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Thunderbolt 3が提供するGPUの新しいカタチ

著者: 今井隆

Thunderbolt 3が提供するGPUの新しいカタチ

読む前に覚えておきたい用語

GPGPU(General Purpose computing on GPU)

GPGPUは超並列演算ユニットであるGPUを用いて、グラフィックス処理以外の演算を実行させる技術。2006年にNVIDIAからリリースされたGeForce 8800でユニファイド(統合)シェーダーが採用されて以降、GPUの汎用プロセッサ化が加速し、さまざまな用途への応用が進んだ。

Metal

GPGPUのプログラミング環境としては、2006年にNVIDIAがリリースしたCUDAや、2008年にAppleが提唱したOpen CLなどがあるが、Appleは2014年のWWDCで新たにMetalフレームワークを発表した。2015年リリースのOS X El Capitanで採用され、macOS High Sierraでは最新のMetal 2が採用されている。

Thunderbolt 3

Thunderbolt 2の上位規格で、最大転送速度が従来の2倍の40Gbps、インターフェイスにUSB-Cコネクタを採用し、USB 3.1との上位互換性も持つ。DisplayPortなどにも対応する。コントローラはインテルのTitan Ridgeを採用し、eGPUでは、PCIe Gen.3 4レーンを外部接続(エクステンダ)するために使用される。

写真●Apple.com

サンダーボルト3が導く外部接続GPUの世界

従来のMacのGPU(グラフィックスプロセッサユニット)は、iGPU(プロセッサ統合GPU)とdGPU(ディスクリートGPU)に分類される。iGPUはインテルプロセッサ(CPU)に統合されたグラフィックス機能(Intel UHD GraphicsやIRIS Graphicsなど)を使用するタイプで、MacBookや同プロの13インチモデル、Macミニ、iMacの下位モデルがこの方式を採用している。

一方、dGPUはプロセッサとは別に専用のGPUチップ(RadeonやGeForceなど)を搭載するタイプで、MacBookプロの15インチモデル、iMacの上位モデル、iMacプロ、Macプロなどがこの方式を採用する。

iGPUはプロセッサに統合されたグラフィックス機能のため、ダイサイズの大型化や発熱(消費電力)の増加につながる演算ユニットの増加が難しく、またメインメモリの一部をCPUと共有するため高性能化に限界がある。逆に、独立したGPUを搭載するdGPUでは、より高性能なGPUチップの搭載によって性能を上げやすい。また、専用のビデオメモリ(GDDR5 SDRAMやHBM)を接続することで広帯域の大容量メモリをGPUが独占的に利用できるため、iGPUの数倍~十数倍といったグラフィックス性能を引き出すことも可能だ。

その反面、高性能なGPUほど消費電力や発熱が大きく、ハイエンドGPUではCPU以上の電力を消費することも少なくない。このため、従来のMacBookシリーズでは15インチMacBookプロ以外、すなわちモバイル向けのMacBookシリーズにはdGPUが採用されてこなかった経緯がある。

従来、このようなiGPU採用MacではあとからGPU性能を強化することはできなかったが、macOSハイシエラ10・13・4で正式にeGPUのサポートが行われたことで、サンダーボルト3接続の外部接続GPU、すなわちeGPU(external GPU)を利用できるようになった。サンダーボルトはUSBやファイアワイヤなどの他のインターフェイスとは異なり、システムバスであるPCIe(PCI Express)を外部に引き出すことが可能な唯一の外部インターフェイスだ。eGPUはこの仕組みを用いて、ソフトウェア(macOS)からはあたかもdGPUであるかのように振る舞うことができる。

eGPUでは、インテルのサンダーボルト3コントローラチップ「Titan Ridge」によって、PCIe (Gen.3) 4レーン接続に匹敵する伝送速度でGPUとCPUを接続することが可能となっている。

着脱可能なGPUがもたらす可能性

eGPUはサンダーボルト3を介してプロセッサのPCIeを外部に引き出し、その先にdGPUを取り付けたものと考えればわかりやすい。GPUをMacから外に引き出したことで発熱量や消費電力などの制約が取り除かれ、より高性能なGPUや大容量ビデオメモリの採用が可能となっている。MacBookシリーズやiMacなどに搭載されたdGPUは、主にモバイル向けの省電力GPUが用いられている。ハイエンドクラスのGPUはその発熱量や消費電力がCPUを大きく上回るため、冷却システムや電源の強化なしでは搭載が難しい。

特に、薄型化によってバッテリ容量や冷却能力が限られているMacBookプロなどでモバイル用のミッドレンジクラスのGPU採用にとどまっているのは、そうした理由が大きい。

その点でeGPUは独立した電源や冷却システムを備えることができるため、こういった制約から解き放たれ、ハイエンドクラスのGPUや8GBを超えるビデオメモリの搭載、複数ディスプレイの同時接続といった優位性を持つことができる。また、サンダーボルト3ポートを備えていれば、13インチMacBookプロのような軽量モデルでも、機種を選ばず強力なGPU演算能力を追加できるという汎用性の高さも大きなメリットだ。

一方、サンダーボルト3接続であるが故のボトルネックが存在することも忘れてはならない。サンダーボルト3はPCIe(Gen.3) 4レーン相当の転送速度を得られることは先に述べたが、dGPUはその4倍に相当する同16レーン相当の速度で接続されている。このため、GPUとCPUやメインメモリとのデータ転送が支配的なオペレーションでは、サンダーボルト3がボトルネックとなって本来のGPUの性能を引き出しきれないケースがある。逆に、GPU側でほとんどの処理が完結するようなオペレーションでは、GPU性能が支配的となり接続経路のボトルネックは問題になりにくい。

今後のラインアップ拡大に期待

現在のところ、Macに対応したeGPU製品は大きく2つのタイプに分類される。1つは従来からあるサンダーボルト3をPCIeスロットに変換する拡張ボックスに、汎用のGPUカードを組み合わせたタイプ。ブレークアウェイボックスと呼ばれることもある。

もう1つは、最近増えているサンダーボルト3コントローラ(PCIeブリッジ)とGPUを固定的に組み合わせてオールインワンにまとめた製品で、そのままeGPUと名乗る製品が登場している。

前者は搭載するGPUカードを選べるものが多く、求める性能やコストに応じてGPUを変更できる、将来のアップグレードに対応しやすい、といったメリットがある反面、汎用GPUカード搭載の必要性からサイズや重量が大きい製品が多い。後者は内蔵するGPUが固定されている反面、それに必要な電源や冷却能力をバランス良くチューニングすることで、コンパクトで扱いやすい製品を実現でき、コストも抑えることができる。

現時点では、Mac対応のeGPUは対応製品もまだ限られている。しかし今後eGPUのメリットがユーザに理解されて市場規模が拡大してくれば、より幅広いラインナップが各社から提供される可能性がある。

たとえばより小型で低消費電力な持ち運び可能なモバイル向けeGPUや、マイニング演算向けの大規模並列処理eGPU、あるいは機械学習向けにニューラルネットワークエンジンを搭載したeNPUといった製品も、今後登場する可能性が考えられる。MacのeGPUを取り巻く環境はまだスタートしたばかりで、これからの発展と可能性が気になるところだ。

iGPU、dGPU、eGPUの違い

Sonnet Technology eGPU Breakaway Box

PCIe Gen.3 16レーンスロット(動作上は4レーン)を備えた拡張ボックスで、Radeon RX VegaシリーズなどのハイエンドGPUカードを搭載して高いGPU能力をMacに付加することが可能。ニーズに応じてGPUカードを選べるのが大きな特徴だ。【URL】https://www.sonnettech.com/

BlackMagic Design eGPU

BlackMagic eGPUはGPU、USB 3.0ハブ、USB-PD電源などを統合したオールインワンタイプのeGPU製品。Mac Proサイズの筐体にiMac 5Kモデルにも採用されているRadeon Pro 580と8GBのビデオメモリを搭載し、MacとはThunderbolt 3ケーブル1本で接続される。【URL】https://www.blackmagicdesign.com/jp

Sonnet Technology eGPU Breakaway Puck

BlackMagic eGPUと同じくオールインワンタイプのeGPU製品で、初期型Mac miniとほぼ同じサイズの筐体にRadeon RX570/同560を搭載し、最大4台までの4Kディスプレイをサポートする。比較的低価格であることも大きなメリット。【URL】https://www.sonnettech.com/jp/

GPUはインテルプロセッサの統合グラフィックスを用いる方式で、性能面での制約が厳しい反面、低消費電力、低遅延などの特徴がある。dGPUとeGPUはいずれもプロセッサから独立したGPUで、Macに内蔵されているか、Thunderbolt 3で接続されたデバイスに内蔵されているかの違いがある。

今井 隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。