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椙山女学園大学附属小学校の「多様性を生む」iPad授業

著者: 山田昇

椙山女学園大学附属小学校の「多様性を生む」iPad授業

椙山女学園大学附属小学校は、2014年10月からiPadを使ったICT教育に取り組んでいる。椙山女学園大学教育学部との共同研究により、ICT教育における授業の進め方や児童との関わり方を検討し続け、さまざまなノウハウを蓄積してきた。そんな同校でどのような取り組みが行われているのか、実際の授業を取材した。

電子黒板とiPadを連係

2014年からiPadを授業に取り入れた椙山(すぎやま)女学園大学附属小学校は、2016年度よりiPadの1人1台体制を実現した(4年生と5年生の140名)。その環境下でどのような授業が行われているのか、福岡なをみ教諭の授業を取材した。

最初に取材したのは算数の授業だ。同校では、パイオニアVCの学習支援システム「バイシンク(xSync)」を導入している。このシステムでは、電子黒板に表示させたコンテンツを児童のiPadに送ったり、逆に児童がiPadで書き込んだものを電子黒板に表示させたりといったことが可能になる。

授業は、教師の出題に対して児童一人一人がiPadで答えをまとめたあと、4人1組となってそれぞれの解答内容について議論するという流れ。直接iPadに考えを書き込んでいく児童もいれば、紙のノートに書いたものをiSightカメラでiPadに取り込む児童もおり、iPadの使い方は実にさまざまだ。

教師側のiPadには全児童の解答が表示される。教師はこの機能のおかげで児童の進捗状況を確認しやすくなり、答えを出すのに時間がかかっている児童を見つけて直接指導することもしやすくなった。

また、この授業には、児童が自分のiPadでまとめた解答を電子黒板に表示して、みんなの前で考えを発表する時間もある。プレゼンテーションのように考えを発表するという形式のため、それぞれが思い思いの見せ方を考えていたのが特徴的だった。単に計算式を書くだけの児童がいる一方で、グラフを書いて図で見せる児童もいる。どんな発表方法がわかりやすいのかを一人一人が個別に突き詰めていけるのは、1人1台体制ならではの恩恵だといえる。

児童のiPadは、インヴェンティット社のデバイス管理(MDM)システム「モビコネクト・フォー・エデュケーション(MobiConnect for Education)」によって管理されている。それぞれのiPadはWEBブラウジングも許可されているが、このMDMではiフィルタ(i-FILTER)」によるコンテンツフィルタリングも行われているため安心感がある。また、夏休みなどの長期休みのときにはiPadを自宅に持ち帰ることが可能で、自宅のパソコンと接続してiPad内の動画や画像・写真をダウンロードすることが許可されている。親が子どもの学習進捗状況を知るには、これまで教師との対話や連絡帳といった手段しかなかったが、動画・画像のダウンロードを許可したことで成長の過程を具体的に感じられるようになった。

プログラミング的思考を習得

次に行われたのは、プログラミングの授業だ。同校では、レゴブロックやモーターを使ったロボット・プログラミング教材「レゴ・ウィードゥー(WeDo)2.0」を使用している。専用の教育用アプリで命令ブロックを組み合わせることでプログラミングを学んでいく仕組みだ。

今回の授業で出された課題は「メッセージブロックのはたらき」。児童はiPadアプリを使う前にフローチャートを書き、ブロックをどのように並べるとうまく実行できるのか、考えをまとめていった。

この授業を取り入れた当初は、真っ白な紙の上に考えをまとめる形式だったそうだが、フローチャート式の紙を用意することで、プログラミング的思考を自然に学習させることに成功したという。命令を一直線で並べるだけでなく、複数の命令を並列で実行するという発想も身につきやすくなったそうだ。

文部科学省は、2020年から小学校におけるプログラミング教育の必須化を検討すると発表している。今回の取材にあたって、福岡教諭にプログラミングの授業でどのように学習評価するのかを尋ねてみた。同校では、プログラミング学習で学んだ知識を言語化して表現する授業方法に取り組んでおり、今後プログラミングが必須教科になったときでも児童の発表を通じて評価できるのではないかと考えているそうだ。

取材を通して見えた同校のICT教育は、発想の多様性や自主性を育むものだった。こうした学習方法が広がって、将来柔軟で多様な発想力を持つ若者が世の中に増えていくことを期待したい。

xSyncでは、iPadに「TabletSync」というアプリをインストールして授業を行う。手書きペンで直接書き込んだり、カメラで写真を撮ってノートに挿入したりといった機能がある。

当てられた児童が電子黒板で自分の発表を行う。発表の際にどんなまとめ方にしておくとわかりやすいのか、互いのまとめ方を見比べながら考えを深めていくことができる。

プログラミングの授業では、アプリを使う前にフローチャートを書き、考えをまとめる。このステップを踏むことでプログラミングの考え方が定着していく。

同校の児童は、手を交差させて抱えるようにiPadを持ち歩いていた。こうしたほうが落下しにくいと児童が自主的に考えた結果であり、「椙小持ち」という呼称が定着しているのだという。