ねらい・方針
●知的好奇心・探究心を伸ばす
●主体的に学べる環境の実現
●Lifelong Learnerを育てる
iPad選択理由
●バッテリの持ちのよさ
●直感的な操作性
●充実した教育アプリ
ICT化へのステップ(1) バッテリ、操作性、教育アプリが魅力のiPad
同志社中学校(京都市左京区)は自由・自治・自立の精神を重んじる校風のもと、リベラルアーツの教育理念を取り入れた教育を実践している。欧米の学校で一般的な教科センター方式を取り入れ、校舎のレイアウトも教科ごとのゾーンに分けるなど、学校全体が“ラーニング”の場としてデザインされているのが特徴だ。同校でICTを担当するEdTech Promotions Managerの教諭 反田任氏は、「本校のこうした学びの場にICTを組み合わせれば、生徒の知的好奇心や探究心を刺激し、より主体的に学べる学習環境がつくれると考えました」とICTに懸ける想いを語る。
同校がiPad導入の準備に着手したのは2012年。まずは初代iPadを20台借用し、電子書籍アプリ「iBooks」を使った自作教材の活用を試みた。生徒アンケートも実施したところ、iPadを使った学習は好評で、特に「自分のペースで学習できる」「わからない部分を何度も聞くことができる」といった意見が多く寄せられた。そのため、翌年はiPad 40台を導入し、協働・個別学習なども試験的に実施。その際にも生徒が主体的に学ぶ姿が見られたり、表現が多様化したことから手応えを感じ、2014年度の新中学1年生を対象にiPad miniを導入、1人1台を本格実施した。
iPadを選んだ理由について反田氏は、①バッテリの持ち時間のよさ、②直感的な操作性、③教育系アプリの多さの3点を挙げる。同氏は「当時から他の端末もありましたが、総合的に評価してiPadが優れていると判断しました。またiPad miniを選んだ理由については、机の大きさや、部活動などで荷物が重くなる中学生の通学事情を考慮」と語る。ちなみに、2018年度からはプログラミング教育なども考慮して画面サイズが大きいiPadへ変更した。
このように準備段階から本格導入まで着実に進めてきた同志社中学校であるが、1人1台を実施した初年度はMDMの導入を見送った。これについて反田氏は「初年度は、校内の無線LAN環境が全館整備されていなかったので、MDMを導入しても生かしきれないだろうと判断しました」と打ち明ける。
そのため、iPad mini導入初年度は、OSのバージョンアップなどの設定作業が発生すると、生徒から一時的に端末を回収し、それらを一斉に同期できるマルチポートのUSBハブを使ってApple Configuratorで設定作業を行った。当然のことながら、すべての端末の作業を終えるまでに膨大な時間がかかり、その間、すべての教育活動でiPadが使用できなくなる。反田氏はこのような体制では長期的な運用につながらないと判断した。
「本校は1学年300名ほどですが、次年度から毎年約300台ずつ端末を導入し、最終的には中学校全体で約900台の端末を効率的に管理できる環境を構築する必要があると実感しました。それを考えると、生徒から回収の手間なく遠隔操作が可能なMDM導入は必須になります。2015年に『MobiConnect for Education』を導入しました」(反田氏)
同志社中学校 教諭(英語科) EdTech Promotions Manager 反田任氏。
Apple Distinguished Educator Class of 2015 2014年度から同校における1人1台のiPad導入を推進し、Wi-Fiネットワークや学習ポータルサイトの構築・運用なども担当している。
ICT化へのステップ(2) 最初から決めすぎず、“使いながら考える”
同志社中学校では、どのようにiPadを運用しているのだろうか。中学生の場合は、ITリテラシーが発達段階にあり、ネットの規制や運用上のルールなど、どこまで厳しく管理すべきか悩ましいところだ。
これについて反田氏は「本校は、“本来であれば生徒が自立して使える環境が望ましい”という理念を持っています。そのため生徒を縛るためのルールはふさわしくありません。導入当初も、最初からがっちりしたルールを決めて使わせるのではなく、全体的にゆるやかなルールにとどめておいて、あとは“使いながら考える”というスタンスで走り始めました」と当時を振り返る。具体的には“使用しないときはロッカーに入れて保管する”“授業の使用は担当教員の指示に従う”“端末は自宅で充電する”といった基本的なルールを決めただけだ。
ところが、iPadを導入して8カ月を過ぎた頃に、iPadを持っていない上級生から、“歩きiPadをやめてほしい”“写真を撮るときは周りに気をつけてほしい”といった声が寄せられ、ルールを追加したという。
「生徒たちは、“歩きスマホ”など社会でも問題視される行動については、学校でも同じようにマナー違反だと考えています。このような生徒の声を拾いあげていけば、学校に合った運用やルールが出来上がるのではないかと思っています」(反田氏)
iPadのような汎用性の高いツールは、最初から使い方のルールを決めてしまっては、iPad自体のよさが活かされずもったいない。教育現場における活用範囲や使い方は未知数であり、しかも、今の生徒たちはITデバイスにも慣れ親しんでいる。生徒たちがどのような使い方をするのか、生徒たちの様子を見守りながら運用を進めていきたかったというのだ。
一方で、生徒のITリテラシーを高めていくためには、授業以外にもiPadを学習用途として使う場面を増やしていかなければならない。なぜなら、多様な使い方をすることで、生徒たちはICTのメリット・デメリットを学ぶことができるからだ。そこで導入当初は、学習ポータルとしてオープンソースの情報共有システム「NetCommons」(開発:国立情報学研究所)を利用し、連絡事項の伝達や情報共有、さらにはデジタル教材の配布や宿題の提出、小テストなどに活用し始めたという。現在は、これらのやりとりを教育用SNS「Edmodo」でも行っている。
授業実践例(1) 教え合うオンライン英会話を使った協働学習
さて、では実際に同志社中学校では、どのようにiPadを活用しているのだろうか。英語を受け持つ反田氏の授業を取り上げてみよう。
反田氏は、教科書の内容をもとにカリキュラムを作成し、その授業ガイダンスをすべてiTunes Uにまとめて、生徒たちがいつでも学べるようにしている。ユニットごとに学習コースをつくり、教科書の音読、単語クイズや単語の発音練習、文法の解説、ワークシート、さらにはプレゼンテーションや調べ学習などの課題、授業で使うアプリなど、授業で学ぶ内容や課題などが体系的に網羅されている。
中でもこの学習コースで力を入れているのが、スピーキングだ。反田氏がつくるカリキュラムは、1ユニットを2時間で学ぶが、2時間目にはスピーキングが盛り込まれている。
スピーキングの学習は、家庭での予習から始まる。反田氏はオンライン英会話と英語学習の総合サービス「English Central」を活用しており、生徒たちは自宅で同サービスの動画を見ながら会話練習を行う。English Centralでは日常会話やニュースなど豊富な動画をベースに「聞く」「学ぶ」「話す」の3ステップで自学できるのが特徴だ。必要に応じて動画のテロップをオン/オフしたり、知らない単語の意味や発音も簡単に調べたり、スロー再生して内容を理解したりと、生徒たちが自分のレベル、自分のペースに合わせて学べる。最後の会話練習では生徒が発した発音を音声解析し評価するシステムになっているが、予習ではその評価が緑の合格サインに達するまで行うという。
このような家庭学習でスピーキングを鍛えたあと、今度は授業でオンラインの英語教師とつながり、リアルな英会話に挑む。授業では、生徒3名のグループに対してオンライン講師を1人配置し、予習で学んだ内容をベースにグループで協力しながら会話を進めていく。この学習はオンライン英会話「RareJob」と教材開発を行っており、1対1ではなく、敢えて3対1で学ぶスタイルであることがポイントだ。
反田氏は「以前、1対1のオンライン英会話を行っていましたが、人と話すのが苦手な生徒や、沈黙が長く上手く会話を進められない生徒がいるなど課題がありました。しかし、3人1組でやってみたところ、生徒たちは互いに助け合ったり、教え合ったりと、なんとか会話をつなげようとするので、学校でオンライン英会話を行うときはグループ学習のほうが学習効果も高いのではないかと考えました」と語る。1対1のオンライン英会話であれば、なにも学校で行う必要はない。学校でしかできない学習に発展させていくことで、生徒の学ぶ意欲も高めていくことができる。
[B-1]個に応じた習熟度学習・繰り返し学習
[C-3]協働による表現・制作
授業実践例(2) 私立中学校と公立高校、校種を超えた学び合い
反田氏は毎年、中2英語「My Dream」の単元で、生徒が自分の将来の夢を語る英語のスピーチを取り入れている。この単元で生徒たちがよりアクティブに学ぶことはできないか。反田氏はさまざまな試みを実施した。
最初は、“消えゆく職業、新たに生まれる職業”について、3人グループでリサーチした。昨今、テクノロジーの進化で多くの職業がなくなるといわれているが、自分がなりたい職業は存在しているのか。TEDのプレゼン動画や、ネットの情報、雑誌などを使って調べ、グループで議論した。その後、生徒たちはグループの内容を発表し、将来の社会ではどのように職業が変化するのかを共有した。
ちなみに、このような調べ学習は、一見、英語の授業内容と関係ないと思ってしまう。これについて反田氏はこう話す。
「この単元では例年、多くの生徒が“私は英語が好きなので、英語の先生になりたいです”といった短絡的な英作文をつくっていました。しかし、これでは、生徒はアクティブになりません。そこで未来の社会について知り、“あなたはどう生きるか”という問いを与えながら、生徒が主体的に考えるようにしました。その結果、さきほどの生徒も“自分は教師になりたいが、AIにはできない、生徒の気持ちを理解できる先生になりたい”と、自分の考えを広げることができました。これを英語で話すことこそ、伝えたい意欲が高まると考えています」
その後は、自分の将来の夢についてスピーチする英作文を作成した。通常ならば反田氏が英作文を添削するが、今回はクローズドの教育用SNS「Edmodo」を活用して、大阪府立箕面高校「国際教養科」(現「グローバル科)」の生徒が中学生の英作文を添削する学び合いを実施した。Edmodoは海外の学校で知名度のあるサービスで、生徒のメールアドレスが不要なうえ、教師はすべての学習履歴を確認できるのが特徴だ。中学生と高校生は1対1のペアになり、掲示板でやりとりをしながら英作文を完成させた。
反田氏は、高校生が中学生に向けた添削を見て、高校生のアドバイスに教師として学ぶことが多かったそうだ。
「教師というのは、生徒の間違いばかりを指摘しまいがちだが、高校生は英語の添削だけでなく、“素敵な夢ですね!”“夢を叶えるために頑張れ!”といった英作文の中身まで認めるコメントを書いてくれました。高校生のほうも教えることが自分の学びにつながり、互いに認め合いながら学ぶことができたと思います」(反田氏)
このようなやりとりを経て完成した英作文を、最後はクラス内でスピーチを披露し、この単元は終了した。
[C-2]協働での意見整理・まとめ
[C-5]クラス・学校・地域を越えた学習
[C-1]発表や話し合い
授業実践例(3) テクノロジーを学びに活かし、創造性を育てる
反田氏は、iPadの活用だけでなく、学びにテクノロジーを取り入れることに重きを置いている。なぜなら、授業の目的は教科の内容を教えることだけでなく、生徒たちの生きる力を伸ばす場であるという考えがあるからだ。「テクノロジーと関わる中で、世の中がどのように動いているかを知ってほしい」と反田氏は語る。
そんな同志社中学校では、英語学習AIロボット「Musio」を使った授業にも挑戦している。Musioとは、学習者が話しかけた英会話に対して、返事を返してくれるAIロボットで、ロボット相手に英会話を行うことができる。例えば“How is the weather in New York , today ?(今日のニューヨークの天気はどうですか)”や“Do you like Ichiro ?(あなたはイチローが好きですか)”という英会話を投げかけると返事をしてくれるという具合だ。Musioにはネイティブ英語で自由な会話ができるチャットモードと、専用教材を使ってレベル別に学ぶチューターモード、さらには教師のオリジナル教材の追加や英検などの試験対策ができるアカデミーモードがある。
反田氏はMusioについて、「人間だとどうしても恥ずかしがって話せない生徒たちも、ロボット相手だと失敗を恐れず、通じるまで根気よく挑戦する姿も見られます」と話す。現在はMusioを20台導入して専用教室をつくり、生徒が2人1組で英会話学習ができる環境も整えた。
「ロボットが流暢な英語を話す未来がきたら、人間はどのような英語力が求められるか、生徒たちにはそんな気づきを与えたいです」(反田氏)
ほかにも、同志社中学校では学びのプロジェクトとして土曜日や放課後を利用した特別講座を年に100本以上実施している。その活動の1つとして、反田氏は「Swift Playgrounds」を活用したプログラミング講座も実施しており、生徒たちはAppleが提供する「Everyone Can Code」を用いて学ぶ。Swift Playgroundsは“moveForward”や“turnLeft”などのコードが表記されたブロックをタップするだけでコード入力ができるが、反田氏は「プログラムを組み立てながら、中学生が英語の意味を学べるのがよいです」と語る。プログラミングに関してはさらに高度な内容を学ぶ生徒が出てきたり、保護者の関心も高いことから、今後も積極的に取り組んでいくという。
そうした点も踏まえて、同校では今年から図書・メディアセンターのコンピュータをすべてMacBook Airに切り替えた。「iPadの活用が進むにつれて、プレゼンテーションやレポートなど作り込みが増えてきました。Xcodeを使ったプログラミング教育も視野に入れて、生徒の創造性を伸ばしたいと考えています」と反田氏は抱負を語る。
同志社中学校では2018年から、図書・メディアセンターのコンピュータをMacBook Airに切り替えた。MacBook Airにした理由はiPadとのシームレスな連携をめざすため。2018年は20台導入し、来年はさらに20台を追加するという。
[B-1]個に応じた習熟度学習・繰り返し学習
[C-3]協働による表現・制作
[B-5]表現・制作活動