グラフィカルインターフェイス(GUI)を備えたApple製コンピュータの歴史の始まりとなった「Lisa」。Macintoshの誕生にも大きく関わるデスクトップPCだ。その基本ソフト「Lisa OS」のソースコードがコンピュータ歴史博物館を通じて公開される見通しになった。
元アップルのエンジニアが修復
アップルが1983年に発売したパソコン「Lisa」の基本ソフト(OS)「Lisa OS」のソースコードが公開される見通しになった。
シニアソフトウェアエンジニアとしてアップルコンピュータで活躍し、現在はコンピュータ歴史博物館のソフトウェアキュレータを務めるアル・コソー氏が、ディスクイメージシェフを用いてメディアからファイルを修復した。ソースコードは、パスカル(Pascal)タブをスペースに変換し、UNIX用の改行コードに直した以外はオリジナルのまま。現在アップルがレビューを行っており、順調に進めば、2018年内にコンピュータ歴史博物館の管理の下で公開される。
アップルの共同創業者スティーブ・ジョブズ氏が1979年にゼロックスのパロアルト研究所(PARC)でグラフィカルインターフェイス(GUI)のデモを見て、そこから思い描いたコンピュータを形にした製品がLisaである。デスクトップにアイコンを置き、マウスでポインタを動かしながら直観的に操作できる。
しかしながら、開発はトラブルの連続だった。開発陣に高い要求を突きつけるジョブズ氏。それが混乱を引き起こしていると見た当時のマイケル・スコット社長はジョブズ氏をLisaプロジェクトから外した。Lisaはビジネスユーザ向けだったが、それでも9995ドルという価格は高額だった。現在の貨幣価値に換算すると、約2万5000ドル(約270万円)近くである。また、当時としては広大な内蔵メモリ領域を持っていたものの、CPUのモトローラ68000の動作クロックは5MHzであり、先進的な機能を動かすには非力で、商業的な成功を収められなかった。
しかし、Lisa開発の混乱が1984年のMacintoshの登場につながることになる。Lisaチームを外されたジョブズ氏が、当時ジェフ・ラスキン氏が進めていたプロジェクトに目を付け、Lisaよりも求めやすい価格で、よりシンプルで洗練されたパソコンを完成させた。
カリフォルニア州マウンテンビューにあるコンピュータ歴史博物館は、コンピュータの歴史を伝えるレアなコレクションを多数所有する。MS-DOSやApple II用のDOSのソースコードなど、オンライン展示も充実している。
Macの誕生を支えた
アップル社内でLisaとMacintoshのプロジェクトが競い合っていたため、2つは競合していたとよく見なされるが、LisaあってのMacintoshでもあった。価格を抑えた分、Macintoshには制限が多く、たとえば初代モデルのメモリーはわずか128KBで、シングルタスクOSだった。Lisa OSは協調型マルチタスク機能とメモリ保護機能を備えていた。また、パスカルを開発言語とした「リサ・ワークショップ(Lisa Workshop)」という統合開発環境を備え、初期のMacintoshのアプリケーション開発はLisaで行われていた。
MacintoshとLisaの関係をそうした角度から見ると、今日のiOSとmacOSの関係に似ている。iOSデバイスとMacの間には競争がある。iPhoneはコンピュータをたくさんの人の手に広げ、iPadプロはパソコンにはないポストPC時代の体験を形にしている。今やMacの市場よりもiOSデバイスの市場のほうがずっと大きい。しかしながら、iOSはmacOSと同じOS基盤の上に作られており、iOSアプリを開発するにはMacが必要である。
Macがあってこそ今日のiOSアプリ市場の繁栄があるように、プロ向けのツールとしてLisaはMacintoshの誕生を支えた。パソコンの進化を加速させたLisa OSに何が含まれていたのか。ソースコードから確認できるのを、多くのパソコンマニアが楽しみにしていることだろう。
Lisa OSのソースコードを公開するプロジェクトが公表されたあと、今年1月に本体が起動し、またTwiggyドライブも動作する「Lisa 1」が海外オークションサイト「eBay」に出品されて話題になった。Lisa OSを含む5.25インチディスク付きで、落札価格は5万6100ドルだった。【URL】https://www.ebay.com/itm/182999855120