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AmazonとAppleが描く2022年の世界とは?

著者: らいら

AmazonとAppleが描く2022年の世界とは?

立教大学ビジネススクール教授の田中道昭氏が上梓した『アマゾンが描く2022年の世界』では、AmazonのCEOジェフ・ベゾスによる壮大な世界戦略が取り上げられ話題を呼んだ。田中氏はAppleの5年後、2022年をどのように分析しているのだろうか。さまざまな観点からAmazonと対比して語ってもらった。

世界が「アマゾンされる」

ー5年後の2022年11月、フリーランスの佐藤さん(仮名)は、無人コンビニ「アマゾン365 四谷店」のカフェスペースで仕事をしていた。仕事内容の4割は「アマゾンクラウドソーシング」で請け負っており、プロジェクトはアマゾンのクラウドコンピューティング部門であるAWS(アマゾンウェブサービス)を利用して進める。店舗内の商品はAIで管理されており、専用アプリでは産地情報などを詳細に確認できる。佐藤さんが商品をカバンに入れて店舗を出ると、彼のアマゾン・ペイから自動的に代金が引き落とされた。ー

そんな身近な情景から始まる田中道昭氏の新刊では、世界が「アマゾンされる」近未来が描かれている。今後アマゾンは小売や物流業界を超え、あらゆる経済活動が「アマゾンの要塞」で完結するアマゾン経済圏を作り出そうとしていると言う。

では、同じくIT企業の雄、アップルの描く5年後の未来はどうなっているのだろうか。今回田中氏にはさまざまな視点から、アマゾンとアップルを比較・分析してもらった。

まずはアップルの企業哲学に注目してみよう。意外なことに、アップルは具体的なミッションやビジョンをそこまで明確に示していない、と田中氏は語る。ただ広告では「リードする」「再定義する」「革命を起こす」といったメッセージを推し出し、製品ブランドとしての世界観を表現している。テレビCMの「Think different.」(違う視点で考える)や、「Your Verse」(あなたの詞=あなたらしく生きる)などのフレーズも象徴的だ。

「『製品やサービスを通じて、自分らしく生きることをアップルが支援する』というブランド観は非常に優れています。また、アップルはこれらに対するこだわりが相当強く、自分たちの使命感だと思っています」

故スティーブ・ジョブズからCEOの座を受け継いだティム・クックも、この哲学を忠実に反映し、経営者として旗を振るう。そしてもう一人、最高デザイン責任者のジョナサン・アイブの存在も重要だ。

「一般的に企業のブランディングで重要なのは、経営者や創業者などの個人ブランディングです。彼らの思いやこだわりが、店舗から会社全体のレベルまで浸透しているかどうかが、ショップブランディングやコーポレートブランディングのポイントとなります。そうした点においてアップルは、ジョブズ、クック、アイブの3人のセルフブランディングが企業哲学にも製品にも練り込まれており、うまい形で融合しています」

ジョブズ、クック、アイブのブランディングは、アップルストアのカルチャーにも反映されている。ユーザの実現したいことをサポートしたり、新しい体験を提供したりするためのアップルストアのプログラム「Today at Apple」は、そのわかりやすい一例だろう。経営視点で見ても、スタッフ一人一人のエンゲージメントやエンパワーメントも彼らのセルフブランディングに依るところが大きい。

「スタッフの給料は特に高いわけではないのですが、アップルはやりがいで人を動かしていることがわかります。アップル製品のデザイン戦略で一番重要なのは、自分たちの事業を通じて実現したいミッション・ビジョンが、製品やサービス、社員の行動に忠実に練り込まれている点なのです」

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略、 マーケティング戦略、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。主な著書に「ミッションの経営学」「人と組織 リーダーシップの経営学」(すばる舎リンケージ)がある。

小売り・流通に変革をもたらしてきたECの巨人・Amazon。近年は、リアル店舗への進出にとどまらず、クラウド、宇宙事業、AI、ビッグデータなどの分野へも展開、米国ではAmazonに顧客と利益を奪われることを意味する「アマゾンされる」という言葉が生まれるほどに、その勢いを増している。本書は、大学教授、上場企業の取締役、コンサルタントという3つの顔を持つ著者が、膨大な資料と独自のメソッドで、「Amazonの大戦略」を読み解く一冊。(983円/PHPビジネス新書)

スティーブ・ジョブズ復帰後の1997年に公開された「Think different.」のCM。アインシュタイン、ジョン・レノン、パブロ・ピカソなど、世の中を変えた天才たちが登場する。「クレイジーと呼ばれる人たちが世界を変えていく」というメッセージ性の強い作品。ナレーションをジョブズ本人が担当しているバージョンも存在する。【URL】https://www.youtube.com/watch?v=W5GnNx9Uz-8

リーダーシップの違いは

改めてリサーチをしてみて、ティム・クックが実にすごい経営者であることを改めて実感したと田中氏は語る。

「ジョブスは多分、数百年に1人の天才でしょう。だからそんな人と誰を比較したって敵う人はいません。でも、クックも実は天才で、すごくカリスマ性がある経営者です」

田中氏によると、経営者には、右脳インサイト型のカリスマ型経営者と、左脳オペレーション型の経営者が存在するという。ジョブズはまさに右脳型だが、クックは右脳と左脳の両方が優れたバランス型。ジョブズ亡き後、普通の人ならば押しつぶされるプレッシャーの中、世界的上場企業として売上・利益・業績を上げ続けている。さらに田中氏は、ジョブスとの決定的な違いとして、組織力を向上させる能力を挙げる。

「ジョブズの代わりが務まらない中で、後継者としては極めて優れた仕事をしているという意味で、まずは絶対に評価すべきです」

また、クックはCEO就任後、LGBTであることをカミングアウトし、より独自のリーダーシップとマネジメントを発揮するようになってきている。

「もはや米国における多様性やリベラルの象徴的な存在であり、それ自体がアップルの1つのバリューにもなっています。クック自身も、今確実にアップルのブランドを形成しているといえます」

では、アマゾンのCEOであるジェフ・ベゾスと比較すると、どのような違いがあるだろうか。

「もっとも端的なのは、ユーザエクスペリエンス(UX)、カスタマーエクスペリエンス(CX)です。もともとジョブスはCXにものすごいこだわりがあり、どちらかと言えばCXはアップルの代名詞でした。ところがおそらく昨年の後半くらいから、少なくとも米国では、CXはアップルではなくアマゾンの代名詞になってきています」

ベゾスが掲げるアマゾンのミッションとビジョンは、「地球上で最も顧客第一主義の会社」。ベゾスはジョブズと双璧をなす天才ぶりで、ジョブズ亡き後、より強いカリスマ性を発揮しているという。リーダーシップにはさまざまな種類があるが、ベゾスは強いビジョンの設計と実現をもって組織を牽引する「ビジョナリーリーダーシップ」型。一方クックは、簡潔明快なミッションを全員で共有し、各自が共有したミッションをこなす権限委譲型の「ミッションリーダーシップ」に近い。

「ベゾスはある意味人間性が欠落しており、サイコパス的にも映ります。だからこそ突き抜けられる、突き詰められる部分があるのだと思います。会社の優れたイノベーションは、結局多くの場合、創業者や経営者のセルフブランディングなのです。クックもカリスマ性はあるけれども、革命的な天才ではないように感じます」

田中氏の分析によるリーダーシップの違い

右脳インサイト型のカリスマ経営者。突き抜けた才能を持ち、サイコパス的で生産的なナルシスト。細部へのこだわりが強く、細かいところに口を出すマイクロマネジメント型。優れたプレゼンター、マーケッター、エバンジェリスト、プロモーターでもある。

左脳オペレーション型の経営者。ジョブズ亡きあと、Appleの売上・利益・業績アップに注力。LGBTのカミングアウト以降、独自のリーダーシップとマネジメントを発揮し、多様性やリベラルの象徴的存在になっている。優れたバランス感覚と、組織力を向上させる能力を持つ。

ジョブズと同じく、天才型で強いカリスマ性を発揮。超長期視点と超短期視点両方を備え、創造力に長けるビジョナリーな経営者。フレンドリーだったかと思えば怒り狂う両極端な人間性を持ち、周囲から「火星人」と評される。

アマゾンは“全方位展開”

両者のリーダーシップの違いを踏まえたうえで、アップルとアマゾンの経営戦略を比較してもらった。田中氏が上場企業の戦略分析や戦略策定に用いるのが、「5ファクターメソッド」と呼ばれるアプローチだ。これは中国の古典的な戦略論であり、「孫子の兵法」をベースにしている。5ファクターメソッドでは、特に重要な要素である五事を田中氏がアレンジし、現代マネジメントの視点から再構築している。なお五事とは、「道」「天」「地」「将」「法」のことで、この5項目を基準に合理性の高い戦略を練れば勝てるという重要なフレームワークだ。田中氏は著書で、5ファクターメソッドをもとにアマゾンの経営戦略を分析している。

アマゾンはミッションとビジョン両方に「地球上で最も顧客第一主義の会社」を掲げている。顧客とは、オンラインショッピングをする消費者だけでなく、アマゾンに出店する販売者、AWS(アマゾンウェブサービス)を利用するデベロッパー、アマゾンプライム・ビデオなど動画配信に参画するコンテンツクリエイターを含む人たちだ。品揃えを増やすことで、顧客にとって選択肢が増えると顧客満足度は上がる。そうなるとアマゾンへ人が集まるので、物を売りたい販売者も集まるようになる。これによってますます選択肢が増え、顧客満足度が向上する。これをアマゾンの成長サイクルとして回していくのが、アマゾンのビジネスモデルだという。前述の「アップルを超えるUX」も、顧客第一主義の徹底から来ているものであり、アマゾンの競争優位性につながっている。

田中氏によると、アマゾンの特徴は全方位に向けて事業を展開して戦ううえで、コストリーダーシップ戦略と差別化戦略を両立させている点だと語る。

「アップルは、どちらかというと富裕層やこだわりを持った人たちにフォーカスしているのに対し、アマゾンはアップルよりも全方位をまんべんなく網羅しています」

書籍のオンライン販売から始まったアマゾンだが、今ではビッグデータ×AIや宇宙事業まで手がけており、もはやEC企業としてだけでなく、総合的なテクノロジー企業へと変貌を遂げている。このように「エブリシング・カンパニー」として幅広い事業展開を進める中、コストリーダーシップによって得られた利益を低価格で顧客に還元。さらにアマゾンオリジナルのテレビ番組コンテンツなどを提供することで、他社との差別化を図っているのだ。

Appleの大戦略

Appleの特徴は、ミッションとビジョンを持ち、マーケティング戦術やブランディングを築いている点。また巨大なバリューチェーン(原材料の調達から、製品やサービスが顧客に届くまでの一連の価値の連鎖)やサプライチェーン(複数の企業間で構築した統合的な物流システム)構造を社内外に形成している。App StoreやiTunes Storeなど、製品を使うにあたって利用するプラットフォームやエコシステムも形成しており、Appleの強みとなっている。Appleの売上はiPhoneが半数以上を占めており、地域別で見ると、米が43.9%となっている。

Amazonの大戦略

Amazonの戦略目標は、中心のピラミッドに集約されている。なおミッションは存在意義や使命、ビジョンは会社の未来の姿、バリューは実行に移す際の行動基準や価値観を指す。ピラミッドの頂点は、消費者をはじめとしたAmazonの顧客が位置し、「地球上で最も顧客第一主義の会社」という言葉が、Amazonにとって最重要であることを示している。バリューは「顧客第一主義」「超長期思考」「イノベーションへの情熱」に加え、2017年には「オペレーショナル・エクセレンス」(業務改善プロセスが現場に定着し、競争優位性になる状態)が挙げられた。

クック以後の経営戦略の変化

次にアップルの経営戦略を見てみよう。アマゾンの全方位的な事業展開とは対象的に、アップルはシンプルかつミニマルに、自分たちのターゲットにフォーカスして事業を展開している。

「一番わかりやすいのは製品ですね。ブランドストーリーをiPhone、iPad、Macとシンプルに統一しており、デザインを重視する点も一貫しています」

さらに田中氏は、「シンプル」「ミニマル」に加えて「人のため」という企業戦略を挙げる。クックのCEO就任以降、アップルはアクセシビリティ、環境保護、ヘルスケアなど、社会貢献への取り組みをさらに進めてきた。

「クックが今年、MITの卒業式でスピーチをしましたが、そこでも『人のために尽くす』という話をしました。CEOがクックになり、アップルは『人のため』という視点がより顕在化されているので、この3つが重要な企業戦略の中核だと思います」

アップルの5ファクターにも注目したい。外部環境の変化を予測したタイミング戦略を示す「天」には、AI、AR、ウェアラブル、スマートグラス、自動運転技術などを挙げる田中氏が今もっとも注目するのは医療健康分野だ。「アップルウォッチは個人的にも初代から使用しています。世間にも相当浸透していますし、医療健康分野には『天の時』が到来しています」

一方、有利な環境を生かし、不利な環境をカバーする戦略の「地の利」を見ると、それらの技術は、プラットフォームやエコシステムでの戦いであることがわかる。「約5~6年前までのビッグ4(アップル、グーグル、アマゾン、フェイスブック)は、それぞれが違う事業分野で戦っていました。しかし今は、進出分野が直接競合している。ここで強調したいのは、結局それぞれのプラットフォームとエコシステムで、どこが覇権を握るのか、という戦いになっているということです」

収益構造および事業構造も特徴的だ。グローバルでスマートフォンの市場を見た際、アップルの市場シェアはたった14・5%しかない。しかし市場全体では、79%もの利益シェアを占めている。またアップルの製品別売上を見ると、iPhoneが54・8%と半数以上を占める。アップルではiPhoneが大きな収益の柱となっており、iPhoneが圧倒的な利益を上げる収益構造となっているのだ。アップルストアの展開や、アップルストアのようなプラットフォームの提供も行っているが、田中氏からすれば、収益的に見ると、アップルは典型的なメーカーであることが明確にわかると言う。

アマゾンの売上事情も興味深い。売上のうち、ほとんどの割合を占めるのはEC事業であり、AWS事業の売上はわずか9%にすぎない。収益的には小売流通の会社だといえよう。しかし、営業利益を見ると、全社営業利益の74%をAWSが占めている。営業利益率も高く、全体の利益率が3%であるのに対して、AWS事業は25%にも及ぶのだ。北米(本体)以外事業の営業利益は赤字を計上しているが、AWSの黒字によって赤字をカバーしている様子が数字から伺える。田中氏はこのAWSの躍進を「サイバーセキュリティにある」と考察。サイバー犯罪の脅威が進む中、サイバーセキュリティの安全性に優れており、競争優位性も高いAWSを採用する流れが進んでいる。サイバーセキュリティが、「地」におけるAIや自動運転技術と表裏一体の関係にある点も、アマゾンの競争優位につながっている。

こうして事業構造を比較すると、両社のスタンスも見えてくると田中氏は指摘する。アップルは一般的にはIT企業のイメージがあるが、ものづくりの企業とIT企業両方の側面を持っており、だからこそものづくりのこだわりを見せたい部分があるという。一方アマゾンは、ようやくハイテク企業として認識され始めたが、まだEC企業のイメージが強いからこそ、ベゾスはIT企業の側面を強く打ち出している。両社のポジショニングは、実は明確に交差し合っているのだ。

投資家が評価するのはどっち

さらにアップルとアマゾンの業績を比較すると、表に見えるミッションやビジョンとは異なる、企業の「裏の顔」が見えてくる。まず両社の売上や営業利益、時価総額を比べると、アップルのほうが大きいことは一目瞭然だ。ところが、株価純資産倍率(PBR)および株価収益率(PER)といった株式評価は、アップルのほうが明らかに低い。

「クック就任以降、売上・利益・業績は確実に上がり、株価も最高となり、現在アップルはグローバルトップ企業となっています。しかし実は株式評価は高くなく、むしろ低い。米上場企業のPERの平均は22倍程度なので、18・87倍のアップルは、米平均より株式評価が低いのです」

業績が好調のため、ある程度の評価はされている。しかし時価総額とは、将来性や成長性などを含めた現在の価値である。そういう意味では、株式市場はアップルの成長性や将来性をそんなに高く評価していないということだ。

また、田中氏によると、アップルは、プレミアムプライシングによって26.7%の高い営業利益率を計上しているものの、収益を新規投資よりは自社株買いと配当に投入しているという。

「それに対してアマゾンは、一切配当していません。私の財務上の理論ですが、米の投資家から見ると、優れた成長企業は配当の必要がないと判断します。お金が余ったら、優れたプロジェクトに投資して、どんどん成長してくれというのが一流の投資家の考え方なのです。実はある時期までマイクロソフトは無配当でしたし、アップルもそうでした。だから配当どころか自社株買いまでしてしまっているなんて、ジョブズ時代ではありえません。こんなに自社株に配当するくらいなら、もっと価格を安くして製品を売るべき、と考える人がいても当然です」

アップルは「最高の製品を作ることだけ」にフォーカスし、アナリストや株主のことを軽視しているように思えるが、この事実からはそれが真実ではないように思える。

「自社株買いと配当は、要するにもう新規投資に自信がないという見方、身の回りにポジティブなプロジェクトがないというシグナルです。そもそも配当を始めたこと自体がネガティブなのに、それに加えてプレミアムプライスで売って余ったお金で、株式市場から買い戻しているのです。株式市場から10億円の株を買い戻すとしたら、その分のお金がただ単に消えるだけ。これを見たら、疑問を感じないといけないと思います」

一方アマゾンは、営業利益率が3%と極端に低水準であるものの、収益を顧客に還元して低価格化したり、どんどん新規の投資に回したりしている。財務の点から見ても、アマゾンは顧客主義を徹底しているのだ。市場もその点を高く評価しており、結果、PBRが29.33倍、PERは236.73倍と高い数字となっている。

Amazonの利益構造を見る上でポイントとなるのが、クラウドコンピューティングサービスの「AWS」(アマゾン・ウェブ・サービス)だ。仮想サーバ、セキュリティシステム、IoTプラットフォームなど、多岐にわたるサービスを提供しており、世界のクラウド市場の3割のシェアを占める。Amzon全体での売上比率は1割を下回るが、全社営業利益は7割を超える。

PBRは純資産に対して時価総額が何倍ついているかを示す指標のこと。一般的な日本企業は、純資産とほぼ同じ時価総額しかないため1倍前後だという。その点、Amzonは約30倍、Appleは約6.7倍。時価総額、売上、バランスシートすべてにおいてAppleのほうが金額が高いため、一見Appleのほうが評価されているように見える。しかし田中氏によると、PBRやPERの指標を見ることで、Amzonのほうが米の投資家には評価が高いことがわかるという。

2022年の未来は

最後にアップルの「2022年の世界」について尋ねた。まず田中氏が口にしたのはAR技術だ。

「iPhoneがARのプラットフォームとなり、破壊的イノベーションが起きると思います。ウェアラブルのメガネも浸透しているでしょうが、iPhoneでARを使うほうが、目も疲れないし自然だと私は思います。ARによるスマートシティが実現すれば、観光業から人材育成、交通管理、医療サービス、金融、医療、教育、観光まで、あらゆる分野のサービスをiPhoneのARで受けられるようになるエコシステムが実現する可能性がありますね」

アマゾンが描く2022年は冒頭のとおりだが、田中氏は同時にアマゾンの死角を指摘する。

「アップルは医療分野や環境保護などに力を入れていますが、アマゾンは社会貢献活動が少なく、CSRランキングが悪い会社です」

今やアマゾンは国家以上の影響力を持ち、「アマゾン一強」の世界を作り出してしまった。多くの小売業者が閉店に追い込まれ、地方には空き店舗が続出した。従業員の雇用や賃金が抑圧される一方、アマゾンはさまざまな方法で課税を逃れている事実もある。田中氏は著書で「アマゾンの要塞の中での買い物は、私たちを幸せにするか」と疑問を呈している。今回田中氏へのインタビューを通じて、アップル、アマゾンそれぞれの違いを、ミッションとビジョン、リーダーシップ、経営戦略、財務とさまざまな視点で比較することで、両社の違いが浮き彫りになった。IT業界の変化のスピードは著しいので、数年後分析するとまた違った結果が出るはずだ。また今回は取り上げなかったが、中国では「神様」ジャック・マーが、同じく強いカリスマ性をもってアリババグループを牽引している。IT企業の存在感は、世界中で今後ますます強くなるだろう。近未来に向けて、製品やサービスとどのように向き合っていくか、ユーザも考えなければならない時期にさしかかっている。

Appleは2017年9月に開催したスペシャルイベントで、iPhone XやiPhone 8/8 Plusの強力なプロセッサにより、新しいAR体験ができることを強調した。ARは「ポケモンGO」のようなゲームだけでなく、インテリア、医療など幅広い分野での活用が期待されている。ARによってAppleの「破壊的イノベーション」は再び始まるかもしれない。

Apple Watchは心拍センサ、加速度センサなど各種センサを搭載し、日々の健康状態やアクティビティを記録。また病院や医療施設と提携し、記録したデータを医学研究に活用する動きが広がっている。米保険会社大手のAetnaでは、従業員にApple Watchを配布するなど、ヘルスケア分野での活用がすでに本格化している。