Appleが2017年10月末に米イリノイ州シカゴのミシガンアベニューに新しいストアをオープンさせた。タウンスクエア構想に基づいてゼロからデザインした初のフラッグシップ店であり、Appleが考える新しいリテールストアを、2003年に同社が初めてフラッグシップ店を置いた街に設けた。
さまざまな“接点”となる場所
アップルが10月末に米イリノイ州シカゴに「アップル・ミシガンアベニュー」をオープンさせた。「タウンスクエア」としてデザインされた新世代のフラッグシップ店である。
タウンスクエアは、テクノロジーと地域コミュニティ、そして地域のアーティストの接点となる場であり、「人々が集う場所」としてデザインされる。今年6月にWWDC(世界開発者会議)の基調講演で、リテール事業を率いるアンジェラ・アーレンツ氏が実店舗型ストアの新コンセプトとして公表した。昨年春に米サンフランシスコにオープンした「アップル・ユニオンスクエア」も屋外にフリースペースを設けた集いの場になっている。だが、タウンスクエア構想がまだ練られていた段階で、すでにユニオンスクエア店の設計はスタートしていた。最初からタウンスクエア構想に従ってすべてがデザインされたフラッグシップ店はミシガンアベニューが初めてとなる。
店内の構成はユニオンスクエア店と同じだが、ミシガンアベニュー店は街の一部として機能するようにデザインされている。場所はマグニフィセント・マイルというショッピングストリートの南端、街の中心を流れるシカゴ川の川沿いにある。壁全体がガラスの店舗の前には広場が広がり、横には「プラザ」と呼ばれるフリースペースが設けられている。プラザにはベンチが置かれていて、誰でも気軽に利用できる。プラザの緩やかな坂を降りると、通りから川沿いの散歩道へと抜けられる。
なぜ、そのような設計になっているかというと、シカゴ川周辺の開発が市の懸案となっていたからだ。街の中心を川が流れているのに、川沿いへのアクセスが悪く、川を十分に活用できていなかった。人が集い、さまざまなアクティビティが行われるリバーフロントに発展させるのが市の希望であり、そこでアップルが先鞭をつける役割を買って出た。
建物一階の奥がApple製品を体験できるショーケース・スペース「アベニュー」。この部分が存在を主張しすぎるとパブリックスペースの雰囲気が損なわれるが、ガラスで覆われた建物でも外から見てアベニューが目立たない設計になっている。
誰でも気軽に立ち寄れる
オンラインストアの成長で、実店舗型の小売りは苦境に立たされている。今年9月に玩具小売り大手の米「トイザらス」が破綻。かつてニューヨーク市ではトイザらスの旗艦店が観光名所化し、その賑わいがホリデーシーズンの風物詩になっていた。しかし、今や同市に旗艦店はない。これまでのように商品を並べて販売するだけだったら、消費者は便利なオンラインストアを選択する。
アップルの考えるこれからのリテールストアは、製品を試したり、買い物するときだけではなく、普段から人々が立ち寄るオープンなパブリックスペースである。「誰でも歓迎する」がタウンスクエアのビジョンだ。アップルの直営店なのだから、アップル製品ユーザのための店であるべきと考える人もいると思う。だが、たくさんの人が集まる場にすることで、より多くの人がアップル製品に触れるチャンスが生まれる。
ミシガンアベニュー店は川辺の公園という雰囲気だ。美しい建物は一見の価値があるが、トイザらスのニューヨーク旗艦店がテーマパークみたいだったような驚きはない。でも、たくさんの人がこれから待ち合わせや買い物に疲れたときの休憩などに使うだろう。ストアでありながら、シカゴのリバーフロントの一部として機能しており、そこに住む人々や訪れる人々にとってなくてはならない存在になりそうだ。
アップルのストアも同社のプロダクトの1つといわれている。だが、デザイン力を示すだけならショーケースと変わらない。製品を通じて人々や社会の問題を解決するのがアップルであり、その点においてミシガンアベニュー店はまさに同社のプロダクトである。
河岸の傾斜に立っており、店内に入ると目の前にシカゴ川が飛び込んでくる。中央にはワークショップやセッション、店内のフリースペースとして用いられる「フォーラム」、巨大なLEDビデオウォールが置かれている。