝心のコンテンツづくりに専念することができます。また、配信したメルマガのWEBバージョンを自動生成してくれるため、新たな読者獲得にも有効。サブスタックは、配信料の10%を手数料として徴収します。

なぜ今になってメルマガなのでしょう。最近では、仕事でもメールより「スラック(Slack)」のようなビジネスチャットツールが主流ですし、消費者にリーチするのもインスタグラムをはじめとするソーシャルメディアが人気。ところが、むしろこうしたSNS人気がメルマガへの回帰に拍車をかけているようです。

最初は空き時間に見る程度だったSNSは、多くの人が巧みに設計されたユーザエクスペリエンスにのめり込み、今では隙さえあればそのフィードを眺めるようになっています。フィードは読みきれないほどの情報で埋め尽くされ、私たちの集中力はいつになく散漫になっています。

メルマガを選ぶ人が増えている最大の理由は、メルマガへの登録が〝能動的〟な行為だからかもしれません。ただ流れてくる情報を眺めるのではなく、自分にとって必要な情報を“自らを選んで”取得することの価値が再認識されているのです。有料のメルマガは、総じて情報の質が高いこともメルマガ復興を後押ししています。

また、SNSのように情報が不特定多数に向けて発信される場に比べて、人それぞれの受信箱にメールが届くメルマガは〝個人に向けられている〟感覚が強いです。誰かのメルマガを購読することは、特定のテーマの情報を得ること以上に、その人とのコミュニケーションや関係性に時間やお金を支払うことを意味しています。時代は繰り返すとは言ったものですが、SNS台頭後に再びブームを迎えたメルマガに、事業におけるタイミングの重要性を感じます。

substack

【URL】 https://www.substack.com

Yukari Mitsuhashi

米国LA在住のライター。ITベンチャーを経て2010年に独立し、国内外のIT企業を取材する。ニューズウィーク日本版やIT系メディアなどで執筆。映画「ソーシャル・ネットワーク」の字幕監修にも携わる。【URL】http://www.techdoll.jp