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掲載日:

聖学院小学校

著者: 神谷加代

聖学院小学校

ねらい・方針

●思考力・表現力をのばす

●主体性を育む

iPad選択理由

●以前からApple製品を使用

●優れたセキュリティ

●直感的な操作性

ICT化へのステップ iPadで伸ばしたい、子どもたちの思考力と表現力

キリスト教の精神に基づいた教育を実践する聖学院小学校(東京都北区)は、男女共学の私立小学校。「よく学ぶ、よく遊ぶ、よく祈る」を教育目標に掲げ、児童一人ひとりの知的好奇心を育てるとともに、学び合いに重きを置いた教育を実践している。

同校は2012年、新校舎の建設計画をきっかけにiPad導入の検討を開始した。同校の教諭でICT担当でもある池内清氏は「本校ではICTを児童の思考力や表現力を伸ばす表現ツールとして位置づけて、さまざまな学習に活用していきたいと考えました。 “なにかを調べたい”“なにかを伝えたい”と思ったときに、すぐにICTが使える環境ならば、次のアクションにもつながりやすく、子どもたちの主体性を育むことができると考えています」と振り返る。

とはいえ、今の時代、わざわざコンピュータ教室に移動して使うのも現実的ではない。そこで「普通教室の中で、子どもたちがいつでも利用できる環境を築きたいと思いました。コンピュータ活用を考えても、インターネットを使った調べ学習や、ワープロ、写真などを用いた資料作成が大半で、このような使い方であれば、いつでも使用できるiPadがよいと思いました」とiPad導入の経緯を語る。タブレットやスマートフォンに親しむ今の子どもたち。学校でも当たり前のツールとして使えることが大切だと考えた。

その後、新校舎が完成した2015年度から、4年生以上の児童全員に対して、私物端末によるWi-FiモデルのiPadを導入し、1人1台体制を実施した。iPadを選択した理由について池内氏はこう話す。

「以前からコンピュータ教室でMacを使用しておりApple製品に馴染んでいました。iPadは操作性やセキュリティ面で優れているのがよいと思いました」

また、昨年度から学校共有用iPadを40台導入し1年生から3年生に対しては、1台のiPadを複数人で共有する「Shared iPad」のシステムを使って1人1台環境を実現した。ちなみに、1人1台をスタートした初年度はMDM(モバイル・デバイス・マネジメント)の導入を見送った。

「本校の方針として、教育アプリをあれもこれもと使うのではなく、カメラやプレゼン、授業支援ツールなど、どの教科でも活用できる汎用性の高いアプリを使うことを考えていました。そのため、一旦iPadを設定してしまえば、追加の変更作業は少ないと考えていました」(池内氏)

ゆえに、端末のキッティングやOSのバージョンアップデートなどの設定作業についても、都度、児童の端末を集め、iPadを一斉に同期できる純正の無料設定管理ツール「Apple Configurator 2」(管理用Macが必要)で対応した。

ところが、2016年3月にリリースされたiOS 9.3の新機能「Classroom」の利用をきっかけに、同校はMDM「MobiConnect for Education」の導入に踏み切った。理由は、「多くの端末の設定作業を行うには、やはりMDMは欠かせない」(池内氏)からだ。

授業実践例(1) 思考力を育むために必要な試行錯誤できる環境

聖学院小学校では、どの教科でも活用できる汎用性の高い教育アプリを使うという考えから、手書き機能が充実したリアルタイム授業支援ツール「MetaMoJi ClassRoom」(以下、MetaMoJi)を導入した。同校はICTの位置づけとしてコンピュータを活用した表現活動に重きを置いているため、ノートと同じ感覚で使えて、なおかつ編集作業に優れた同製品を選んだという。具体的には、MetaMoJi上にシートを作成し、写真を用いた新聞づくりやカードづくり、オリジナルの作詩、アイデア出しなど、子どもたちの創造性や思考力を伸ばすアウトプットの活動を行っている。

たとえば社会の授業では、教科書の内容を読み、キーワードや用語をマッピングしながら単元の理解を深める活動が行われる。この授業のねらいは、児童たちが教科書の内容を自分の言葉で説明できるようになることで、その手法としてマッピングを取り入れたのだ。

児童たちは、MetaMoJi上に用意されたシートにキーワードや用語を抜き出し、関連性のあるものを線でつないだり、間違ったときは一気に削除したりと、手を動かしながら考えた。池内氏は「マッピングはきれいに書く必要はなく、思ったことをどんどん書き込んでいくことが大切です。ICTを活用すると試行錯誤もしやすくなりますね」と語る。

一方、児童がマッピングを書き込んでいる間、池内氏は手元のiPadでクラス全員の進捗状況を確認する。MetaMoJiはリアルタイムで児童の書き込みが把握できるので、同氏はつまずいている児童がいると寄り添って言葉をかける。また、ときにはマッピングがよくできている児童のシートを前のホワイトボードに映し出して拡大し、用語をどのようにつなげていくのがいいか、その関連性についてアドバイスを与えたりもした。ほかにも、Apple School ManagerのClassroomも併用しながら児童のiPadをモニタリングし、児童がMetaMoJiから外れて、他のアプリで遊んでいないかなど見守りながら進める。

その後、児童たちはグループで自分が作成したマッピングを見せながら、自分の言葉で教科書の内容を説明し合う。出来上がったマッピングはどれを見ても個性的で、児童がどのように考えを広げていったのか、思考過程がわかる。最後はクラスの何人かが前に出て発表し、この日の授業は終わる。

「iPadには、一方的に与えられた問題を解くような学習アプリもありますが、子どもたちが思ったことを表現できる学習に活かしていきたいと思っています。書いたり、消したり、編集したりなど、試行錯誤しやすいデジタルのメリットを活かして、“なにを引き出すことができるか”が大切だと考えています」(池内氏)

聖学院小学校 教諭 池内清氏

同校法人情報センター・副センター長。2015年、iPad、Macを普通教室で接続できるように校舎内をデザインをし、同校のICT教育環境整備にチームで取り組んでいる。2017年にADE(Apple Distinguished Educator)に認定。

リアルタイム授業支援ツール「MetaMoJi ClassRoom」を使って教科書の内容をマッピング。そのほか、池内教諭は同ツールを用いて、付箋を使ったアイデア出しなども行う。

教科書の内容をマッピングしたあとは、自分が作成したマッピングを見ながら、もう一度グループのメンバーに説明する。自分の言葉で説明することが授業のねらいになる。

まとめグループ内でマッピングを発表し終わったあとは、数名が前に出て発表を行った。児童が書いたマッピングをテンポよく、クラス全員に見せられるのもICTのメリット。

[B-2]情報収集・調べ学習

[C-1]発表や話し合い

[C-2]協働での意見整理・まとめ

実践授業例(2) グループで同時編集、デジタル新聞づくり

池内氏は、協働学習の1つとしてデジタル新聞づくりに取り組むことが多い。MetaMoJi上に複数人が同時で書き込めるシートを用意し、児童は自分の担当するパートをそれぞれの端末から書き込む。たとえば3年生の授業では、タイトル文字、イラスト、見出しなどを役割分担しながら書いたり、高学年では担当した記事を同時に書き込んだりと、グループでアイデアを出し合い、話し合いながら1つの作品を仕上げる。紙を使った新聞づくりと異なり、誰かが書き終わるのを待ったり、必要な写真や資料を拡大コピーする手間がないのがメリットだ。またグループのメンバー全員が同時に作業できるため、コミュニケーションも活性化しやすい。

このような協働学習について、「紙では絵が上手く描けない子がiPadや授業支援ツールを使うと表現できるようになったり、写真があることで伝えたいことを説明しやすくなったり、自分が納得いくまで何度も書き直したりできるのはICTのメリットだと感じます。児童たちが思ったことを表現できるツールが身近にあることは、 “これを描きたい”“これを伝えたい”という思いを育むことにつながっていると考えています」と池内氏は話す。

グループで同時編集しながらつくるデジタル新聞づくり。クラウド上のシートに複数人で同時に書き込みながら新聞を仕上げる。左はイラスト担当の児童。右はタイトル文字担当の児童。

[C-3]協働による表現・制作

実践授業例(3) 人気はドローン、プログラミング教育もiPadで

聖学院小学校では、「iPadクラブ」と呼ばれるクラブ活動でプログラミング教育にも取り組んでいる。同クラブの担当でもある池内氏は、コンピュータによるものづくりの視点も与えていきたい考えだ。「プログラミングの入り口を楽しく、そして出口も楽しい、そんな学習の場をつくっていきたいです。小学校は次につなげていくことが大切なので、苦手意識をもたないよう楽しんでほしいです」と語る。

具体的には、iPadでも学ぶことができるビジュアルプログラミング「ScratchJr」(スクラッチジュニア)や、「Swift Playgrounds」を使ったコーディングに挑戦している。一般的に小学生にテキストコードを入力するプログラミングは難しいと思われがちだが、同クラブの児童たちは見よう見まねで進めていくと池内氏は話す。実際に、iPadクラブでは簡単な地図アプリをつくったり、Swiftのコーディングを行ったときは、コードを改造して学ぶ姿も見られた。また、児童たちに人気があるのはドローンで、その制御のためにプログラミングを頑張る児童も多いという。

「子どもたちが試行錯誤しているのを見ていると、プログラミングはとても創造的だと感じています。もっと楽しいことを体験させてあげたいですね」(池内氏)

「iPadクラブ」と呼ばれるコンピュータクラブでは、プログラミングにも取り組んでいる。児童にもっとも人気があるのはSwift Playgroundsで制御できるドローン。非常に盛り上がるという。

[B-4]思考を深めるための学習

[B-2]表現・制作活動

聖学院小学校のICT環境整備状況