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Appleも力を入れる「AR」CES 2018の注目展示を追う

著者: らいら

Appleも力を入れる「AR」CES 2018の注目展示を追う

米ラスベガスで2018年1月9日~12日(現地時間)に開催されたCES 2018。AR技術関連のエリアでは、世界中から集結した企業がさまざまな最新製品をアピールしていた。ARによって、これからの映像体験はどのように進化するのだろうか。AppleのAR戦略を占ううえでも、最新の動向から目が離せない。

「没入感」がキーワード

IT業界の新年は「CES」とともに明ける。「CES」(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)とは、米ラスベガスで毎年1月に開催される世界最大級の家電見本市だ。誕生したばかりのスタートアップから、インテル、ソニー、サムスンといった大企業まで、世界中のIT企業が集結し、新製品の発表や最新技術の展示を行う。2017年には約4000社が出展し、18万4000人以上が来場したという超巨大イベントだ。

今回はその中でも、アップルが近年力を入れているAR(拡張現実)技術関連のブースに注目した。アップルは2017年のWWDCで、開発者向けのARフレームワーク「ARキット」を発表。iPhoneやiPadが、世界最大のARプラットフォームになると強調した。またCES 2018ではアップル関係者が、ARヘッドセット製品のサプライヤーと密かに会談する様子が目撃されたと海外メディアが報じている。アップルのAR関連の発表には今後も期待したいところだ。

CESに話を戻そう。ARといえば、「ARグラスやヘッドセットを装着して、現実世界を融合させる3D映像を体験する」というイメージがあるかもしれない。しかしCESでは、デバイスにとらわれない多彩なアプローチで、現実を“拡張”させるAR技術が多く展示されていた。

たとえばフルフェイスのヘルメットに小型ディスプレイを搭載し、ARで情報を表示できるものや、おもちゃのガンの上部にスマートフォンを装着し、ディスプレイ上のARの映像を見ながら遊べるシューティングゲームなど、デバイスにとらわれないAR技術の活用が広がっている印象だ。もちろん従来のARグラスやヘッドセットなども進化しており、より軽量で安価な製品の開発が進んでいる。

ARの展示ブースやセッションで気になったのが、しきりに登場する「immersive」(没入できる)というフレーズだ。イマーシブ・メディア、イマーシブ・エクスペリエンスなど、ARによっていかに没入感のある映像体験が実現できるかを強調していた。もともとARやVR技術におけるキーワードのひとつではあったが、今後は没入感をより高めるための広い視野角、リアルな映像、インタラクティブな操作などが、さらに重要視されるようになるだろう。今回のレポートでは、それらを具現化しており、なおかつ来場者の目を引いていた展示を紹介していく。

なおグリーンライト・インサイツの調査によると、今後AR産業は、2019年に36億ドル、2023年には360億ドルに増加すると同時に、ARヘッドマウントディスプレイは出荷台数が190万台から3000万台に増加するという。市場が急速に拡大していく中で、アップルはどんな戦略を取るのかにも注目したい。

スマートヘルメットでバイクを運転

米SKULLY Technologie社が展示していたのは、バイク向けARヘルメットの「SKULLY FENIX AR」。180度のリアビューカメラを搭載し、視界の右下部分に設置されたヘッドアップディスプレイに映像を映し出す。カメラの映像には、AR技術によってGPSのナビゲーション情報などが重ねて表示され、運転しながらさまざまな情報を受け取ることが可能だ。

前身のSKULLY社は、クラウドファンディングで目標の約10倍もの出資を集めながらも、製品化を前に破産。2017年にSKULLY Technologieとして再出発し、今回新製品のプロトタイプを発表した形だ。SKULLY Technologie社は、「スマートヘルメット技術によって、ライダーの安全性とコネクティビティが向上する」としている。

ヘルメット内部の右頬に近い位置に、小型のヘッドアップディスプレイを搭載。一般的なバイクでは、バックミラーの狭い範囲でしか背後を確認できないが、このディスプレイでは180度リアビューカメラの映像を見て運転できる。さらにARでナビや速度などの情報も映し出される。

運転中はボイスコントロールによって、音楽のストリーミング再生やハンズフリーでの通話も可能。今夏出荷開始を予定しており、ライダーたちからの期待も大きい製品だ。

中国の軽量なARヘッドセット

中国メーカーDreamWorldは、持ち運びが容易なARヘッドセットを展示した。100度の広い視野と230グラムの軽量なボディによって、没入感のあるAR体験が可能だという。

また大きな特徴として、Googleの「ARCore」およびAppleの「ARKit」と2つのARフレームワークをサポートする。まもなくクラウドファンディングサイト「キックスターター」において、“手頃な価格”で予約注文を開始する予定だ。

このようにARブースでは、DreamWorldをはじめ中国や韓国企業の出展が目立っており、アジアメーカーの勢いを感じた。一方、日本企業が1社もなかった点は非常に残念である。AR業界で世界との戦いに出る、日本企業の登場に期待したい。

ARヘッドセットを装着すれば、家具の配置を簡単にシミュレーションできる。展示ブース内のデモムービーでは、ベッドやデスク、壁紙などが、ARで擬似的に変更される様子が描かれた。選択はハンドジェスチャで行うため、ワンタッチで直感的に操作できるようだ。

100度の視界、ハンドジェスチャ認識機能、頭部の動きの追跡機能、HD画質を搭載。ARフレームワークにおける互換性の高さや、軽量で人間工学に基づいた形状が特徴。

もはやARグラスも不要! 空中に浮かぶ立体映像

空中にスニーカーの映像が浮かび上がり、音楽に合わせて回転。手前に飛び出してきたかと思えば、奥に吸い込まれていく。まるでその場所に本物のスニーカーがふわふわと浮いているようだ。英Kino-mo社は、空中に3D映像を浮かび上がらせるホログラム技術「Hypervsn」(ハイパービジョン)によって、新たな映像体験を提供し、来場者の人気を集めた。

Hypervsnは4枚のプロペラに、それぞれ160個以上のLEDがついており、プロペラを高速回転させることで、3D映像を空中に描く仕組み。垂直にも水平にも設置でき、最大3メートル×1.78メートルの単一ホログラフ映像を見せることが可能だ。専用デバイスを使わず裸眼で楽しめるため、街中における広告展開などでの利用が期待される。

展示ブースのデモでは、クリスマスリースやアルファベットなどの映像が空中に浮かび上がってクルクルと動き回り、来場者を驚かせていた。オブジェクトは3Dでモデリングされているため、手前に飛び出したり奥に吸い込まれたりと立体感のある映像体験が可能だ。

人間の心を別の身体に“埋め込む”

AR展示の中で、ひときわ存在感を放つブースを発見した。Netflixで2月2日に公開されるSFドラマ「オルタード・カーボン」のプロモーションブースだ。原作はリチャード・モーガンのサイバーパンクSF小説で、全10話のオリジナル・シリーズとして独占配信される。

250年後の未来、人間の心はデジタル化され、保存した意識を「スリーブ」と呼ばれる新しい身体に埋め込むことで、肉体の乗り換えが可能となっていた…という作品設定を、今回はCESで忠実に再現。ドラマ内の架空のスリーブ製造企業「Psychasec」が、スリーブ展示のために“出展”していた。

ARとは、人間から見た現実世界の拡張を意味するが、その究極が脳機能の拡張であり、人体の移管なのだろう。意識とテクノロジーの境目が曖昧になる世界が、ARによって実現しようとしているのかもしれない。

人間の心を埋め込むための肉体、「スリーブ」が展示され、来場者はこぞってブースツアーに参加していた。ツアーガイドたちは全身白い服を着ており、ドラマの世界観を演出するためか、終始シリアスな表情で説明していた。

真空パックされた「スリーブ」。脚や腕には体毛が生えており、ひと目見ただけでは人間と錯覚してしまうほどのクオリティだ。シリコンのような素材でできており、触ると人間よりもやや硬い感触だった。