読む前に覚えておきたい用語
SSD(Solid State Drive)
USBメモリやSDメモリーカードなどにも採用されているNAND型フラッシュメモリを記録媒体としたストレージデバイス。当初はHDDを置き換えるため、ATAやシリアルATAなどのインターフェイスにそのまま接続していたが、最近ではより高速なPCIeに接続するタイプが主流になりつつある。
NVMe(Non-Volatile Memory Express)
PCIeにSSDを接続するためのインターフェイス規格で、プロトコルに従来のAHCI(Advanced Host Controller Interface)ではなく、フラッシュメモリに最適化したNVMHCI(Non-Volatile Memory Host Controller Interface)を採用している。現行MacのSSDにはすべてこのタイプが採用されている。
SCM(Storage Class Memory)
従来のNANDフラッシュメモリを越えるアクセス速度を実現する新型メモリとしてIBMが提唱した次世代ストレージ技術。MRAMやReRAMなどの次世代不揮発性メモリを指すことが多いが、広義にはNANDフラッシュメモリを使ったメモリバス接続型ストレージも含まれる。
HDDからSSDへのパラダイムシフト
2008年に登場した初代MacBookエア以降、Macのストレージはハードディスク(HDD)からフラッシュストレージ(SSD)へと置き換えが進み、現在ではMacBookシリーズおよびMacプロがSSDに完全移行し、iMacやMacミニにもSSD搭載モデルが存在する。
2008年ごろのSSDは、HDDに比べて容量単価が数十倍と非常に高価だったが、現在では容量単価もHDDの数倍程度まで下がっており、特に256GB以下の容量帯はSSDの独壇場になっている。
SSDの接続インターフェイスもこの10年間で大きく進化を遂げている。当初パラレルATA接続でスタートしたSSDだが、その後シリアルATAを経て、現在ではPCIエクスプレス(PCIe)接続に切り替わった。またそのプロトコルも、ハードディスク用に設計されているAHCIから、フラッシュメモリに最適化されたNVMHCIへと変更され、SSDの性能をより引き出すべく進化している。
最新のMacでは、物理層にPCIe(Gen.3)を4レーン、論理層にNVMHCIを採用するNVMe SSDが採用されており、インターフェイスとしての理論値は最大毎秒4GB、実効速度でもリード毎秒3GB、ライト毎秒2GBに達するモデルもある。
さらに、PCIe(Gen.4)をベースにしたNVMe SSDも登場しており、今後もSSDの高速化は続く見込みだ。なお、現時点ではまだインテルプロセッサがPCIe(Gen.4)に対応していないため、Macへの採用は来年以降になる見込みだ。
待ち時間ゼロで起動するMacも?
その一方で「ストレージクラスメモリ(SCM)」と呼ばれる新しいカテゴリーのストレージも登場しており、そのSCMの一種であるフラッシュメモリを搭載したNVDIMMがすでに実用化されている。Macに搭載されているNVMe SSDとの違いは、その接続先がPCIeではなく、より高速なCPUのメモリバスである点で、プロトコルにはNVMe SSDと同じNVMHCIが採用されている。NVDIMMの優れた点は、その接続インターフェイスがPCIeに比べて一桁以上高速で、かつレイテンシ(遅延)も少ないメモリバスであることに加えて、CPUからはメモリに見える点だ。
一般的なパソコンではOSやプログラム、データなどはストレージからメモリにロード(転送)され、そこで初めて処理される。このためSSD化によって高速化されたとはいえ、パソコンの起動にはいまだに10秒以上の時間を要する。しかし、ストレージがCPUに直結されればメモリに転送する必要すらなくなる。その意味するところは「電源を入れれば(待ち時間ゼロで)すぐに使える」ことだ。もちろんシステム全体のアーキテクチャに変化が起きるため、OSを含めたソフトウェア構造の大きな見直しが必要になる。しかし、NVDIMMはすでにエンタープライズサーバなどでは実用域に入っている技術であり、今後macOSの進化によって不揮発性半導体メモリとしての本来の性能をフルに発揮させる時代が来る可能性もある。
このようなSSDの急速な発展を支えているのが「3D NAND」だ。3D NANDは、従来平面(2D)だったNANDセル構造を高さ方向に積層することで記録密度の大幅な向上を実現するもので、すでに市場では上位モデルのSSDを中心に3D NANDへの移行が進んでいる。
ハードディスクも今なお進化中
SSDの高性能化と低価格化に伴ってストレージ市場を奪われつつあるHDDだが、その進化が止まっているわけではない。HDDの大きなメリットに容量対価格比が高いことが挙げられるが、そのメリットを継続的に維持するためさまざまな新技術を投入して大容量化が行われている。ここ数年で導入された新技術として代表的なものとしては、ヘリウム充填、SMR(シングル磁気記録)があり、今後のトレンドとしてHAMR(熱アシスト記録)が注目されている。
ヘリウム充填HDDは、従来の空気に代わってHDD内部にヘリウムを充填するハードディスクで、空気に比べて分子サイズが極めて小さいヘリウムを充填することにより、プラッタ回転時の気流抵抗が小さい、ヘッド浮上量が安定する、などのメリットがある。結果としてプラッタをより薄くでき、ヘッド浮上量を従来より抑えることで記録密度も向上できる。しかし、部品点数の増加や密閉性の必要からコストが高くなる傾向があり、主にエンタープライズ向けの10TB級HDDに採用されている。
一方、SMRはデータトラックを重ね書きすることで記録密度を向上させる方式で、データトラックを瓦のように積み重ねて記録することから文字どおり「瓦記録方式」とも呼ばれる。従来のHDDではトラックは適切なすき間(ギャップ)を設けて配置されていたが、これをすき間なく重ねて記録することで記録密度を150~200%に向上する。
しかしこの方式には、特定のトラックのみを書き換えできないという欠点があり、重なっているトラックの塊全体をすべて書き換える必要がある。このため、特にランダムライト時の性能低下が起きやすいという欠点があるが、それを避けるために従来のようなすき間を持ったトラック(CMR領域)に一時的にバッファしたうえで、SMR領域にコピーする方式を採っている。
このSMR方式は、主にサーボ技術とソフトウェアによって実現されるためコストアップ要因が少なく、すでにコンシューマー向けHDDの大容量モデルを中心に採用されており、今後はほとんどのモデルがSMRモデルへと置き換わっていく予定だ。
そして、HAMR(Heat-Assisted Magnetic Recording)はレーザやマイクロ波を使ってプラッタ上の磁性体をスポットで暖めて活性化し記録密度を向上させる技術だ。磁性体は温度が高いと活性化して記録が容易になる一方、保磁力が低下する。逆に温度が低いと保磁力が高い反面、記録時に大きなエネルギーを必要とする。そこで、記録時のみ磁性体を暖めて記録の容易さと再生時の保磁力の両立を狙うのがHAMRの原理だ。HDDベンダーはこの技術によって2020年には40TBクラスが実用化できるとしており、今後のHDDの進化からも目が離せない。
最新の3D NANDフラッシュメモリ
SAMSUNGが今月発表した第5世代V-NANDフラッシュメモリは、90層を越える3Dチャージトラップセルを積層するTLC(3bitセル)の3D NANDフラッシュメモリで、今後QLC(4bitセル)で構成される1Tビットクラスの次世代V-NANDも計画されている。【URL】 https://news.samsung.com/
SAMSUNGのNVMe NF1 SSD
SAMSUNGがリリースした「NVMe NF1 SSD」は、同社製512GB 3D NANDフラッシュメモリ(V-NAND)チップを16個搭載した容量8TBのNVMe SSD。新しいNGSFFフォームファクタを採用し、PCIe Gen.4およびNVMHCIに対応したエンタープライズ市場向けモデル。【URL】https://news.samsung.com/
大幅な記録密度を向上するSMR
SMR(Shingled Magnetic Recording)は、従来のギャップを設けるCMR(Conventional Magnetic Recording)とは異なり、隣り合うトラック同士を重ねるようにフォーマットするのが大きな特徴。こうすることで従来は無駄になっていたギャップをデータ領域に利用でき、記録密度の大幅な向上が実現できる。【URL】 https://www.seagate.com/ https://news.samsung.com/
ヘリウム充填ハードディスク
ヘリウム充填HDDは、ウエスタンデジタル傘下のHGSTが2013年に6TBモデルの「Ultrastar HE6」で世界に先駆けて実用化した。現在はSMRを採用した「Ultrastar Hs」シリーズで14TBまでのラインアップを用意しており、主にエンタープライス市場向けに出荷されている。【URL】 https://www.hgst.com/