疲れないディスプレイ
新しいiPadプロは、最大120Hzのリフレッシュレートをサポートした。リフレッシュレートは画面を書き換える回数である。120Hzであれば、1秒間に120回画面を書き換える(前世代のiPadプロは60Hz)。書き換え回数が多いほどなめらかになるが、それに伴って消費電力が増加する。そのため、バッテリ駆動のモバイルデバイスでは採用が敬遠されていた。だが、レティナディスプレイがそうであったように、ユーザ体験を大きく向上させる技術なら、消費電力の難題に格闘しても採り入れる価値はある。
iPadプロを操作してみると、スクロールやアニメーションといったUIの表示がなめらかで、ディスプレイに触れる指先に画面内のオブジェクトが吸い付いてくるような操作感を楽しめる。すべてにおいて120Hzの効果が発揮されるわけではないが、最新のiPadプロをしばらく使ったあとで9.7インチを操作すると違いは明らかだ。一度慣れてしまったら最大60Hzには戻れなくなる。また、なめらかな動きは目にやさしく、長時間の作業のあとにも120Hzの効果に気づかされた。
消費電力の問題は、常に120Hzで動かすのではなく、写真表示には24Hz、ビデオ再生には48Hzというように利用状況に応じてリフレッシュレートを自動的に落として、トータルの消費電力を抑えている。バッテリ動作時間は前モデルと同じ公称「ビデオ再生で10時間」(Wi-Fiモデル)。実際に計測してみたところ、一般的な利用において9.7インチを上回る公称値に近いバッテリ駆動時間を実現した。
そうした従来のタブレットでは実現できなかったなめらかで美しい表示を実現する仕組みを、アップルは「プロモーション(ProMotion)」と呼んでいる。
ディスプレイにはそのほかにも数々の改善が施されている。iPhone 7シリーズ、MacBookプロ、4K/5K iMacに続いて、iPadプロのディスプレイも色域がDCI─P3に拡大し、発色可能な色数が増えた。また、輝度が600nitsに向上。屋外で使用するときに、日光の下での画面の視認性が良くなった。低反射コーティングの改善で画面反射率が1.8%になり、映り込みが軽減されている。さらに、周囲の光環境に合わせてホワイトバランスを調整する「True Tone」技術によって、環境光に左右されずにビデオや写真を鑑賞できる。
最大輝度も明るく
9.7インチiPad Pro(左)では500nitsだった輝度が新iPad Pro(右)で600nitsに向上、前世代でも直射日光の下で十分に使用できたが、さらにはっきりと表示されるようになった。True Toneの採用に関しては賛否両論ある。使用する場所が固定されるディスプレイなら最適なカラー調整を行えるほうがいいが、iPad Proのようにさまざまな環境で使用するデバイスでは有効な技術ではないだろうか。
写り込みも低減
画面に映り込む自分の顔が気になったのは今は昔、ひと目で変化を実感できるような違いではないが、低反射コーティングの改善で新iPad Pro(右)では前世代(左)よりも映り込みが軽減している。
色域は25%も広く
新しいiPad Proの化粧箱にもプリントされている新しい壁紙。新iPad Proのディスプレイが対応するDCI-P3はsRGBよりも25%色域が広く、特に緑と赤の発色性能に優れる。
ディスプレイにこだわる理由
このようにiPadプロのディスプレイにはハイスペックなパネルが採用され、いくつものテクノロジーが組み合わせられている。でも、その成果は「見やすく」、そして「美しい」というシンプルな言葉で言い表せる。
バックライト式のディスプレイを長時間見るのは、人の眼に大きな負担がかかる。本や記事を読んだり、絵を描くなど、紙に代わって長くユーザの眼が触れるデバイスだけに、その負担を和らげることが使用体験の向上につながる。iPadプロに搭載されたのは、そのための技術であり、新機能の追加である。逆に言うと、ユーザに対してやさしく、そして快適な体験を提供できるものになっていなかったら、どんなにスペックが高く、どのような技術を採用していても意味を成さない。それはディスプレイだけではなく、パフォーマンスについても同じことが言える。