iPadとPC
米ビジネスインサイダーの取材に対して、マイクロソフトのエグゼクティブが「iPadプロはサーフェイス・プロの後追い」と発言したのが話題になった。どちらもペンを使った手書きをサポートし、マグネットで着脱できるキーボードが用意されたタブレットだ。しかし、実際に両方を使ってみると、2つは「似て非なるデバイスである」とわかる。
決定的な違いは、iPadプロはiOSで動作し、iOSアプリを使う「ポストPCデバイス」であり、サーフェイス・プロはPC向けのウィンドウズ10で動作し、タブレットとしても使える「モバイルPC」である点。その違いは、そのまま「iPadプロはPCの置き換えになるか?」という疑問の答えになる。PCでできて、iPadプロでは便利にできないことがよく話題になるが、逆にサーフェイス・プロをタブレット・モードで使ったときにもiPadのように快適にタッチ操作できないことに戸惑う。
ティム・クック氏が英テレグラフのインタビューで「iPadプロは多くの人にとってノートPCやデスクトップPCの代わりになる」と述べていた。言い換えると、多くの人のニーズをiPadプロは満たすが、すべての人のニーズを満たせるわけではない。PCでなければできないこと、PCのほうがうまくできることはこれからもあり続ける。だが、PCが万能というわけではない。iPadプロはPCとは違った形で多くの人々のニーズを満たし、PCにはない体験も提供する。ノートPCがiPadプロの完全な代わりになることもないのだ。
進化は2 in 1
この夏にMicrosoftも画面表示やペンを強化したSurface Proの新モデルを発売、2 in 1市場を開拓した自負があり、タブレットの進化は2 in 1であるとアピールしている。
MSの対抗CM
この春にアップルは「iPad Pro—Better than a computer」というPR動画を米国などで公開し、「iPad ProがPCの代わりになるのか?」という議論を広げた。
PCからの進化
2016年にMicrosoftもMacBook Airと比較して「Surfaceならもっとできる」というマーケティングを展開している。MacBook Airを対象としていたものの、むしろ従来のPCからの進化という印象を人々に与えた。
普通の人々にチャンスを
WEBサイトを見る、メッセンジャーやSNSを使う、電子書籍を読むといったコンテンツ消費に、もはやPCは必須のデバイスではなく、ユーザがニーズに応じてスマートフォンやタブレット、PCを選ぶのが今日の、そしてこれからのスタイルだ。だが、PCを生産性向上のツールとして使ってきた人、あるいはPCをクリエイティブツールとして使ってきた人にとってもデバイスの幅が広がっているかというと、それは別の議論になる。成果が問われる作業においては、より強力なツール、より多機能なツールを人々が求める傾向は根強い。
PCは「Do more」なデバイスであり、仕事のツール、プロ用とのツールとして信頼されている。だが、多機能なツールには使いこなせるようになるまでの苦労がつきまとう。一方、iPadプロは「Do less」なデバイスだ。より多くを良しとするならPCに適わないが、「Do less, Do better」には長ける。コンピューティングがよりシンプルに、効率的に、そしてエレガントにできるようになる。
初代iPadが登場したときのポストPCに関するスティーブ・ジョブズ氏の指摘を思い出してみよう。米国が農業国だったときに乗り物はトラックだった。次第に乗り物が都市部でも使われ始め、自動変速やパワーステアリングを備えた乗用車によって、多くの人へ広まった。乗用車はトラックの代わりにはならない。だが、乗用車が車の価値を多くの人々にもたらし、人々の暮らしを変えた。
33年前にPCに対してMacがそうであったように、今日のiPadプロが目指すのは「The computer for the rest of us(普通の人々のためのコンピュータ)」である。
iPadの年間販売台数
2010年から2016年までのiPadの年間販売台数の推移、2013年をピークに減速しており、低迷が指摘されているが、アシムコによるとアクティブ台数が、この春に3億台を突破した。iPadは多くの人に使われている。わずか7年での到達。Macの現在のアクティブ台数は1億~1億5000万台である。 【URL】http://www.asymco.com/2017/03/24/ipad-optics/