Appleは世界最大規模の時価総額を誇り、四半期ごとにもっとも多くのスマートフォンを販売するブランドとして知られている。そうした企業が率先して取り組んでいるのが、気候変動や地球環境への対処だ。Apple Parkに拠点を移した同社の取り組みを追った。
エコの象徴アップルパーク
アップルの本社所在地は2018年に入り、長らく使われてきた「1 Infinite Loop」から「1 Apple Park Way」へと変更された。2017年4月から新本社であるアップルパーク(Apple Park)が使われはじめ、およそ1年をかけてなお、緩やかに引っ越しが続いている。2017年9月のiPhoneイベントは、小高い丘にあるスティーブ・ジョブズ・シアターで開催され、メディア向けにアップルパークを公開する最初の機会となった。それから5カ月後の2018年1月、5つのセクションについての供用が始まり、残りの部分についても順次使用が開始される。
円盤は直径およそ450メートル。外周を1周すると、1キロ弱の距離となる。内部は全部で12のセクションに分かれており、ちょうど時計と同じと考えればしっくりくる。つまり1セクションあたり角度30度分が割り当てられており、各セクションにはロビーが用意され、建物のもっとも内側の部分にはエスプレッソも楽しめるカフェが備わっている。
真逆のセクションへ行くには、円盤の中庭を歩くのが最短距離になる。ただ、すでに入居している従業員の多くはきまって、建物のもっとも内側に用意されたセクション間を結ぶ廊下を、好んで歩いている様子が見受けられるという。すれ違う人とコミュニケーションを取りつつ、アップルウォッチ(Apple Watch)のリングを完成させることができる、ヘルシーなキャンパスそのものだ。ちなみに、メインビルの外周、あるいはそのほかの施設への移動には、用意されているシルバーの自転車を自由に活用して素早く移動することができる。
アップルパークは、巨大な建造物であると同時に、巨大な発電所でもある。キャンパス全体で17Mwhもの発電量を有しており、建物の屋根のほとんどにはソーラーパネルが敷き詰められている。メインビルディングのセクションロビー部分はガラスの天井から空が見え、ソーラーパネルが設置されていない唯一の箇所となっていた。
また、魅力的なのは中庭だ。広い正円の庭園ながら植生は建物の外部以上に密になっており、常緑樹が青々と茂り、まるでオアシスのような風景が拡がっていた。ちらほらと果樹の白い花もほころびはじめており、夏から秋にかけて、イチジクやプラムなどを従業員とその家族で収穫するイベントも企画されるという。
アップルは「夢の仕事」
ティム・クックCEOをはじめとする役員の執務室があるのは、メインビルのセクション6だ。ここはちょうど「1 Apple Park Way」の付近あたり、アップル新社屋の表玄関にして中枢といえる場所だ。
同じセクション6にオフィスを構えているリサ・ジャクソン氏は、アップルで環境・政策・社会イニシアティブを担当するバイスプレジデントを努めており、アップルの環境への取り組みを統括している。同氏はペンシルバニア州フィラデルフィアで生まれ、テューレーン大学とプリンストン大学で化学工学の学位を修めた科学者で、米国環境保護局などで長年にわたり、気候変動に対する政策に関わってきた。2009年から2013年のアップル入社まで、米国環境保護局の長官を務め、アメリカという国が気候変動にどのように対処し、持続可能な発展を遂げるかというテーマに取り組んできた。
ジャクソン氏がアップルでの仕事を、「夢のような仕事」と語る理由は、そのスケールの大きさにある。一国家を超えて、世界中で愛されるテクノロジー製品を作り出すアップルでの環境対策の仕事は、これまで以上に大きな影響を作り出すとの確信があったそうだ。
アップルに誘われた際、クック氏はジャクソン氏に「アップルの製品を使い人々が暮らすことと、地球を守ることは同義であるべきだ」と語ったという。ジャクソン氏はアップルでの仕事を通じて、製品の設計から環境への配慮を盛り込むことができる点に気づき、また膨大なアイデアを盛り込むことができる意味で、「夢の仕事」と語ったのだ。
環境、政策およびソーシャルイニシアチブ担当バイスプレジデントのリサ・ジャクソン氏。同氏は2009年から2013年まで、バラク・オバマ大統領によってアメリカ合衆国環境保護庁長官として活躍した。【URL】https://www.apple.com/leadership/lisa-jackson/
製品の使用にも責任を持つ
アップルパークは、同社がビジネスを行ううえで使用する電力を100%再生可能エネルギーでまかなうという目標を掲げる中、もっとも象徴的な建物といえる。エネルギーを作り出すだけでなく、より効率的にエネルギーを使用する仕組みを随所に盛り込んでいる。ビジターセンターを訪れるだけで、空調もエレベーターも日本製であることに気づく。非常に細かく、いかにエネルギーを大切に使うかがデザインされていることがわかる。
アップルは世界中のビジネスにおいて、96%を再生可能エネルギーへの転換した。国土の狭い日本では、ビルの屋上を借りてソーラーパネルを設置することで再生可能エネルギーを確保した。ジャクソン氏のもとには、毎日さまざまなアイデアが綴られたメールが届くという。
エネルギーに加えて、カーボンフットプリントについても目を光らせる。アップルの2016年のCO2排出量は2950万トン。このうち製品の製造にかかる割合が77%を占める。現在製品の多くでアルミニウムが用いられているが、1つの金属素材にフォーカスすることで、CO2排出量の低減につなげている。
たとえば、iPhone 6sは製造時、iPhone 6よりも6割のCO2排出量を削減しており、さらにiPhone 7はiPhone 6sより17%の削減に成功した。13インチモデルMacBookプロで比べると、タッチバー(Touch Bar)搭載モデルは以前と比べ48%少ないCO2排出量で製造される。
加えて、ユーザが製品を利用する際のカーボンフットプリントにも目を光らせる。製品仕様によるCO2排出量の割合は全体の17%。これは主に顧客が製品を使用中、もしくは充電する際に使用される電力を指す。つまり、バッテリ持続時間が伸びれば伸びるほど、CO2排出量が削減できることを意味する。
iPhone Xは、iPhone 7よりも2時間長いバッテリ持続時間を備えているという。これはiPhone Xへの買い換えが進めば進むほど、毎日世界中で2時間分の電力が節約できることを意味する。iPhoneの年間販売台数はおよそ2億1000万台。新型iPhoneが少しでもCO2排出量を削減して製造され、バッテリ持続時間が少しでも伸びれば、膨大な環境対策につながる。これが、ジャクソン氏が語る、アップルの影響力の大きさなのだ。
毎年4月22日のアースデーを記念し、Apple Storeのロゴのリンゴの葉の部分を緑に変え、従業員も緑のTシャツを着て、顧客へのメッセージを送っている。「今年のアースデーにも、素晴らしい発表があるので期待してほしい」とジャクソン氏。
製品作りから環境を意識する
「デザインだけでなく、内部まで美しい製品を目指すうえで、次に何をすべきか、どこに可能性があるのか、常に考える必要があります」
そう語るジャクソン氏は、環境対策は常に創造的でなければならない、と指摘する。たとえば、有害物質を取り除く取り組みは早くから実現できるが、次に何をすべきかを考えなければならない。現在取り組んでいるのは、「グリーンマテリアル」というテーマだ。
「資源の削減とリサイクルを徹底することが、グリーンマテリアルの意義です。iPhone 8は、iPhone 7よりも25%少ないアルミニウム使用量を実現しました。現在はiPhoneを作るために、新しい資源に頼っていますが、将来古いiPhoneの資源だけで新しいiPhoneを組み立てることを目指します」
これはクローズドサプライチェーンといわれる考え方だ。確かにカメラやディスプレイ、プロセッサなど、性能が如実に変化するパーツのリサイクルは難しいが、ケースやネジ、パーツに用いられる資源などのリサイクルを最大限に行うことはできる。たとえば、アルミニウムのケースを採用する製品に集中していることも、新しい資源に頼らない製品作りへの一歩と位置づけることができる。
ハードウェア、ソフトウェアを一社でデザインする数少ない企業となったアップルは、そのデザインの中に、環境や持続性をすでに盛り込んでいる。ジャクソン氏は、アップルが優位性を維持するのではなく「多くの企業に真似してほしい」と、その思いを語った。