Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日:

日本初の画期的な医療サービスApple Watchで“デジタル診療”

著者: らいら

日本初の画期的な医療サービスApple Watchで“デジタル診療”

株式会社メディヴァは2018年5月、医療機関や自治体向けに、Apple Watchを使用した外来診療サポートサービスの提供を開始した。東京・赤坂の小川聡クリニックはいち早くそれを外来診療に導入。Apple Watchを病気の早期発見や生活の見守りに役立てている。

デジタル診療が始まる

アップルウォッチの可能性が、またひとつ広がろうとしている。新たな活躍の舞台は、外来診療の現場だ。株式会社メディヴァは5月、患者の健康データを管理するシステム「ザ・ダイアリー(The Diary)」と、日本医療データセンターが提供する「健康年齢」のレポートサービスをパッケージ化した「デジタル診療サポートサービス」の提供を開始した。

同サービスの特徴は、iPhoneやアップルウォッチが収集した利用者の健康データを、医療従事者が「ザ・ダイアリー」を介していつでも把握できるというところだ。患者の日々の活動量や心拍数などが、リアルタイムで医師に共有されることで、病気の早期発見や生活の見守りにつながるという。

iPhoneの「ヘルスケア」アプリで管理される情報であれば、スマート体重計や血圧計などのIoTデバイスで計測したデータをそのまま連係できるため、面倒な入力は不要。仮に「ヘルスケア」アプリ非対応の体重計などを使っている場合でも、音声入力に対応しているため、記録は簡単だ。なお、このアプリはアップルの健康管理アプリ用開発フレームワーク「ケアキット(CareKit)」を使って開発されている。

小川聡クリニックは同サービスを導入し、国内で初めてアップルウォッチを医療サービスに活用する医院だ。心臓ヘルスケア外来を担当する木村雄弘医師は、iPhoneやアップルウォッチなどから得られるヘルスケアデータは、もっと医療に活用できるはずだと話す。

「身につけているだけで知らない間に蓄積されていく膨大なヘルスケアデータを見える化することで、健康管理の目標が患者さんとってもわかりやすくなると思います。心電図、採血などの医療データに加えて、日常のアクティビティ、心拍数のトレンドがわかれば、より具体的に生活習慣の改善、心臓病管理にコメントをすることができます」

診療の際は、電子カルテの隣にiPadを置き、ザ・ダイアリーでデータを見ながら、患者と話をするそうだ。ザ・ダイアリーのアプリ上では、体重と血圧のデータをもとにした「健康年齢」レポートも毎月届くので、月に1度の外来診療と合わせてフィードバックする。木村氏は「患者さんの生活改善のモチベーションにもつながると思います」と同サービスを評価している。

小川聡クリニック(東京都港区赤坂)では、不整脈や心臓病の早期診断および治療を行っている。心臓ヘルスケア外来の診療日は、毎週金曜日午前(第一金曜除く)。【URL】http://ogawasatoshi-clinic.com

木村雄弘

小川聡クリニックの心臓ヘルスケア外来を担当、慶應義塾大学病院循環器内科医師。最新ICTと医療を融合した診療環境の構築に取り組む。

計測した医療データをもとに診療を行う様子。心臓ヘルスケア外来に通う女性は、Apple Watchでの健康管理について「すごく便利。手書きでの記録はもうやっていられないと思うほど」と満足げに語る。

シニア層も興味津々

現在、心臓ヘルスケア外来では、アップルウオッチを持っていない患者には貸し出しを行っている。中には、最初「なんだこれ?」と不思議がる高齢者もいたそうだが、アクティビティリングを完成させることが楽しくなり、タクシーに乗らずに運動するようになったという声もあるという。

「すべての機能を押しつけるわけではなく、患者一人一人にあった使い方を模索しながらやっています。これが体を動かすきっかけになればいいなと思います」

同クリニックの小川聡院長もこの取り組みを好意的に見ているという。

「今までは漠然と運動療法をアドバイスしていましたが、客観的なデータがあることで効果が目に見えるので、ハマる患者さんは多いです。年齢は関係なく、すべてモチベーション次第。診療にものすごく役立つツールだと思います」

これまで一般的な診療では、患者は健康手帳や血圧手帳に数値を手書きで記録し、来院時に持参する必要が多かった。いちいち血圧を書きためていく作業は、高齢者にとっては骨が折れることだったに違いない。しかし、デジタル診療サポートサービスを使えば、アップルウォッチで自動的に計測したデータはiPhoneに吸い上げられ、クラウドで管理される。数値化されない体調の良し悪しや、転倒などのアクシデントは、音声入力で行えば手軽に行える。

医師はそれらの詳細な情報をもとに、より患者に応じた診療が可能になる。患者は日々の面倒な記録から開放され、よりわかりやすい形で自分の健康状態が可視化される。利用者が増えデータが集まれば、将来ビッグデータとして新たな知見が生まれ、医療の進歩にも貢献するだろう。デジタルヘルスケアは日本でまだ始まったばかりだが、アナログな診療現場が変わる大きなうねりとなるのは間違いない。

小川 聡

小川聡クリニック院長、慶應義塾大学医学部卒(現名誉教授)。国際医療福祉大学三田病院名誉院長。元日本循環器学会理事長、元日本心臓病学会理事長。平成24年日本心臓病学会栄誉賞を受賞。同28年にクリニックを開設。

現場の負担解消が鍵

一方で課題もある。アップルウォッチを診療サービスに組み込むとなると、初めて使う患者に対しては、使い方の説明や初期設定などに時間を割かなければならない。もちろんそれらは医療行為ではないため、診療報酬のないボランティアとなる。今は現場の医療従事者の負担が大きいのが実情だ。

小川院長は「たとえば、クリニックの隣にアップルウォッチを購入したり、レンタルしたりできる“小さなジーニアスバー”を併設する。そういうサービスができないと、医療現場でアップルウォッチを活用した医療サービスは広がっていかないでしょうね」と指摘する。

また、命に関わる危険な症状をアップルウォッチですばやく検知し、通知を出すような仕組みも必要だと小川院長は提案する。

「心臓が速く不規則に拍動する『心房細動』という不整脈があり、今高齢者の間で大きな問題になっています。もし心房細動を早く見つけて治療できれば、何万人もの患者さんが救える。アップルウォッチが定期的に心拍数を取り続けているなら、不整脈の発作が起きたときに、アップルウォッチのアラームが鳴るような機能がほしいです。将来的に患者さんごとに心拍数のしきい値を設定してプログラムを組み、デバイスを貸し出せるような仕組み作りを期待しています」    (文/らいら)

アプリ「The Diary」の医療従事者向け管理画面(下)と、利用者向け画面(上)。医療従事者側では、各利用者のアクティビティデータや心拍数、体重などがグラフで一覧表示される。利用者は音声で記録を残すことも可能だ。 ※画像はデモ用のサンプルデータ

The Diaryには毎月、体重や血圧データをもとにした月間レポートが届く。初回測定時のみ血液検査の必要があるが、その後はヘルスケアアプリ内のデータをもとに、検査値ベースの推定健康年齢が算出される。