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Apple TVがライバル製品を圧倒「アプリで楽しむテレビ」が現実に

著者: 山下洋一

Apple TVがライバル製品を圧倒「アプリで楽しむテレビ」が現実に

ここ数年、テレビの楽しみ方が地上波放送から続く従来のテレビ視聴からストリーミングサービスに移行するといわれ続けてきたが、その進化がついに現実になろうとしている。ビデオストリーミング・デバイスによるコンテンツ視聴が急速に増加しており、地上波テレビ世代にも浸透し始めた。中でもApple TVがライバルを圧倒する伸びを見せている。

コンテンツ消費の拡大

「アップル製品の成長株は?」と聞かれて、今「アップルTV(Apple TV)」と答える人は少ないだろう。ところが、ネットTV視聴のデータ収集と分析を行っている「コンビーバ(Conviva)」の報告書によると、2018年1~3月期にアップルTVのビデオコンテンツのストリーミング視聴時間が前年同期比で709パーセントも伸びた。特に北米での伸びが著しく、米国ではテレビの楽し方を変えるデバイスになろうとしている。

モバイルも含めたビデオストリーミング対応デバイスのシェアで見ると、アップルTVを使った視聴時間は全体の5パーセントとまだ小さい。TVに接続するデバイスでは「ロク(Roku)」がシェアトップで、さらにXboxやプレイステーション、ファイアTV(Amazon Fire TV)のほうがアップルTVよりも使われている。だが、伸び率でアップルTVはライバルを圧倒しており、シェアで追い抜くのも時間の問題だ。

なぜ、アップルTVの伸びが突出してるのか。昨今のビデオストリーミング市場の成長は、ハードウェアではなく、コンテンツ消費にけん引されているからだ。3月期のデバイス数の増加は6パーセントだったが、視聴時間は114パーセントも増加した。北米は174パーセント増である。そのコンテンツ消費の伸びがアプリにけん引されており、アップルTVが好まれている。

全年齢のニーズを満たす

ビデオストリーミングの利用は、PCのデスクトップ向けWEBブラウザから始まり、そしてモバイルへと広がっていった。その過程でブラウザからアプリへのシフトが起こった。ネットで動画を配信するフールー(fulu)やネットフリックス(Netflix)といったOTT(オーバーザトップ)事業者は、PCよりも有望なモバイル市場に軸足を移し、アプリを通じたサービス提供を競った。

ところが、それによってビデオコンテンツの楽しみ方の二極化という新たな問題が生じた。34歳以下の世代は、OTTプロバイダやユーチューブ(YouTube)などネットコンテンツを好み、テレビのケーブルサービスを契約せずにPCやモバイルで楽しむ。一方で、高い年齢層は従来のテレビにこだわった。米国の視聴率上位番組の視聴者の年齢中央値が50歳を大きく超えるほど、地上波放送は視聴者が高い年齢層に偏って縮小。逆にストリーミングは若い層に偏ったまま成長が進まないという停滞に陥った。

それがアプリに対応する第4世代アップルTVの登場で解消に向かい始めた。変化の呼び水になったのが、「プレイステーション・ビュー(Playstation Vue)」や「ユーチューブTV(YouTube TV)」など、アプリを通じてストリーミングで地上波放送を視聴できるサービスの登場だ。米国では、地上波放送も、OTTサービスも、テレビ向けアプリにはすべて揃っていて、自分が必要とするサービスを自由に選択できる。そうなると、アプリを選ばない理由はない。50歳以上の層にもストリーミングの利用が広がり始め、逆に34歳以下の層も、それまでPCやモバイルで視聴していたビデオコンテンツをテレビでゆっくりと楽しむようになり、以前よりも長い時間をテレビの前で過ごすようになり始めた。

米国では今、ビデオコンテンツはアプリで楽しむのが主流になろうとしている。それが追い風になって、充実したアップルのアプリのエコシステムでビデオコンテンツを消費できるアップルTVの利用者が急増している。

これはアップルにとって大きなチャンスである。昨年のアップルTV 4Kの投入は、ビデオストリーミング・アプリのニーズを満たす効果的な新製品だった。ゲームなど、テレビの画面での利用に適したほかのカテゴリにもアプリの価値を広げられれば、アップルが主張する「テレビの未来はアプリ」が現実味を帯びてくる。

ビデオストリーミング・デバイスの再生回数のシェアはモバイルが42%、TV接続デバイスが35%だが、視聴時間はTV接続デバイスが54%で、28%のモバイルデバイスを上回る。テレビへのストリーミングの普及で、より長いコンテンツが消費されるようになった。【URL】https://www.conviva.com/research/convivas-screen-streaming-tv-census-report-q1-2018/

2018年1~3月期にブラウザを通じたビデオストリーミングの視聴時間の伸びが前年同期比71%増だったのに対して、アプリでの視聴は136%増。視聴時間のシェアは、ブラウザが27%、アプリが73%だ。

テレビに接続するビデオストリーミング・デバイスの視聴時間の伸び率(2018年1~3月期)。ビデオストリーミング全体が伸びているため、ほとんどのデバイスが増加したが、中でもApple TVは709%増とほかを圧倒。

AppleがケーブルTVのような配信サービスに参入するという噂があったが、「テレビの未来はアプリ」という戦略を打ち出して、あらゆるサービスの受け皿になった。写真はYouTubeが提供する地上波テレビ放送のライブ配信サービス「YouTube TV」。【URL】https://tv.youtube.com/welcome/