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CES 2018で垣間見た未来への期待

著者: 林信行

CES 2018で垣間見た未来への期待

CESはニュースなどでもお馴染みの世界最大の電子製品の見本市。最近は2年に1度ほどにペースを落として訪れている。今回訪問を決めたのは、AIを前提にした新しい形の家電などが見られることへの期待だったが、それは裏切られた。

全体として一番目立っていたのはグーグルのスマートスピーカ「グーグル・ホーム(Google Home)」と自動車や家電の連携だ。昨年のCESでは、先行するアマゾンのスマートスピーカが大きな話題になっていた。それに焦りを感じたのか、今年はグーグルがラスベガス中の目立つ場所に広告を出したり、CES会場の話題のブースにグーグル・ホーム連携を謳ったりと巻き返しを図っていた。もちろん、アマゾンの勢いも衰えておらず業界全体がスマートスピーカに本格的に取り組んでいる意気込みは伝わってきたが、筆者はスマートスピーカには懐疑的なこともあり、少しシラけてしまったのが正直なところだ。

一番未来の夢を見せてくれたのは、トヨタ自動車だった。豊田章男社長自らが講演をし「我々のライバルは他の自動車メーカーではなくアップルやグーグルやフェイスブック」と語り、トヨタもモビリティ(移動体)技術でこれらの企業と並ぶプラットフォーム企業になると言って発表したのが「e-パレット(e-Palette)」というコンセプトだ。e-パレットは、完全自動運転で運転席がない移動する部屋。これを小型店舗として活用すればお店のほうから顧客の元にやってくるという逆転の発想のビジネスが誕生する。活用の仕方は、移動するバーや飲食店、ホテルの寝室、教室などアイデア次第。トヨタはこの事業でアマゾン、Didi(滴滴出行)、ピザハット、Uber、マツダなどとパートナーを組み、2020年から実証実験を開始する。

これからビッグデータを活用してどんな表現が可能になるかというインテルのデモも面白かった。たとえば、いくつかのカメラで球技場を撮影しておくと、最新のAIが球技場にいる選手など一人一人を瞬時に3Dモデル化してしまう。これにより視聴者は好きな視点から試合を見ることができる。インテルでは、この技術を応用した新しい映像表現を実現するための映像制作スタジオをオープンしたことを発表した。インテルはまた100機のGPSなしの光るドローンを制御し、空中パフォーマンスを披露。両技術は2月から始まる平昌オリンピックの中継に活用される。

睡眠の質を高める「スリープテック(Sleep Tech)」をはじめ、脳波センサを使って精神状態を管理する機器なども盛り上がっているように見えた。24時間の暮らしの中のヒトが起きている時間は、スマートフォンやスマートスピーカ、スマート化されたテレビ、移動中の車の中もアップルやグーグル、マイクロソフトといったプラットフォーマーの製品に取られてしまった。ベンチャー企業にチャンスがあるのは、もはや睡眠中の時間しかないとでもいうようにたくさんの関連展示が並んでいたほか、フィリップスなどの大手も取り組みを見せ、テクノロジーが我々の生活習慣や内面に迫る部分まで迫ってきていることを感じさせた。

ちなみに筆者はCES中に面白かった展示を「#CESjp」というハッシュタグを使ってツイートしてきたが、その中で一番話題となったのはイスラエルの「ICIビジョン(ICI Vision)」という製品だった。これはレーザで映像を網膜に直接投影するメガネで、カメラで撮影した映像を投影することで視力を失った人でも網膜の一部が機能していれば、その部分に目の前の様子を映し出してくれる代物。この網膜照射という技術を使ったメガネは日本でもQDLaserという会社が「レティッサ(Retissa)」という製品を出展していたが、薬事法などに配慮してか弱視など視覚障害の人に役立つということを謳っていなかったことで話題に大きな差が出てしまったようだ。

Nobuyuki Hayashi

aka Nobi/デザインエンジニアを育てる教育プログラムを運営するジェームス ダイソン財団理事でグッドデザイン賞審査員。世の中の風景を変えるテクノロジーとデザインを取材し、執筆や講演、コンサルティング活動を通して広げる活動家。主な著書は『iPhoneショック』ほか多数。