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AI時代のエコシステムと価値創造に必要な対等な“ツッコミ”

著者: 福田弘徳

AI時代のエコシステムと価値創造に必要な対等な“ツッコミ”

WWDC 2017で発表された新しい機械学習のフレームワーク「Core ML」や、アップルが機械学習のブログを始めるなど、日々アップル製品を利用する我々の身近でも人工知能(AI)関連の話題が沸騰してきた。Core MLにより手元にあるデバイスで機械学習のアプリを動作させる環境を、今後アップルが提供しようとしていることに期待が高まる。

現段階では機械学習を利用したアプリは学習させるデータを処理するために、外部へデータを転送したり、サーバで処理したりなど、膨大なリソースを必要とする。今後手元のデバイス上のアプリで機械学習の処理が行えるとなれば、新たなユーザ体験を生み出すことにつながるに違いない。画像処理のライブラリを活かして、カメラをかざして顔認識や画像の意味解析などが可能になり、自然言語処理でテキストの予測や言語の認識、翻訳などが実装されることで、今までのアプリが新たな価値を提供することになるだろう。

AIに関するプラットフォームがオープン化され、誰もがライブラリを活用できるようになったことで、モバイルやクラウドなどと同様にAIも業務に必要不可欠な道具となり始めている。しかし、現状ではAI活用を提案しているのは、一部のITベンダーや開発会社がビジネスの実態に関わらず、マーケティング上AIと謳っているものが多い。実際にディープラーニングが取り入れられたサービスはまだ少なく、一部のアルゴリズムや自動化をAIと呼んでいるものが市場に溢れている。AIの本質を見抜き、AIのビジネス活用を推進することがこれからの企業の生存競争に優位になるだろう。そこで、今回はAIに取り組むうえで重要なIT業界を取り巻くエコシステムについて考えたい。

これまでのIT業界のエコシステムは、資本力や従業員規模など企業体力に支配されてきた。大手ITベンダーやメーカーの傘下でビジネスを行う主従関係のようなものだ。垂直統合型のシステムを利用することになるので、閉じた世界の中で競争関係を持ったビジネスしか生まれず、新たな価値が生まれにくい。機能追加を実装する、または削除するといった方針も、そのITプラットフォームを提供するベンダーやメーカーの意向が色濃く出てしまい、開発者やユーザの望む機能実装には程遠い。また、対等な関係が築けていないことから現状のシステムに依存し、脱却することも困難になってしまっている。

ネットワークにつながっている状態(Net-Native)が当たり前の今、相互につながっている状態を前提にビジネスは考えなければならない。AI時代のエコシステムは密につながることを前提に、「相互依存の関係」ではなく、「相互作用の関係」を構築できるものでなければならない。さまざまなプレイヤーを巻き込み事業を発展させる中で、お互いに相手の力を引き出す関係を目指すことだ。言い換えれば、効果を最大化するために「建設的なツッコミ」が双方でできるかどうかがポイントである。

たとえば、事業会社がアプリ開発会社やITベンダーと協力して新たなサービスを検討しようとする場合、金銭的な契約関係に縛られることなく、サービスを受ける顧客を常に意識し、最大限の価値が発揮できるよう同じゴールを目指す目標設定をすることから始める。対等な関係の中でこそ、議論は建設的なものとなり、本質的な課題に目を向けることが可能になる。そこで初めて建設的なツッコミができるのだ。

エコシステムとは機能や仕組みを表すものではなく、今まで提供してきた製品やサービスが市場や顧客にとって、新たな意味合いを創出するための生態系を表しているのである。つながることによって、市場や顧客に対して新しい価値を提供するために必要なことを考え抜き、将来を見通す力を養うことが求められている。

©Arthimedes

Hironori Fukuda

企業や教育機関向けのApple製品の活用提案や導入・運用構築を手がける株式会社Tooのモビリティ・エバンジェリスト。【URL】www.too.com/apple