7月28日に行われた三谷商事主催のセミナー「IT+教育最前線2017」にて、神戸大学におけるMac導入事例のプレゼンが行われた。教育用端末として大規模に導入されたiMac、それを支えるICT基盤システムに使用されるMac miniの活用について、ポイントとなる点を紹介する。
国内最大級のMac導入
全国有数の大規模総合大学である神戸大学は、Mac導入数においても国内最大級の規模を誇る。2016年の時点で教育用端末としては約1300台のiMacが稼働、サーバサイドには53台のMacミニが設置されている。
同学に初めてMacが導入されたのは2006年のこと。1997年に全学にメールアドレスを配付して以降、学生たちのパソコン利用を推進してきた同学だが、2006年まではウィンドウズ端末をメインに使用してきた。それがこの年、一斉にMacへ転換したのには理由がある。
「当時は、点在するキャンパスを結ぶ新システムの構築にあたり、2つの観点からMacを選択しました。1つはシステム全体の運用・管理のしやすさです。使用端末の検討の段階で、ウィンドウズでは規模が大きくなるほど維持管理が煩雑かつ困難になり、結果としてコストが増大することがわかりました。比較するとMacのほうが使い勝手がよかったのです。また、ファイル共有や認証関連でも、Macはウィンドウズに比べてほかのシステムとの親和性が高く、セキュリティ面で不安要素が少なかったことが挙げられます」
そう語るのは、情報基盤センター教授の熊本悦子氏。同学のシステム構築プロジェクトチームの一員として、初回よりMacの導入に携わってきた人物だ。導入にあたってはさまざまな困難があったという。
「全学に使用するパソコンの希望を聞いた際は、口を揃えて『ウィンドウズ』でした。しかし、先のシステム構築におけるメリット以外にも、ユニックス(UNIX)ベースのMacではコンピュータプログラムの内部構造や原理を理解しやすいということがあり、教育的観点からもコンピュータリテラシーを育むのに適するマシンだと判断しました」
はたして、同年に統合情報基盤計算機システムが完成し、全学のユーザ認証基盤である統合ユーザ管理システムなどとともにMacの導入が実現した。以降、同学のICT基盤を担っている。
教育用端末としてiMacが並ぶ教室。「iMacを導入した当初は新入生にとって珍しさと戸惑いを持って受け入れられましたが、この10年のICT環境の劇的な変化にツールにとらわれず対応できる情報リテラシーの修得には、多少でも効果はあったのではないかと思います」(熊本氏)。KAISER 2016の統合ユーザ管理システム(KUMA)やファイルサーバと連携することで、どのマシンからログインしても学生ごとの利用環境を再現することが可能になっている。
1902年に設置された神戸高等商業学校を起源とし、1949に設立された国立大学法人神戸大学(兵庫県神戸市)。10学部、15研究科(大学院)のほか多数の研究所・センターを有する大規模総合大学である。学生数は約1万6000人。
神戸大学情報基盤センター教育支援基盤研究部門、大学院システム情報学研究科(兼任)教授の熊本悦子氏。 同学のネットワーク基盤、ICT基盤の企画・導入・運用を担う同センターで、教育用端末、学修支援システム(LMS)等の教育支援基盤を担当。
ネットブートで効率的に運用
神戸大学では現在、教育研究用計算機システム「カイザー(KAISER)2016」の元で、第3世代となるMacによるネットブート環境を構築している。ネットブートとは、ネットワーク経由でOSを起動させる仕組みである。ネットブートサーバからブートイメージをダウンロードしてマシンを起動する。OSのアップデートやインストールするソフトウェアなどを一元管理できるため、効率的な運用を行えるメリットがある。OSやソフトウェアはマシンのCPUやメモリを利用して動作し、ユーザからは通常のマシンと同様に動作しているように見える。
ネットブートサーバとしては当初Xサーブ(Xserve)を利用していたが2011年に販売を終了したため、カイザー2016からはMacミニを使用している。ネットブート用のマスターイメージを53台のネットブートサーバ(Macミニ)に転送し、各サーバに接続する教育用端末(iMac)の利用を可能にしている。
マスターイメージの更新頻度はおよそ半年に1回。インストールされているソフトウェアの動作条件を考慮しつつ、ほぼ2年に1回OSのメジャーアップデートを行う。macOSは頻繁なアップデートがなく、そのことがメンテナンスの利便性向上にもつながっているという。
「イメージ更新の際は、要望のあったソフトウェアを入念な動作検証のうえ可能な限りインストールするなど、ユーザの希望に応えています。一方でブートイメージの肥大化という問題が上がりましたが、システム更新のたびに再度要望調査を行い取捨選択することでスリム化する工夫をしています。トラブルに見舞われることもありましたが、保守業者と一丸となって原因追求と早期復旧を行い、その影響を最小限に留めるよう努力してきました」
テクノロジーの発展によって、できることはどんどん変化していく。「社会の要請や学生の要望に応えるためのICT基盤づくりが重要」だと熊本氏は語った。
今回の記事は、「IT+教育最前線2017」セミナーの取材をもとにした。主催は、大学を中心とした文教インフラの構築を手がける三谷商事。本稿で紹介した神戸大学のシステム構築・運用にも携わっている。
同セミナーでは神戸大学以外にも、さまざまなICT活用事例が発表された。通常オンプレミスで行われる教育系基幹システムをクラウド移行させた近畿大学、BYODのマシンを用いた仮想デスクトップ環境を構築している神奈川工科大学など、そのどれもが先進的な教育インフラ環境を構築し、大学運営や教育活動の面で効果を上げている。
とかく教育内容そのものにおけるICT利活用が注目されがちだが、それを下支えするICT基盤の構築こそ次世代の教育に欠かせないものであり、事例の共有が必要な分野であろう。その意味で、参加者にとって同セミナーは有意義なものであったに違いない。
(上)KAISER 2016の物理構成図。同学のICT基盤を担うほか、教育研究活動支援・運営活動支援を行う。(下)神戸大学におけるネットブート環境のイメージ図。ネットブートサーバにはMac miniを使用。情報基盤センター内でネットブート用のマスターイメージを作り、53台のMac miniにApple Remote Desktop(アップルリモートデスクトップ)でブートイメージを転送する運用体制をとっている。1台のサーバにおよそ25台のiMacが接続され、教育用端末として利用される。