2018年は、2020年代のインフラが作られる年になりそうだ。AIがさまざまなアプリやネットサービスに組み込まれ、魔法のような画像処理を行ってくれたり、劇的にサービスの質が向上する年になるだろう。
一方で、資本主義の世の中の原動力となっているお金のあり方も大きく変わりそうだ。まずはビットコインに代表される仮想通貨(あるいは暗号通貨)の話からしよう。
日本だと2013年のマウントゴックス事件以来、敬遠する人も増えてしまったビットコインだが、2017年からは日本のテクノロジーベンチャーを動かしている投資家たちにとっても無視できない存在になってきた。
知らない人たちのために簡単に説明すると、ビットコインは総発行量が決まった仮想のコインで、人々がそれを小数点5~6桁くらいまでの単位を使って株式のように売り買いをする。これが株式だと価格が急騰/急暴落をしたときにストップ高/ストップ安という仕組みが働くが、仮想通貨にはこれがなく上昇や下降を続ける。2013年、こうしたビットコインを扱う取引所の1つで東京にあるマウントゴックスで仮想通貨の窃盗行為が発覚して取引停止になり、破産申告をすることになった。
しかし、2017年中頃からビットコインの価値が上昇を続け、状況が変わってきた。年初には1BTC(ビットコインの単位)あたり10万円ほどの価値だったものが12月のはじめには200万円まで急騰。マウントゴックスも手元に残っていたビットコインで負債額を払えるようになり、破産手続きから民事再生手続に切り替えた。
気がつけば日本でもテレビで宣伝する大きな取引所がいくつか登場し、量販店のビックカメラから飲食店までビットコインで支払いができる店舗も増えつつある。ビットコイン同様の仕組みの仮想通貨はいくつかあるが、その1つXEMは年初から年末までで価値が300倍近くになった。
2018年も引き続き、すべての仮想通貨が価値を伸ばし続けるのかは正直わからない。テロ国家や犯罪組織の資金洗浄に使われていると言われる通貨もあり、税制も含めいろいろとグレーゾーンだらけだ。しかし、2017年にはICO(Initial Coin Offering)といってビットコインで資金集めをして起業をする人々が出てきたし、もはや世の中に提供している価値も無視できない。全部は無理でも、いくつかは確実に残り、我々の生活に根づく可能性がある。
変わってきたのは貨幣システムそのものだけではない。
2017年末、米国ではiMessageによる金銭送受が可能になった。iPhone内でアップルペイキャシュ(Apple Pay Cash)と呼ばれる仮想キャッシュカードが発行され、ここに送られてきたお金をiTunesやアップルIDの支払いに活用したり、銀行口座に振り込んだりできる。
日本では規制によって難しいのではないかと懸念していたが、最近は日本でもLINEが同様の仕組みであるLINE Payの拡充に力を入れており、12月には中国で広く使われているシェア自転車サービスmobikeの日本国内展開でLINE Pay払いが行えることを発表している。となれば、仕組み的に近いアップルペイキャッシュの日本参入も十分に考えられる。
ちなみにアップルは2018年早々にも「Business Chat」という法人向けシステムを発表予定だ。iMessageベースのチャット窓口でアップルストアの修理予約や物品購入がチャットで可能になるほか、他社サービスでも採用される可能性があるため、Eコマース(オンラインショッピング)といったもののあり方も変わりそうだ。
2017年は「フィンテック」という言葉が話題になり、銀行の効率化が一気に進んだ。だが、本当のフィンテック革命はその外側で進行していたのかもしれない。
Nobuyuki Hayashi
aka Nobi/デザインエンジニアを育てる教育プログラムを運営するジェームス ダイソン財団理事でグッドデザイン賞審査員。世の中の風景を変えるテクノロジーとデザインを取材し、執筆や講演、コンサルティング活動を通して広げる活動家。主な著書は『iPhoneショック』ほか多数。