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他社を真似ずに自分たちで“事例”は作る

著者: 福田弘徳

他社を真似ずに自分たちで“事例”は作る

「成 功しているiPad導入事例や活用方法を教えてほしい」。

こういった相談は日々後を絶たない。モバイルが浸透した業務の現場においてITのさらなる活用を模索し、デジタル変革を推進するための常套手段となっているのであろうが、他社の導入事例を真似ても成功に辿り着くことはない。同業他社ならば、ワークフローや業務上の課題は似通っているかもしれない。しかし、IT活用の本質はビジネスの課題を解決することであり、その課題はそれぞれの組織によって異なるはずだ。

私は「事例くれくれ」の相談に対して、常に伝えていることがある。それは「他社を真似るのではなく、自分たちが導入事例になることだ」と。誰もがリスクは最小限に抑えたいと思っているし、無駄な投資や支出は避けたいはずだ。先行する他社の導入事例を知ることで、検討から導入の意思決定や構築時の苦労、運用後の成果など、自社の導入検討の際にかかる時間やコストを予測したり、事前に対処することができるだろう。確かに、導入事例から学ぶことは多い。

しかし、あくまで参考情報であることを忘れてはいけない。他社の導入事例は、その会社のビジネス課題からできたものであるからだ。似たような悩みの解決策が目の前に転がっていたとしても、そもそも自分たちが課題と向き合うことができていなければ真似ても悩みが解消されることはない。

他社の導入事例を参考にするときにもっとも重要なのは、自社のビジネス課題を明確にして、ITによってどのように解決できるのかを考えながら聞いたり、読み解くことだ。ここを見誤ると、ただ導入事例に出てきた製品やサービスを導入した模倣にしかならず、何の課題解決にも至らない。

あるクライアントからiPad導入+アプリ開発の相談を受けたときの話である。私たちが手掛けた導入事例を担当者の上司が体験したことをきっかけに相談をもらったのだが、そのiPadで使われているアプリと同じものを開発したいというのだ。

自社専用のアプリを開発することは課題解決につながるが、最初のアプローチのボタンを掛け違えてしまうと、時間もコストも余計にかかり、無駄な投資となってしまう。エンタープライズ向けのアプリ開発に長けたデベロッパーもよく話していることだが、フルスクラッチでのアプリ開発は「最終手段」である。アプリを作りたいと思っている担当者は、まずiOSの標準機能やサードパーティ製のアプリをいろいろ試しながら、自社の課題解決に必要な機能を洗い出すことから始めるのがいい。

また、iPadが登場した頃は開発会社に一任していたところがほとんどだったが、今は状況が変わっている。Macさえあれば自分たちでアプリ開発を始められるぐらいハードルが下がっていて、企業内でプロトタイプを生み出す仕組みが生まれ始めている。こうしたプロトタイプを作り出すサイクルを経て、本当に必要なアプリを外注して作るべきかを判断することが成功につながる。

こうしたデジタルトランスフォーメーションを推進していく人材は組織内に不足しているのが現状だが、これからの企業の成長を考えるうえでは欠かせない要素となるはずなので、企業はIT人材の育成にも投資すべきだと思う。

企業のシステム導入やIT活用の本質は導入事例から見ることはできず、本来クローズドなものであるため、成功の秘訣を他社が知りうることはほとんどない。他社の導入事例の真似事もいいが、自社でどんどんプロトタイプを生み出しながら失敗や改善方法をアウトプットすることが、最終的に良質なインプットを取り入れることにつながる。これは、現状のビジネスの行き詰まりや課題解決のための重要なアプローチとなるはずだ。

©megaflopp

Hironori Fukuda

企業や教育機関向けのApple製品の活用提案や導入・運用構築を手がける株式会社Tooのモビリティ・エバンジェリスト。【URL】www.too.com/apple