ねらい・方針
●教師それぞれの授業改善
●プログラミング教育の充実
iPad選択理由
●バッテリの持ちのよさ
●直感的な操作性
●耐久性
ICT化へのステップ 生徒たちの“とがった”能力を伸ばしたい
120年もの伝統を誇る海城中学高等学校(東京都新宿区)は、首都圏でも有数の名門校だ。卒業生の多くは有名大学へ進学するとともに、各分野で活躍するスペシャリストを多く輩出している。創立以来、リベラルでフェアな精神を重んじており、新しい学力と新しい人間力をバランスよく兼ね備えた、国家社会に有意な人材育成を目指す。
そんな海城中学高等学校では現在、高校1年生を対象に1人1台でセルラーモデルのiPad Proを導入している。2016年度に全教室にホワイトボードや電子黒板機能付きプロジェクタ、スピーカを導入し、Wi-Fi環境も完備。さらには2017年度にコンピュータ教室のWindows PCをiMacへ切り替えるなど、ICT環境を充実させた。
同校におけるiPad導入で特徴的なことは、生徒の“とがった”能力をさらに伸ばすためにICTを活かしていることだ。たとえば、同校が放課後に実施する特別講座「KSプロジェクト」という教育活動が、それにあたる。
これは、通常の授業の枠に収まりきらない多様な内容に関して、各教科の垣根を超えて、生徒たちの興味・関心を掘り起こしたり、学外の活動にチャレンジする機会を与える特別講座だが、このような取り組みの1つにiPadが活かされている。2017年度は「人文科学と自然科学から地域を考えよう」「文化祭で模擬裁判をやろう」「生物・化学実験の動画を撮ろう」など、さまざまな魅力ある講座が用意され、その1つとしてZ会と協力してプログラミング講座が実施された。
プログラミング講座を企画したICT教育部長の教諭 平田敬史氏は、「本校が掲げる新しい学力と新しい人間力の育成にプログラミングは親和性が高いと考えています。もちろん、プログラミング自体を楽しんでほしいですが、課題設定・解決能力、論理的思考能力、創造力、ITスキルなど、プログラミングの学習はこれからの時代を生きるために必要な能力が学べると思っています。10代の多感な時期にプログラミングに出会っているかどうかも重要だと感じますね」と語る。
とはいえ、多くの生徒はプログラミングの経験がない。そこで、平田氏は通年で実施されるKSプロジェクトの同講座を、初心者編(全7回)と発展編(全8回)の2コースで構成し、初心者編にはSwiftが無料で学べるツール「Swift Playgrounds」を活用することにした。理由としては、「他の言語ではコードを書き始める前に編集画面の構造を理解したり、書き方の作法を学ばなければなりませんが、Swift Playgroundsはそのわずらわしい部分が省かれているのがよいと思いました。いきなりmoveForwardから始められて、ゲーム感覚で学べるので初心者も楽しみながら学べると思いました」(平田氏)。生徒たちがプログラミングを学ぶうえで重要なことは、コードを書くためのプロセスではない。プログラミングそのものの楽しさを味わうために、Swift Playgroundsは有効だというのだ。
授業実践例(1) 将来に必要なプログラミングを学ぶ場を
Z会と協力して実施されたプログラミング特別講座は、中学2年生から高校2年生を対象で行われた。
初心者編では主に、Swift Playgroundsに設けられた“コードを学ぼう1”と“コードを学ぼう2”の教材を使って、生徒たちが自学で進めた。この教材はアルゴリズム、関数、Forループ、条件分岐といったプログラミングの概念や知識を体系的に学べるのが特徴で、初心者でもドリル形式でどんどん先へ進むことができる。
初心者編の最終回では、“コードを学ぼう2”に設けられた「ステージをつくる」というお題に挑戦し、生徒たちは作成したオリジナルステージを発表し合った。「頭を使わないとクリアできないようにした」「今まで学んだコードをフル活用できるようにした」「多くの機能を使ったが不自然にならないように気をつけた」など、生徒たちは随所に工夫を散りばめた。また完成したステージのソースコードは、教育用SNS「Edmodo」で友達と共有し、自分のSwift Playgroundsで再現しながら遊ぶ場面も見られた。
続いて、初心者編を受講した生徒の中で、さらにを学びたい者は、iOSアプリの開発に挑戦する発展編へと進んだ。平田氏は発展編について「課題を解くことがメインのSwift Playgroundsに対し、Xcodeのプログラミングは、自分でなにをつくるのか考え、ゼロから開発しなければなりません。いかに自分から能動的に関われるかが大事だと思います」と語る。
発展編では、全8回のうち第4回目までを生徒全員が同じ内容を学んだ。ボタンをクリックすると数字が2倍、3倍に変わるアプリを作成しながら、画面遷移やボタンの配置、ボタンを押したときのアクションメソッドの設定など、基本的なアプリ開発の知識を学んだ。
その後、5回目以降からはオリジナルのアプリ開発に挑戦した。個人・グループとそれぞれのつくりたいアプリに合わせて、自由な形で進めたという。生徒たちがつくったアプリは、「オセロ」など既存のゲームを模倣したものや、点数カウンターアプリなど学習の効率化をめざしたもの、クイズアプリなど実に多彩だった。生徒たちからは「スクリーンの中に自分の世界がつくれる楽しさを味わうことができた」「指示したとおりに動くのが楽しい」といった感想が聞かれた。
同講座を通して平田氏は、生徒たちに多くの気づきを与えてくれるプログラミングに手応えを感じている。
「生徒たちはつくる側の立場を経験し、どうすれば作品が楽しくなるか、エラーが発生したときにどう対応するのか。さまざまなことを考えながら楽しむ姿が見られたことがよかったです」(平田氏)
海城中学高等学校 理科(化学)教諭/ICT教育部 部長 平田敬史氏
2010年より海城中学高等学校に勤務。 Apple Teacher Swift Playgrounds認定。
[C-1]発表や話し合い
[B-5]表現・制作活動
授業実践例(2) 教師が教える時間を減らし、制作の時間を確保
海城中学高等学校の他の授業では、どのようにiPadを活用しているのだろうか。高校1年生の情報の授業では、教師が教科書の内容を一方的に教える授業から、生徒が主体的に学ぶ学習へ変化している。具体的には、生徒が教科書の内容を調べ学習として取り組み、それをKeynoteにまとめて授業中に発表するというもの。授業中に教師が教科書の内容を教える時間はなく、すべてこの形で情報の授業を進めているというのだ。
生徒たちは授業中、1分間で自分のまとめたKeynoteをプレゼンテーションし、その発表を聞いている生徒たちは、エクセルシートに5段階で相互評価を行う。情報科の授業担当者によると、生徒が行う相互評価の結果は、教師が行うのとほぼ同じ結果が得られるという。
ちなみに、このような授業スタイルで進める理由は、一斉授業で教科書の内容を教える時間が短縮化された分、プログラミングや創作ツールの「Adobe Creative Cloud」を用いて創造的な活動に取り組む時間を増やすためだ。しかも、この授業スタイルを実施してから、生徒のテストの点数も高くなった。一斉授業で受け身に学ぶよりも、生徒にとっては主体性が発揮できる授業だといえる。
[B-2]情報収集・調べ学習
[C-1]発表や話し合い
授業実践例(3) ジグソー法によるグループ内評価
平田氏が受け持つ化学の授業では、ジグソー法を活用した協働学習が行われた。生徒たちは平田氏が与えた6つのテーマの中からどれか1つを選び、それに対して調べ学習に取り組む。その後、同じテーマを選んだ生徒同士が集まり、調べた内容やレベルを合わせながら、発表する中身を擦り合わせる。今度は、6つの異なるテーマで1つのグループをつくり、自分が担当したテーマについて発表し合う。いわゆるジグソー法と呼ばれるもので、自分が選んだテーマに対して責任をもって発表しなければ、そのグループに知識が共有されない。
平田氏はここからさらに一歩踏み込んで、生徒たちに小テストを作成させた。プレゼンを聞いた人が解けるようなテストを「Pages」で作成し、きちんと知識が全員に共有されているかを確認した。また、プレゼンに関しては相互評価を取り入れ、仲間からどのように評価されたのかも点数としてフィードバックした。相互評価について平田氏は、「生徒たちは意外にもシビアに見ていると思います。友達が自分をどう評価したのかも知れるので、次はこうしてみようと改善する姿も見られます」と語る。仲間と交流しながら学び、互いに高め合う、そんな学びの場ができている。
[B-2]情報収集・調べ学習
[C-1]発表や話し合い