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あのファレル・ウィリアムス氏がROLI社のCCOに就任!

リスナーをプレイヤーに変える「楽器界のApple」の次世代デバイス

著者: 大谷和利

リスナーをプレイヤーに変える「楽器界のApple」の次世代デバイス

通常の鍵盤楽器をはるかに凌駕する表現力を持つ「Seaboard」や、プレイヤーのレベルや好みに応じたレイアウトで演奏できるモジュール構造の「BLOCKS」により、電子楽器を革新し続けるROLI(ローリ)。楽器界のAppleともいえる同社が目指す、アプリとハードによる「音楽の民主化」の最前線を紹介する。

想像を超えた演奏法の実現

2009年に現CEOのローランド・ラム氏が創業したイギリスのROLI社は、その最初の製品である「シーボード(Seaboard)」によって楽器界に新風を吹き込み、わずか数年で独自のポジションを築き上げた。

ジャズピアニストでもあるラム氏は、キーを叩く力の強弱による表現が中心となるピアノでは滑らかに連続する音や中間的な音が出せないのに対し、より幅広い表現と演奏テクニックに対応できる弦楽器や管楽器を羨ましく感じていたという。一見するとキーボードだが、独立したキーを持たず、全面が滑らかに波打つシリコン製のサーフェスで覆われたシーボードは、その思いが元になって誕生した。

柔らかなその表面は、指で叩くストライク、押し込むプレス、押したまま左右に揺らすグライド、タッチして前後に動かすスライド、押し込んだ指を離すリフトの5つの操作法(5ディメンション・オブ・タッチ=5D)をサポートする。これにより、シーボードは親しみやすい鍵盤楽器的なデザインをベースとしつつも、既存のあらゆる楽器を超える新次元の演奏法を可能とした。

実のところ5Dは、禅や「侘び・寂び」の精神に共感を覚えるというラム氏が書道の筆法にインスパイアされて生まれたもので、逆説的だが、電子楽器だからこそ実現したアナログ的感覚を突き詰めたインターフェイスとなっている。その5つの要素の組み合わせによって、プレイヤーは、これまで以上に意図や感情を反映した演奏を行えるのだ。

Seaboard RISE 25

【発売】ROLI

【価格】9万9800円

【URL】https://roli.com/products/seaboard/rise-25

センサが搭載されたシリコン製のKeywaveサーフェスによって、これまでにない直感的な演奏法を実現した「Seaboard」。25鍵盤モデルと49鍵盤モデルが展開されている。

このシーボードで培われた技術を応用し、価格面でも使い方においても、より幅広い層にアピールするように開発された製品が、「ブロックス(BLOCKS)」と呼ばれるモジュール式の電子楽器である。こちらは、コンパクトな「シーボード・ブロック(Seaboard Block)」、光るタッチサーフェスにさまざまな楽器やシーケンサの役割を与えられる「ライトパッド・ブロック(Lightpad Block)」、そして曲作りやライブ演奏などの目的に応じたスイッチ類を備えた「タッチ・ブロック(Touch Block)」、「ライブ・ブロック(Live Block)」、「ループ・ブロック(Loop Block)」の3種のコントロールブロックから構成される製品であり、各ユニットに内蔵された磁力式のDNAコネクタによって縦横自在に合体し、使いやすいレイアウトで演奏することができる。

BLOCKS

【発売】ROLI

【URL】https://roli.com/products/blocks

ROLIのテクノロジーをカジュアルに楽しめる、モジュラー楽器のBLOCKS。キーボードのSeaboard Block(税込3万6800円)、光るドラムキットともいえるLightpad Block(税込2万3500円~)、各種制御用のボタン類をコンパクトにまとめた3種のControl Block(税込1万500円)からシステムが構成される。

リスナーをプレイヤーに変える

そして、ここがアップル製品と関連する重要なポイントだが、音源を内蔵した最上位の「シーボード・グランド(Seaboard GRAND)」を除くROLI製品は、すべて、スマートデバイスを音源とし、特にiOSデバイスとの相性が良い。というよりも、ROLIの考える楽器としてのクオリティを満たそうとすると、アプリ側でかなりシビアなチューニングが必要となり、アンドロイドデバイスでは機種ごとのハードウェアのバラツキが多すぎて検証も難しいため、「グーグル・ピクセル/ピクセル2(Google PIXEL/PIXEL 2)」のみのサポートとなっているのだ。

ちなみにiOSデバイスの場合には、iOS 9.3以上をインストールしたiPhone 5s、iPadエア、iPadミニ2、第6世代のiPodタッチ以降の機種で利用でき、後述する「シーボード5D(Seaboard 5D)」アプリからシーボードを使う場合には、iOS 9.0以上をインストールしたモデルがすべて対象となる(ただし、アプリ側での5D機能の利用には、3Dタッチ対応のiPhoneが必要)。

現在、シーボード5D、「ノイズ(NOISE)」、「ローリ・プレイ(ROLI Play)」の3種類があるアプリの位置づけもユニークだ。すべて無償(拡張音源データはアプリ内購入)で提供されており、ブルートゥース経由でROLIのハードと連係するが、基本的にはソフトウェアのみでシーボードやブロックスと同じことができる。たとえば、シーボード5Dは、シーボードの普及モデルである「シーボード・ライズ(Seaboard RISE)」と同等の演奏が可能であり、ノイズはライトパッド・ブロックとシーボード・ブロックに対応する画面と機能を持っているのだ。

それは、アプリからハードウェアを完全にコントロールするために必要だからでもあるが、その一方で、音楽を聴くだけでなく、演奏する楽しみを知ってもらうためにハードルを下げる工夫にもなっている。

つまり、新たな楽器を入手するにはそれなりの出費が伴うが、ROLIは、これらの無償アプリを通じて自社製品の特徴に馴染んでもらい、本格的な演奏にステップアップしたいと感じたら実際の楽器を購入できるようにしたわけだ。

というのは、ROLI製品のハードウェアの実物を見ればわかるが、プレイヤーが直接触れる楽器として、演奏面の触感ひとつとってもフラットで硬いスマートデバイスの画面とは異なる作り込みが徹底して行われており、所有して弾いてみたくなる魅力に溢れているのである。

ジャンルを問わず音楽のリスナーは多いが、自分で楽器を弾くプレイヤーの数はぐっと少なくなる。それは、弾くことが面白く感じられるようになるまでに壁があり、弾きこなして自分の表現ができる段階の前に、さらに越えるべき山があるためだ。しかし、アプリとハードの2段構えでユーザをサポートすることによって、ROLIは、リスナーをプレイヤーに変えるという課題に対して非常に有効な解を示したといえよう。

BLOCKSの演奏時のレイアウト例。各モジュールは、磁力式で情報伝達機能も担うDNAコネクタによって合体する。初心者はLightpad Block1つでも楽しむことができ、モジュールを組み合わせればプロの要求にも応える本格的な演奏が可能となる。

ソフトウェアにも注力するROLIは、3種のiOS用無料アプリを用意している。「Seaboard 5D」アプリは、リアルなSeaboardの特徴であるストライク、プレス、グライド、スライド、リフトの演奏技法をサポートし、MIDI楽器もコントロールできる。

音楽は、時間の流れと切り離すことができない。この事実から新たに発想された、時計を思わせる円形のシーケンサ的なインターフェイスを持つ音楽アプリが「ROLI PLAY」だ。Lightpad Blockと組み合わせて、遊び感覚で音楽作りができる。

「NOISE」アプリは、単体でシーケンサーやデジタルドラム的に利用できるほか、Lightpad Blockの設定アプリとしても機能する。多彩な音源を割り当てたり、さまざまな音階をグリッド上に配することができ、一般の鍵盤に不慣れなプレーヤーでも演奏が楽しめる。

哲学に共感したファレル

ラム氏は著名なミュージシャンたちとも親交が深い。ファンキーなネオソウルナンバー「Happy」の世界的大ヒットでも知られるファレル・ウィリアムス氏が、2017年の秋にROLIのCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)に就任したのも、音楽の民主化を進めるラム氏の哲学に共感したからにほかならない。

そんな2人が、アップル銀座の「トゥデイ・アット・アップル(Today at Apple)」イベントのミュージックラボ(Music Lab)のセッションに登場し、ラム氏がウィリアムス氏から、創造力の源がどこにあるのかを聞き出すという形で熱いトークを繰り広げた。

ウィリアムス氏は、それは特別なことではなく、誰の中にもあるものだと説く。

  「創造という行為は人類が前進するために必要不可欠なもので、その1つである音楽も決して廃れないし、古くなることはないんだ。けれど、そのアプローチは人によって異なっていて、誰かには見えるのに自分には見えなかったり、その逆のこともあるのさ。暗い部屋でサングラスをしていても、何かが見えることだってある。そのアイデアを拡張するうえで、テクノロジーが役に立つ。カメラやスマートフォン、シーボードだって、自分たちの中にある何らかの感覚を具体化したいという衝動から創られたものなんじゃないかな。もし、君の心の中に何かが芽生えたなら、それを具体化していくことができるはずなんだ。そうできるかどうは、単純に個人的な問題さ。何かを実現したいという思いがあるかどうか。捉えどころのない何かを、手応えのあるものへと変えたいという気持ちさえあれば、そうできるものなんだよ。そのためにも、常にオープンでいることが大切さ」

彼の言葉は、まさに「ハッピーな俺と一緒に手を叩こう」という「Happy」の歌詞に通じるものがあり、誰もが気持ち次第で創造的になれるというメッセージが伝わってきた。

ROLIの将来的な製品には、ファレル・ウィリアムス氏のビジョンも反映されて、より革新的なデザインや機能性が盛り込まれていくはずだ。その、まだ見ぬ未来の楽器を、今から楽しみにして待ちたいと思う。

ROLI CEOのローランド・ラム氏と、世界的ミュージシャンで昨秋に同社のCCOに就任したファレル・ウィリアム氏を迎え、去る2018年1月16日にApple銀座で開かれたMusic Lab「ファレル・ウィリアムに学ぶ創造力の源」セッションの様子。

グローバルヒットとなった「Happy」で知られるミュージシャンのほか、プロデューサー、ファッションデザイナーなど、いくつもの顔を持つファレル・ウィリアム氏。ミュージックビデオで見せた姿とは異なり、もの静かで思慮深く質問に答えていた。

ローランド・ラム氏は、日本の禅寺で修行したり、ロンドンの著名なアート&デザイン学校、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートにデザイン経験なしで入学を許されるなど、異色の経歴を持つ経営者。Seaboardを発明したビジョナリーでもある。

ROLI製品に精通するプロミュージシャンのパリシー兄弟は、同社の専属アーティストとして、SeaboardやBLOCKS関連のイベントなどで、その可能性を最大限に引き出す演奏を披露している。