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問題のMacBookのキーボードはApple無償修理で直るのか?

著者: 栗原亮

問題のMacBookのキーボードはApple無償修理で直るのか?

本誌2018年1月号で報じたように、バタフライ構造のキーボードで正常にキーが入力できないトラブルが多くのユーザを悩ませてきた。米国では集団訴訟にまで発展した問題に対してAppleがついに無償の修理プログラムを発表した。

ようやく無償修理対応

昨年末ごろより、MacBookやMacBookプロの一部のキーが正しく入力されないといった声がユーザから多く上がるようになっていた。この問題は米国のテック業界で大きく取り上げられ、同じキーが続けて入力されてしまう様子の動画が公開されたり、著名なライターが修理を依頼したところ約700ドル(約7万9000円)のパーツ交換費用を請求されたことを明らかにしたりと大いに物議を醸した。

ついにはMacBookシリーズに搭載されているバタフライキーボードには構造的な欠陥があり、保証期間にも関わらずこれを認めなかったのは不当であると、アップルに対して集団訴訟が2018年5月に行われるに至った。オンライン署名サイトの「Change.org」で製品リコールを求める署名が3万2000人を超えるなど(2018年7月現在)、これが一部の過激な意見でなかったことがうかがえる。折しも4月に13インチのMacBookプロ(タッチバー非搭載)の一部でコンポーネント不具合によるバッテリ交換プログラムが発表されたことも重なり、アップルの品質管理のレベルを疑う声すら上がり始めていた。

もちろんアップルもこれを放置していたわけではなく、6月22日(現地時間)に「MacBookおよびMacBookプロキーボード修理プログラム」において該当するモデルは無償の修理対象となることを発表した。

この修理プログラムの内容を読むと、確認されたキーの症状として「文字が勝手に反復入力される」「文字が表示されない」「押したキーがスムーズに跳ね返ってこない、または、キーを押したときの反応が一定しない」の3つが挙げられていて、第1世代と第2世代のバタフライキーボードを搭載したすべてのモデルが対象だ。対象が2015年のMacBookから広範囲に渡っていて、アップル側は慎重な表現を選んでいるものの、バタフライキーボードの構造的な欠陥を事実上認めた形と捉えるのが妥当なところだろう。もちろん、遅きに失したとはいえ、ユーザの声を真摯に受け止めてくれた結果の対応なのでその点は素直に喜びたい。

2015年モデル以降のMacBookおよび2016年モデル以降の一部のMacBook Proで正常なキー入力がなされない現象が確認されたとして、「MacBookおよびMacBook Proキーボード修理プログラム」が発表され、対象モデルの無償修理へと踏み切った。【URL】https://www.apple.com/jp/support/keyboard-service-program-for-macbook-and-macbook-pro/

修理の対象となったモデルの一覧。これ以外のモデルは修理プログラム の対象とならない。共通しているのは第1世代および第2世代のバタフラ イキーボード搭載モデルで、実質的に構造の不具合を認めた格好となる。

そもそも原因は何だったのか

構造的な欠陥といっても、正確にはバタフライ機構そのものが今回のトラブルの直接的な原因となったわけではない。キーの正常な動きを妨げていたものは、キー周囲のわずかな隙間から入り込む埃やゴミ、食べカスや加糖飲料の飛沫など粘着性のある物質によるものだ。バタフライ構造は想定外にこれらの障害に弱かったのかもしれない。

キートップを外してみるとわかるが、バタフライ構造は支点がシザー構造よりも中央寄りになっていて、稼働するアームの支持構造の下に空間ができている。ここにゴミが溜まることで動作に支障が生じたり、可動部分に挟まって負荷が掛かり故障へとつながっていることが想定される。機械的な設計としては問題がなくても、ユーザがMacBookを実際に使用する環境はアップルが想定していた以上に過酷であり、キーボードの薄型化によってこれが浮き彫りになったのだ。

もちろん、キーボードとしての操作性や耐久性は比較にならないが、iPadプロのスマートキーボードのようにキーの周囲に隙間を作らず防塵性能を持たせることは可能だし、最新のMacBookプロの第3世代バタフライキーボードでは静音性が強調されているが、パンタグラフ部分の周囲に貼られているシリコン状のシートは異物の侵入を防ぐ効果も期待してのことだろう。

今回の問題の原因となったバタフライ構造(上)は、従来のシザー構造(下)と比べてキーの沈み込みと跳ね返りのレスポンスが素早く、浅いキーストロークでも快適なキータッチが得られるというものであった。その半面キー周囲の隙間から侵入したわずかな埃やゴミにより可動域に影響を受けやすい構造であった。

修理を依頼してみた

筆者が使用している2015年モデルのMacBookも、第1世代のバタフライキーボードを搭載しているため同修理プログラムの対象であった。幸いに特定のキーが動かないというトラブルは今のところ生じていないが、以前よりも誤タイプが増えたり入力の取りこぼしがあるようにも思われたので、アップルストアで修理を実際に依頼してみることにした。もし動かないキーがある場合については、あらかじめ入力メニューから「キーボードビューア」を起動し、すべてのキーを順番に押して問題があるキーについてメモ書きしておくと修理依頼の際にスムースだ。

今回の筆者のケースでは修理プログラムに書かれているような明確な症状ではないため受け付けてもらえるか不安な部分もあったが、明確な症状がある場合はバックアップを取ったうえでピックアップ&デリバリーの配送修理を依頼するという選択もあるだろう。ただし、宅配便の集荷を自宅で待たなければならないので、受け取りを確実に行いたいのであればアップルストア持ち込みが確実だ。なお、いずれの方法も検査から修理交換まで4営業日以上かかることがあるので、その間にも仕事を続行できる環境を整えてから依頼したほうが安全だろう。その場で交換というわけにはいかないのだ。

さて、ライターという仕事柄、打鍵数が比較的多いであろうことと、飼い猫がキーボードの上に乗って寝ることがあるため、経年劣化やゴミ詰まりがあることは想定されていた。

そこでアップルストア表参道に予約して持ち込んだところ、結果から言うと、その場でキー操作の異常が確認できなくても引き取って精密検査を行い、必要に応じて修理を実施してくれることが明らかになった。その後の検査の結果で異常がなければそのまま返却されることもあるが、異常があればMacBookの場合はキーボードを含むトップケースの交換、MacBookプロではトップパネルと一体化したバッテリも含むパーツ一式の交換となるという。

さらに、同修理プロフラムとは別に、キートップが剥がれるなど物理的なトラブルが生じている場合、ストアの在庫次第ではその場で5分程度でキートップを無償交換してくれる。もし、MacBookシリーズのキーに問題が生じている場合は相談してみるとよいだろう。

修理の手続きはApple Storeの直営店あるいは正規サービスプロバイダへの依頼、もしくはピック&デリバリーによる配送修理となる。修理内容はキーボードの検査後に決まるとのことなので、今回は最寄りのApple Storeに予約をして直接持ち込んでみた。

修理開始前に簡単なヒアリングが行われ、キーが反復入力されたり反応しなかったキーについて尋ねられる。再現性はないが入力の取りこぼしが多いことを伝えると、Apple Hardware Checkをその場で実施した。テストで問題がなくても預かって検査が行われる。

修理は混雑状況にもよるが基本は4営業日、長くても配送を含んで1週間程度で手元に戻ってくる。同プログラムはキー操作の個別の不具合解消が目的なので、必ずしも対策品と交換されるわけではないことには注意しよう。また、根本的に問題が解消するわけではないので日頃のキー周囲の清掃などのユーザメンテナンスは欠かせないとのこと。

2015年に発売された初代12インチMacBookのバタフライキーボードのキートップを取ったところ。この小さい空間に繊細なパーツとバックライトのLEDにスイッチが凝縮されている。

2018年7月に発売されたMacBook Proでは、バタフライ構造の周囲に薄いシリコン膜を貼ることで異物の侵入を防いでいる。この第3世代バタフライキーボードがAppleが下した当面の解決策だろう。 写真●iFixit.com