“新機能によってクライアントに提案できることが増えました”
沖田知彦(写真左)
フェンリル株式会社 アプリ ケーション共同開発部 東京 開発課 係長 シニアエンジニ ア。アプリの開発を担当。実際に コードを書いてアプリを制作し ている。
塚瀬大地(写真右)
フェンリル株式会社 アプリケーショ ン共同開発部 東京開発課 係長 シニ アエンジニア。アプリの開発全般を指 揮。新しいデバイスやOSを研究して 新機能を企画し、クライアントへの提 案も行う。
オフィスではワイヤレス充電
「こんなにワクワクしたのはiPhone 4でレティナディスプレイになったとき以来ですよ」
そう語るのは、スマートフォンアプリなどの開発を手がけるフェンリル株式会社のエンジニア・塚瀬大地さんと沖田知彦さん。アプリケーション共同開発部に所属される2人は仕事柄、毎年発表されるiPhoneの進化に注目しているそうです。同時に、iPhone 3Gの頃からの熱心なユーザでもあるのだとか。
「画面を見て驚きました。文字がこれまでよりもはるかにくっきり見えるし、黒の締まりも良い。“スーパーレティナディスプレイ”というだけあるなと」(塚瀬さん)
「僕は先にiPhone 8プラスを買っていたのですが、塚瀬のiPhone Xを触らせてもらったら良すぎて、思わず買い替えてしまいました(笑)」(沖田さん)
ホームボタンがなくなり、操作系統が一新されたiPhone X。発表された当初は慣れることができるのか心配していたそうですが、使ってみるとあっという間に手に馴染んだといいます。
「ただ、コントロールセンターが上からフリックになったのだけはまだ慣れませんね(笑)」(塚瀬さん)
ディスプレイ以外で2人が気に入っているのは、その絶妙なサイズ感。特にiPhoneでゲームをプレイすることが多い沖田さんは、ディスプレイの大きさを妥協できないそうです。
「プラスモデルと比べると、本体は小さくなったのに画面サイズはそのまま。ゲーマーには最高のデバイスです」(沖田さん)
また、新たに対応したワイヤレス充電もさっそく使っているそうです。「会社で使ってみると、これがすごく便利だったんです」とのこと。
「デスクに座っているときにライトニングケーブルで充電していると、ちょっと手に持って席を立つのにも抜き差しの手間がありますよね。ワイヤレス充電はその一手間がなくて便利です」(塚瀬さん)
2人ともユーザとしてはかなり満足されているようですが、一方で開発者視点ではどうでしょうか。iPhone Xが発表された当初、SNS等では開発者と思しき方々が新仕様への対応に悲鳴を上げていたようですが…。
「実は、現時点ではそこまで大きな影響はないんですよ」(塚瀬さん)
たとえばホームボタン。なくなりはしたものの、そもそもホームボタンの機能は「アプリからホーム画面に戻る」ことのみ。もともと開発者が独自機能を持たせることはできなかった部分なので、ボタンがフリックに変わっても特に関係ないのだといいます。
「ただ、『ポケモンGO』など、上フリックが重要な操作に割り当てられているアプリは影響があるかもしれませんね」(沖田さん)
また、発表時に「開発者泣かせなのでは」と話題になった画面上部のノッチについても、「そもそもノッチの左右の領域自体、開発者が変更できない仕様なのであまり気にしていません」(塚瀬さん)とのこと。
アプリ同士の連係が鍵に
逆に影響が大きそうなのは、画面の角が丸くなったことや、画面下部にホーム画面に戻るフリック用のホームバーが出現したこと。これらはアプリのデザインに直接的に影響を与える要素なので、デザイナーやエンジニアは対応を迫られる可能性がありそうです。
もっとも、塚瀬さんと沖田さんはもっと根本的なところにiPhone Xが影響を与えるのではないかと見ているそう。それは「ユーザ行動」です。
iPhone Xではアプリを落とす動作が変わりました。従来はホームボタンをダブルクリックしてアプリを上にフリックする2ステップでしたが、iPhone Xでは下からフリックしたあと、アプリ画面を長押ししてフリックしないといけません。これまでのiPhoneよりも一手間増えているのです。また、ホームバーを左右にスワイプすることで、アプリを切り替えられるようになりました。これまでも1つ前のアプリに戻る操作はありましたが、それよりももっと気軽になったのです。微妙な違いにも思えますが、これによりユーザ行動が変わると予想しているそうです。
「アプリを落とす動作が面倒になったことで、いちいちアプリを終了しなくなる可能性があります。また、これまでよりもアプリ間を“行ったり来たり”するようになるでしょう」(塚瀬さん)
これまでのiPhoneアプリは、ユーザになるべく離脱されないように設計するのが定石でした。しかし、ホームバーで気軽にアプリを切り替えられるなら、むしろアプリ同士の連係が進む可能性もあるかもしれません。
さらに、フェイスIDとそれを実現している各種センサ類の活用も広がっていくだろうと2人は見ています。これまで指紋認証だったものがフェイスIDに置き換わるだけでなく、豊富なセンサを活かしたアプリも続々登場してくるはずといいます。10周年を迎えたiPhoneが切り開く新たな世界、その第一歩を刻むのがiPhone Xなのは間違いなさそうです。
「ホームボタンがなくなりましたが、購入した日の午前中には慣れました」という塚瀬さん。iPhone Xの進化点の中では、特にSuper Retina HDディスプレイの美しさに感動したとのこと。開発者の立場としては、ホームバーを左右にフリックすることでアプリが切り替えられる仕様が気になるといいます。
ノッチ部分のカスタマイズは開発者に開放されておらず、ホームバー付近はフリックによる誤操作が懸念されるため、開発者にとって触りにくくなっています。結果として、iPhone Xで不安なく開発できるセーフエリアはやや中央に寄った形。また、画面を横にするとホームバーが長辺下部に配置されるため、セーフエリアはさらに狭くなります。セーフエリアとそれ以外をどう調整するのかに、開発者としての腕が問われます。