読む前に覚えておきたい用語
GPS(Global Positioning System)
GPSは米国が運用する全球測位衛星システム(GNSS)で、1978年から現在までに計24基(予備を入れると30基)が打ち上げられた。高度2万kmの6軌道面に各4基のNAVSTAR衛星が配置されており、地球を12時間で周回する。主に船舶や自動車などのナビに利用されている。
GNSS(Global Navigation Satellite System)
GNSS(全球測位衛星システム)は人工衛星を用いた全地球規模の測位システムの総称で、米国のGPS、ロシアのGLONASS、EUのGalileo、インドのIRNSS、中国の北斗などがある。日本では2010年以降に準天頂衛星システムとして4基の「みちびき」が打ち上げられて運用が開始された。
QZSS(Quasi-Zenith Satellite System)
QZSS(準天頂衛星システム)は主に日本周辺国向けの地域航法衛星システムで、2010年に1基、2017年に3基の「みちびき(QZS-1~同4)」が打ち上げられ、2018年から4基体制で稼働に入る予定。常に日本上空に1基以上が配置され、GPSを補完する形で高精度測位を実現する。
地球上の位置を知るGNSSの仕組み
一般に呼ばれるGPSとは、正確には米国が運用する全球測位衛星システム(GNSS)のことを指す。GPS衛星「NAVSTAR」はもともと米軍が軍事目的で開発したGNSS衛星の1つで、地上約2万キロの高度を約12時間で周回する準同期衛星であり、予備機を含めると約30基が地球の軌道上を周っている。GNSSにはこれ以外にもロシアのGLONASS、EUのガリレオ(Galileo)、インドのIRNSS、中国の北斗などがあり、日本でも2010年以降に打ち上げられたQZSS衛星「みちびき」4基が高度3・26~3・89万キロの太平洋上に配置されている。iPhoneでは、3G以降でA-GPS、5以降でA-GPSとGLONASS、6s以降のモデルでA-GPS、GLONASS、ガリレオ、QZSSに対応している。
GNSS衛星には原子時計が搭載されており、極めて高精度な時刻データに加えて衛星の軌道データが送信されている。GNSS受信機はこのGNSS衛星からの送信データを捉え、内蔵時計の時刻と受信した衛星の時刻データを比較することで、GNSS衛星までの距離を求めることができる。同様の方法で3つのGNSS衛星の位置と各衛星までの正確な距離を計算すれば、受信機の位置を三次元空間上に特定することができる、というのがGNSSの基本原理だ。ただし、一般的な携帯機器に内蔵されている時計はクオーツ(水晶発振)などによる一般的な精度のため、その更正のために最低でも4つ以上のGNSS衛星からの情報を必要とする。
GNSS衛星を使った位置測位システムは、航空機、船舶、測量機器などから応用が始まり、その後カーナビゲーションやスマートフォンなどの携帯端末へと用途が広がった。現在は受信モジュールやアンテナも大幅に小型化されている。同システムのメリットは、GNSS衛星の電波の届く範囲なら地球上のどこでも位置情報を得られる点にあり、一般的に10メートル程度の誤差で現在位置を把握できる精度がある。その反面、GNSS衛星からの軌道データの転送速度(約30秒周期)の制約から、最初の位置特定に数分程度を要する点や、衛星からの電波が充分届かない屋内やトンネル内、地下施設などでは測位できないなどのデメリットがある。このため、GNSS衛星からの電波がまったく受信できないトンネル内や地下などでもある程度の位置情報取得を可能とするために、加速度センサやジャイロ(角速度)センサなどを利用した自立測位系を備えているデバイスが多い。
測位を高速化するA – GPSとは
iPhoneなどのスマートフォンに採用されている位置測位システムはA-GPS(Assisted GPS)と呼ばれ、その名のとおり従来のGNSS衛星を使った測位をベースに、携帯通信ネットワーク網を活用することでその欠点を補う機能を備えたシステムだ。A-GPS機能を持った端末が位置情報の取得を要求した場合、キャリアはそのユーザの端末が接続している携帯無線基地局からユーザのおおよその位置を半径数キロの範囲で特定でき、そこで受信可能なGNSS衛星の軌道データをユーザ端末に送信する。これによって端末は、各GNSS衛星からの時刻データだけで高速に現在位置を割り出すことが可能になる。つまり、GNSS衛星からの情報のうち、受信や計算に時間の掛かる軌道データをキャリアが携帯通信網で送ることで、高速な位置情報の取得を実現しているわけだ。
そして、iPhoneの位置情報サービスは、GNSSのみならずWi-Fiも併用してその精度を向上させている。この仕組みによって、iPhoneがGNSS衛星の電波をまったく受信できない場合や、GPS機能を搭載しないiPadやiPodタッチでも位置情報サービスを利用できるのだ。位置情報サービスがオンになっているiOSデバイスは、付近のWi-Fiアクセスポイントのビーコン情報とアップルから提供される「クラウドソースデータベース」から現在位置を特定する仕組みだ。このクラウドソースデータベースは、同じく位置情報をオンにしているiPhoneが付近から収集して自動送信したWi-Fiアクセスポイントの位置情報をベースに構成されている。
各国が運用するGNSS一覧
米国、ロシア、EUはすでに全世界をカバーするグローバル軌道衛星を運用しており、2020年にはこれに中国が加わる予定だ。インドと日本が運用するIRNSSやQZSSは特定地域衛星と呼ばれ、グローバル軌道衛星を補完して計測精度を上げるのが目的だ。
みちびき(QZS-1)の衛星外観
「みちびき(QZS-1)」は2010年9月に打ち上げられた最初の準天頂軌道衛星で、GPSなどのGNSSを補い、より高精度かつ安定した衛星測位を実現することを目的に運用されている。2017年には3基が追加され、2018年から4基体制での運用が開始される見込み。【URL】http://qzss.go.jp/
GNSS衛星位置表示アプリ
NECの開発した「GNSS View」では、半天球円に衛星の位置を表示する「Position Rader」と、上空にかざして衛星の位置をカメラ画像に重ねて表示する「AR Display」を備えており、みちびき4基の現在位置や軌跡もリアルタイムに表示できる。【価格】無料【場所】App Store>ナビゲーション
GNSSの動作原理
地球上空を周回するGNSS衛星からの時刻データを受信することで、衛星からの距離がわかる。3つの衛星を使えば原理上は地球上での位置が特定できる。端末自体の時刻データの精度が低い場合には、4つ以上の衛星からの信号受信が必要になる。
A-GPSの仕組み
高速な測位を実現するために、GNSS衛星からの受信に時間の掛かる軌道データをキャリアが携帯通信網を使って端末に提供する。これによりGNSS衛星の位置や電波状況に左右されにくく高速な測位が可能になる。iPhoneはさらに周辺のWi-Fiアクセスポイントから得た情報も活用して測位を行っている。
GNSSを補完する日本のQZSSとは
GNSS衛星を使用した位置計測精度は先に述べたとおり10メートル程度だが、これはGNSS衛星からの受信状態がもっとも良い場合の精度で、実際には遮蔽物の影響や衛星の位置関係によって受信可能なGNSS衛星の数が減るため、さらに精度は悪くなる傾向がある。GNSS衛星の数は限られており、従来のシステムでは測位精度を劇的に向上するのは容易ではない。そこで、GNSS衛星を補完する衛星を打ち上げて測位精度を向上させようというのが「準天頂衛星システム(QZSS=Quasi-Zenith Satellite System)」で、文部科学省、総務省、経済産業省、国土交通省の4省が共同で研究開発を進め、2010年9月に最初のQZSS衛星「みちびき(QZS-1)」がJAXA種子島宇宙センターよりH-IIAロケットで打ち上げられた。続いて2017年6月、8月、10月に「みちびき(QZS-2, QZS-3, QZS-4)」が軌道に投入されており、2018年には4基体制でシステムを運用開始する予定だ。
4基体制の運用が開始されると日本上空に少なくともQZSS衛星のうち常に1基が存在することになり、ビルの谷間や山間部などGNSS衛星を捉えにくい状況での測位が可能になる。iPhoneをはじめとするスマートフォンでのQZSS対応のメリットは、現時点ではこの点に集約されている。
また、新たに採用された「センチメータ級測位補強サービス(CLAS)」により、徒歩でのナビゲーションなど低速移動体または静止体の測位精度は数センチまで向上するとされており、これにより移動体の測位精度の向上はもちろんのこと、歩行者のナビゲーションや土木測量などへの応用も可能になると考えられている。
ただし、同サービスを利用した高精度計測には補強信号を処理する大がかりな設備が必要になるため小型携帯端末への採用は難しく、当面は産業分野での利用が中心となる見込みだ。現時点ではまだQZSSを用いたCLASには対応していないiPhoneだが、今後インフラの整備と受信機能の小型化が進めば、いずれは数センチレベルの測位が可能になる日が来るだろう。
今井 隆
IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。