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iMac Proのプロセッサ/グラフィックス/メモリ/ストレージ

iMac Proのプロセッサ/グラフィックス/メモリ/ストレージ

プロセッサ/CPU

iMacプロは外観こそ“黒いiMac”だが、その内部アーキテクチャは完全にプロクリエイティブ仕様のモデルとして一新されている。その象徴的なもののひとつがCPUだ。搭載されているのは、インテルのワークステーション用CPU「ジーオン」の最新版であるWシリーズのカスタムチップ。コードネームは「スカイレイク(Skylake)」でチップ内部の製造プロセスルールは第6世代の14nm(ナノメートル)となっている。

旧世代のジーオンE5シリーズを採用していたMacプロが標準で6コアまたは8コア、オプションで最大12コアを搭載していたのに対して、iMacプロでは標準で8コア、オプションで10/14/18コアというマルチコアプロセッサを選択できる。

このコア数が多くなるほど同時に処理できる仕事量が増えるので、8Kなど高解像度動画のエンコードや3Dグラフィックスのリアルタイムレンダリングが快適に行える。特にマルチスレッドに対応するプロクリエイティブソフトほどその傾向は顕著だ。

また、インテルの新しい拡張命令セット「AVX-512」をサポートしているので、AIやディープラーニング、科学的シミュレーションといった分野でも高いパフォーマンスを発揮する。

ただし、コア数がそのまま処理速度の高低を意味するわけではない。たとえば8コアのiMacプロが4コアのiMac 27インチの2倍速いというわけではない点には注意しよう。CPUのクロック周波数を自動車が出せる最高スピードだとしたら、コア数は高速道路の車線数だとイメージするとわかりやすいだろう。より多くの車線があるほど渋滞が起こりにくく、一度に多くの荷物が運べる(計算結果を処理できる)というわけだ。

iMacシリーズのCPU一覧

デュアル(2コア)またはクアッド(4コア)のコアiシリーズを搭載したiMacシリーズとは対照的に、iMac Proでは8/10/14/18のマルチコアのワークステーション用Xeon Wシリーズを搭載する。

8/10/14/18コア Xeon Wプロセッサ

Intelのクリエイティブワークステーション向けCPU「Xeon W」シリーズは、チップ内の処理ユニットが4コアから18コアまで30種類以上ラインアップされている。iMac Pro用に提供されているのは8/10/14/18コアの4種類だ。通常の製品仕様よりベースクロックが抑えられているので、発熱量などを抑えたカスタムモデルと推測される。コア数が増えるほど1コアあたりのクロック周波数が下がるが、トータルの処理性能自体は向上する。

1コアを仮想的に複数のコアとして認識させる「Hyper-Threading Technology」にも対応するので、18コアのXeon Wでは最大36スレッドで同時処理できる。

SUMMARY

iMac 5Kと比べて最大22%の高速化!

最大4.5GHzのTurbo Boost

CPUの動作速度は全体の発熱量に応じて制限されるため、CPUコアの負荷が軽く発熱量が少ない場合などに、その余力をほかのCPUコアに振り分けてオーバードライブすることができる。それがTurbo Boost機能だ。マルチコアのプロセッサだと、1コアあたりのクロック周波数は必ずしも高くない。その代わりにIntel社が開発した「Intel Turbo Boost Technology」により、トータルの熱設計電力(TDP)上限を大きく超えない範囲で自動的にプロセッサの周波数を定格より上げることができる。iMac ProではTurbo Boost Technology 2.0に対応していて、標準の8コア 3.2GHzモデルでは最大4.2GHzにブースト可能。オプションの10コア 3.0GHzモデルでは多少TDP上限に余裕があり、最大4.5GHzで動作可能だ(それ以上のコアになると最大4.3GHz動作となる)。

ソフトによってはすべてのマルチコア/スレッドを有効活用しているわけではない。この「余った」パワーを負荷の高いコアに割り当てて、一時的に加速させるのがTurbo Boostの基本的な仕組みだ。

SUMMARY

マルチコアCPUのパワーを最大限活用できる!

最大42MBのキャッシュ

メインメモリの動作はCPUよりも遅いため、この間でデータを転送する際には、CPU側で待ち時間が生じてしまう。これが、処理速度の低下につながる。そのためCPUは処理を高速化するために、プロセッサ内にメインメモリよりも高速に読み書きできるキャッシュメモリを搭載している。このキャッシュメモリをCPUとメモリの間に挟むことで、その速度差の影響を低減しているのだ。キャッシュメモリはもっとも高速だが容量の少ない1次キャッシュ(L1)から、低速(といってもメインメモリよりは速い)だが容量の大きい2次キャッシュ(L2)、3次キャッシュ(L3)のように段階的に構成されている。マルチコアプロセッサではこの共有3次キャッシュの容量が高速化のポイントとなっており、スペック表に「L3キャッシュ」または単にキャッシュと記載されている。

iMac Proでは3.2GHzの8コアモデルで19MBのキャッシュが、18コアで42.75MBのキャッシュが割り当てられている。いずれも1コアあたりのキャッシュサイズは2.375MBとなる。

SUMMARY

処理効率が向上しさらなる高速化を実現できる!

T2チップとは?

iMac Proには、Touch BarつきのMacBook ProでTouch IDなどの認証を行うために初めて採用された「T1チップ」の後継にあたる「T2チップ」が新たに搭載されている。このT2チップはFace IDで生体データの保管に用いられるSecure Enclaveコプロセッサを搭載しているが、これに加えてシステム管理コントローラ(SMC)や画像信号プロセッサ、オーディオコントローラ、SSDコントローラなどを統合したカスタムチップとなっている。また、SSDをAESで暗号化する機能などを備え、セキュリティ機能が大幅に強化されている。

Startup Security Utilityについての情報はAppleのサポートページにおいて公開されている。【URL】https://support.apple.com/en-us/HT208198

グラフィックス/GPU

これまで「Macはグラフィックス性能が弱い」と言われることがあった。それは半分正しく、半分間違っている。たしかに現行のMacプロに搭載されているAMD製のGPU「ファイア・プロD500/D700」は最新のハイエンドGPUと比べてスペック的に見劣りするのは否めない。それ以上のグラフィックス性能を持つゲーミングPCがMacプロの半分程度の価格で販売されていることも事実だ。

といっても、2Dグラフィックスの性能に関しては今でも十分すぎるほど高性能であるし、プログラミングや一般的なレベルの動画編集であっても大きな支障はない。しかし、ここ数年でVR(仮想現実)など高度なグラフィックス性能が求められる用途が出現し、Macは「プロ向け」のモデルであってもオキュラス・リフトなどのVRデバイスの動作性能を満たさないという状況が生じていた。

もちろん、アップルもそれを自覚していたようで、基本設計で大幅なアップデートの余裕がないMacプロの代わりにiMac 5Kレティナの最上位モデルに「ラデオン・プロ580」を搭載し、macOSハイ・シエラによってついにVR対応を果たした。

iMacプロではクリエイティブ・ワークステーションにふさわしいGPUとして「ラデオン・プロ・ベガ」を新たに搭載。これによりVRやリアルタイム3Dレンダリングといった高度なグラフィックス処理をスムースに行える。また、GPUの演算能力をグラフィックス以外に応用する「GPGPU」としての使い道も広がり、人工知能開発やディープラーニング、高度な科学技術計算に利用されていくようになるだろう。本命は次世代Macプロと見る向きもあるが、現時点で真の「プロ」向けMacはiMacプロをおいてほかにない。

iMacシリーズのGPU一覧

ローエンドのiMacがIntelのCPU内蔵GPUを用いるのに対して、現行のiMacではAMDのデスクトップ向けGPU「Radeon Pro」の各シリーズを搭載している。iMac Proはさらに高度なワークステーション向けGPU「Radeon Pro Vega」シリーズを採用した。

Radeon Pro Vega

AMDの「Radeon Pro Vega」は、現行iMacのRetinaモデルに搭載されているPolarisアーキテクチャを採用した「Radeon Pro 500」の次世代モデルにあたるGPUシリーズだ。iMac Pro標準搭載のVega 56やオプションで選択できるVega 64の数字は演算ユニットの数を表しており、ストリームプロセッサ(SP)の数はそれぞれ3584と4096となっている。この数が多いほど1クロックあたりの演算数が増えるため、処理能力が高くなる。

米ソフトウェア会社Panic Inc.のCabel Sasser氏が「Cinebench R15」を用いて計測したOpen GLのスコアによると、Radeon Pro Vega 64はMac Pro下位モデルに搭載されたAMD FirePro D500の約1.8倍高速だ。【URL】https://twitter.com/cabel

SUMMARY

Mac Proと比べて約1.8倍高速になる!

最大11テラフロップスの単精度

最大22テラフロップスの半精度

GPUに限らず、0と1の2進数しか扱えないコンピュータは小数を表現するために浮動小数点という形式を用いている。単精度や半精度というのは浮動小数点数の表現方法のことで、単精度が32bitであるのに対して、半精度は文字どおりその半分の16bitで表現される。精度が低ければその分だけ計算誤差が生じてしまうが、より高速に計算できることになる。テラフロップス(TFLOPS)とは、この浮動小数点演算を1秒間に1兆回行うことを意味する単位だ。

精度よりも高速な演算が求められるディープラーニングのような用途が生まれたことで、半精度での演算性能も重視されるようになった。

SUMMARY

高度な技術計算にも対応し高速に演算できる!

8GBまたは16GBの高帯域幅メモリ

Radeon Pro Vegaでは、外部のVRAMの代わりにGPUのパッケージ上に第2世代のHBM(広帯域幅:High Bandwidth Memory)を搭載する。この高速メモリをキャッシュとして利用することで、GPUを利用するソフトをより効率的に動作させられるというわけだ。このメモリ容量が、Vega 56では8GB、Vega 64では16GBとなっている。GPUコアとの距離が近いため、メモリの容量が同じであってもHBM2のほうがVRAMよりも高速に処理できる。

GPUのパッケージ内に2つ載っているチップがHBM2だ。

SUMMARY

メモリの一体化でGPU処理をさらに高速化できる!

400GB/sメモリ帯域幅

HBM2のメモリ帯域幅は1秒間に最大400GBとなっている。Mac Proの下位モデルに搭載されているデュアルAMD Fire Pro D500のメモリ帯域幅240GB/sに比べて、約2倍のパフォーマンスを誇る。同時に多くの処理が行えるので、VRやリアルタイム3Dレンダリングに適しており、高解像度設定でのゲームプレイや制作においてもコマ落ちすることなく高いフレームレートが得られる。

VRのように高いグラフィックス性能を求められる環境でもスムースに描写できるので、没入感の高い映像が得られる。また、それを開発する環境としてもiMac Proは最適だ。

SUMMARY

ハイエンドの3Dゲームもサクサクと動く!

iMac ProとVR

macOS High SierraではVRがシステムフレームワークとして提供されている。WWDC 2017においてもEpic Game社の「Unreal Engine」をベースに作られたソリューションがデモで披露された。これまで後塵を拝していたVRコンテンツ制作において、Macプラットフォームのシェア拡大の一手として期待されるのがiMac Proである。

ヘッドマウントディスプレイ「HTC Vive」に対応しており、VR開発には最適な存在だ。

メモリ/MEMORY

Macの作業快適性を支えるのが、CPUと高速にデータをやりとりするメインメモリ(RAM)の性能だ。iMacプロは現行のデスクトップMacとしては最速となる2666MHz動作のDDR4を搭載し、iMac 27インチモデルの2400MHz動作のDDR4よりもさらに高速化している。また、4枚のメモリチャンネルを同期させて帯域を広げるクアッドチャンネルをサポートしており、データの実行転送速度をさらに引き出すことができる。

メモリ容量は標準で32GBとなっており、購入時のオプションで64GBまたは128GBを選択できる。メモリモジュール自体も、サーバ用のエラー訂正機能を搭載した高品質なものが採用されている。Macプロのようにユーザがメモリモジュールを交換できないという制約はあるが、ほとんどのプロ用途において満足のいくパフォーマンスを発揮してくれる。

iMacシリーズのメモリ一覧

iMacシリーズは8GBがメインの構成となり、27インチモデルのみメモリモジュールの交換ができる。iMac Proでは32GBが基本で、オプションで64GB、128GBが選べる。

メモリ最大128GB

メモリは標準で8GBモジュール4枚を搭載し、32GBとなっている。通常の用途ではこれでも十分と考えられるが、3Dグラフィックス制作や動画編集など大容量メモリが効いてくる用途では、64GBあるいはハイエンド仕様の128GBを選択するとよいだろう。また、同時に処理できる作業も増えるので、Mac ProやiMac 27インチモデルと異なり、あとからの追加搭載は困難なので、購入時のオプションは用途を見極める必要がある。

メモリの増量は購入時にしか行えない。普及品のメモリに比べると高価に思えてしまうが、サーバ用のメモリは市販品でも32GBモジュール1枚で5~6万円台以上なので、価格はかなり抑えられているとも考えられる。

SUMMARY

「128GB対応」はプロ待望のスペックだ!

2666MHz DDR4 ECC

iMac Proに搭載されているメモリはIntelの第6世代CPU「Skylake」以降で採用されたDDR4規格。クロック周波数は最大2666MHzとなっており、現行Macのデスクトップ用メモリとしては最速の仕様だ。エラーを検出・訂正するECC機能にも対応しているので、高い信頼性が求められるサーバ用途にも適している。また、動作電圧は1.2Vのため消費電力も抑えられているのが特徴だ。なお、iMac 27インチに搭載されている2400MHzのDDR4メモリとは電気的な互換性はない。

透視図を見る限り、288ピンのスロットを4基搭載している。ノート用のSO-DIMMを採用したiMac27インチと異なりアクセスベイは用意されておらず、自分での増設はかなり困難だ。

SUMMARY

デスクトップ最速メモリは動作の信頼性も抜群だ!

ストレージ/STORAGE

最近のMacはストレージにSSDが採用されているものが多い。高速な読み書き、小型軽量、発熱の低さや消費電力の低さなど、従来のHDDよりもはるかに大きなメリットがあるからだ。しかし、容量あたりの単価は割高で、ストレージ容量の増大はなかなか困難と言える。

そのため、通常のiMacシリーズではSSDとHDDを仮想的に1つのボリュームとして認識させ、用途によってドライブを自動で使い分けるフュージョン・ドライブを採用してきた。

一方で、iMacプロは利用するシーンがハイエンド向けという事情もあり、すべてのモデルで大容量のSSDを採用している。標準で1TBの容量を持ち、購入時のオプションで2TBまたは4TBを選択可能。手軽にSSDを交換できない点は一体型ならではの制約であり、可能であれば大容量なものを選択したい。

iMacシリーズのストレージ一覧

iMacシリーズはHDDおよびFusion Driveがメインの構成となり、SSDは基本的にオプションのみとなる。iMac Proでは1TBのSSDが基本で、オプションで2TB、4TBが選べる。

最大4TBの容量

iMac Proに標準搭載されているストレージは、接続規格としてNVMe(Non-Volatile Memory Express)を採用した高速なSSDとなっている。容量は標準で1TBとなっているが、映像編集など多くのストレージ容量を必要とする作業が必須の場合は、購入時に2TBまたは4TBのオプションも選択肢として考えたい。フラッシュメモリの世界的な高騰の影響もあり安くはないが、数年後も現役で使い続けることを考えれば決して無謀な投資ではないだろう。

SSDの容量は購入時のみ変更可能となっている。2TBの場合は8万8000円、4TBの場合は30万8000円のプラスとなる。数年後の利用も見越して最適な容量を選択したい。

SUMMARY

最大4TBオールSSDは速度も容量もプロを満足させる!

3GB/sのスループット

通常のiMacシリーズではSSDのスピードとHDDの容量を兼ね備えたハイブリッドストレージのFusion Driveを採用したものが多い。一方、iMac Proでは全モデルがSSD搭載だ。このSSDの性能を最大限に引き出すためには、内部インターフェイスも高速なものでなければならない。NVMeはPCI Expressの技術を発展させたもので、内部リンク速度は最大で3GB/sとなっている。これは従来のHDDでもっとも高速なSATA 3.0(6Gbps、600MB/s)のおよそ5倍以上の転送速度となる。

米国のYouTuberで有名なMarques Brownlee氏の先行レビューでは、BlackMagicの「Disk Speed Test」で、読み書きともに2150MB/s以上のパフォーマンスを発揮した。

SUMMARY

HDDの5倍以上も高速に読み書きができる!