ドラマ、バラエティやリアリティショーといったオリジナルコンテンツ制作を、Appleは音楽と同じような大きなサービスに拡大しようとしているのか? さまざまな憶測が飛び交う中、米エンターテインメント業界で強い影響力を持つOprah Winfreyとコンテンツ契約を結んだ。
次期大統領の期待も
アップルが米国の人気タレント、オプラ・ウィンフリー(Oprah Winfrey)と複数年のコンテンツ契約を結んだ。アップルは権利を取得した「カープール・カラオケ(Carpool Karaoke)」を配信し、アプリ開発の資金調達リアリティショー「プラネット・オブ・ジ・アプス(Planet of the Apps)」を提供しているが、これまでオリジナルコンテンツ提供について多くを語ってこなかった。そうした中で、ウィンフリーとの契約は、アップルのコンテンツ制作に対する本気を印象づけるものになった。
日本では実感しにくいが、ウィンフリーは米エンターテインメント産業の大物中の大物だ。司会、ジャーナリスト、俳優、番組プロデュース、企業経営、慈善活動、何をやっても、その長いキャリアにおいて常に人々の期待や予想を超えた成功を生み出し続けてきた。今年の1月、ゴールデングローブ賞の受賞式で、力強くセクハラや差別問題について語ったスピーチが大きな話題になり、「彼女を次期大統領に!」という声が一気に高まった。CNNが世論調査を行ったところ、ウィンフリーの支持率がトランプ大統領を9ポイントも上回る人気ぶりである。米国でウィンフリーを知らない人は一人もいない。特に主婦層から絶大な人気を獲得している。ウィンフリーは人々を楽しませること、感動させることにこだわる。だから、コンテンツ制作に関してパートナーを選ぶ目は厳しい。そんなウィンフリーがコンテンツ契約を結んだのだ。
ハリウッドは新たな黄金期に
ウィンフリーに対しては、ネットフリックスやアマゾンも契約獲得を目指していた。この1~2年で、オリジナルコンテンツ提供に乗り出すテクノロジー企業による人材の奪い合いが過熱している。正式発表はないが、ソニー・ピクチャーズの幹部だったジェイミー・エールリヒとザック・ バン・アムバーグをアップルが引き抜いた。リース・ウィザースプーンやジェニファー・アニストン、スティーブン・スピルバーグ、ケビン・デュラントとの契約も報じられている。ネットフリックスは、ライバルとの競争を制してオバマ夫妻との契約を獲得。アマゾンは番組制作でニコール・キッドマンと契約した。
これらは「ビッグネームの力でオリジナルコンテンツを成功させよう」という単純な話ではない。映画やドラマ、バラエティといった映像コンテンツ提供の大きなシフトが背後にある。
日本では「テレビ離れ」が進むとともに、番組コンテンツがつまらなくなっているという声が上がっている。米国でもテレビという画面からの視聴者離れが進んでいる。しかし、コンテンツ制作に関しては新たな黄金期を迎えようとしている。ドラマ、リアリティショー、ドキュメンタリー、幅広いカテゴリで質の高い作品が次々に生み出されている。
それを支えているのは視聴者だ。テレビの前に座ってテレビ放送を視る視聴者は減少傾向にあるが、スマートフォンやタブレット、PCなど、さまざまなデバイスで、ネット配信される映像コンテンツを楽しむ人が増えている。そうした視聴者はテレビでもテレビ放送ではなく、モバイルデバイスなどと同じアプリとサービスを利用する。そうした新たな視聴者にリーチするために、ハリウッドの才能が、その力を発揮する場を変え始めている。
CNNのインタビューでアップルの上級副社長であるエディ・キューが、同社はアプリの開発やコンテンツ配信、マーケティングには長けているが、番組制作のノウハウは持っていないと述べていた。これは逆も真であり、優れたコンテンツを生み出せる才能が今、作品をより多くの人達に届ける方法を求めている。その結びつきが、どのような変化を生み出すか。アップルが準備を進めていると噂されるオリジナルコンテンツの新たな提供方法への期待が高まっている。