インテル社は、5月30日に開催されたCOMPUTEX台北において同社の最新プロセッサの発表を行った。これらがMacのプラットフォームにどのように影響を及ぼすのか。最新CPUの詳細と、同じくリリースされた最新のサンダーボルト3の話題に迫ろう。
18コアの衝撃
インテル社は今年5月30日、コードネーム「ベーシン・フォールズ(Basin Falls)」こと「コアX(Core X)シリーズプロセッサ」と、「インテルX299チップセット」をリリースした。中でも衝撃的だったのはコアXシリーズプロセッサ(スカイレークX=Skylake-X)のスペックで、最上位のコアi9-7980XEは18コア/36スレッドというモンスターコア構成となっており、現行Macプロ(2013)の最上位モデルに搭載される「ジーオン(Xeon)E5-2697 V2(コードネーム・アイビーブリッジEP=Ivy Bridge EP)」の12コア/36スレッドを大きく上回る。
Computex Taipei 2017で発表された「Core Xシリーズプロセッサ」。Coreプロセッサ過去最強の18コア/36スレッドのモンスタープロセッサで、その突然の発表にPC業界が驚いた。【URL】https://newsroom.intel.com/press-kits/intel-core-x-series-processors/
「Core Xシリーズプロセッサ」と組み合わされる「インテルX299チップセット」は、24レーンのPCIe Gen.3、10ポートのUSB 3.0、8ポートのSATA 3.0などを統合する。【URL】https://newsroom.intel.com/press-kits/intel-core-x-series-processors/
現在のコア(Core)プロセッサのラインアップは、ハイエンドのコアi7、メインストリームのコアi5、エントリーのコアi3、そしてウルトラモバイル向けのコアMシリーズの4つのブランドで構成されている。そこに今回最上位ブランドとしてコアi9(スカイレークX)が追加されること自体は早くからOEMベンダーには知らされていた。昨年まではスカイレークXの最上位SKUは、現行ハイエンドモデルコアi7-6950XE(コードネーム・ブロードウェルE=Broadwell-E)と同じ10コア/20スレッドになるとされていた。ところが今年2月に入ってまもなく12コア/24スレッドとなる可能性が報じられ、さらに4月には予定を前倒しして6月にも発売されるという情報が出た。そんな中、先日台北で開催されたコンピュテックス(Computex)2017において、いきなりインテルは最大18コア/36スレッドのスカイレークXを発表し業界を驚かせたのだ。
そもそも現在のプロセッサ自体はそれほど急速に仕様変更して生産できる設計にはなっていない。少なくともプロセッサダイの設計には1~2年の期間を要するのが普通であり、それを量産して製品として軌道に乗せるにはさらなる時間が不可欠だ。実はスカイレークXがその仕様をこれほど早くかつ柔軟に変更できたことには、その生い立ちにカラクリがある。
スカイレークXは下位のスカイレークシリーズ(Skylake-G/H/U/Y)とは異なり、ベースとなるのはエンタープライズ向けのジーオンブランドプロセッサ「スカイレークEP(Skylake-EP)」だ。同シリーズは今年後半に「ジーオンE5-2600 V5」シリーズとしてリリースされる予定だが、その最大コア数は32コア/64スレッドとされており、10コアから32コアまでのスケーラブルなラインアップとなる見込みだ。
スカイレークXはこのスカイレークEPのダイ(シリコン)をベースにして、マルチプロセッサ構成に必要なQPIやメモリバスのチャンネル数、PCIエキスプレスのレーン数などに制限を加えたうえで、LGA2066ソケット(Socket R4)のパッケージに収めたもの。この手法は従来のコアi7-6950XEがジーオンE5-2600 V4(Broadwell-EP)のダイから作られたのと同じアプローチである。従って最大32コア/64スレッドのコアプロセッサを作ることも技術的には不可能ではなく、ハイエンドコアプロセッサのスカイレークXの最大コア数はインテルのマーケティング次第で変更が可能というわけだ。
強力なライバルの登場
従来10コアまでのラインアップだったハイエンドコアプロセッサに対して、当初の計画を変更してまで18コアもの大規模なプロセッサをコンシューマ市場に投入したのはなぜだろうか。それは手強いライバルの攻勢があったことに加えて、PC市場を取り巻く状況の変化に対応する必要があったからだ。
今年3月にリリースされたAMDの新しいプロセッサ「ライゼン(Ryzen)」シリーズは、IPC(クロック周波数あたりの処理性能)や電力効率を従来より大幅に改良した「ゼン(Zen)」アーキティクチャを採用した戦略プロセッサである。中でも主力となる8コア/16スレッドの「ライゼン7」(コードネーム・サミットブリッジ=Summit Ridge)はインテルのコアi7プロセッサと互角に戦える性能を有しながらも、大胆な低価格戦略により市場でのシェアを着実に伸ばしており、まさにインテルにとっては脅威と言える存在となっている。
今年後半には4~6コアのメインストリーム向け「ライゼン5」および「ライゼン3」をリリースする予定で、インテルのコアプロセッサラインアップと全面的に競う姿勢を見せている。さらにAMDはこの夏、ライゼン7のダイを2基搭載した16コア/32スレッドの「ライゼン・スレッドリッパー(Ryzen Threadripper)」を市場に投入する予定だ。現在のインテルのラインアップにはこれに対抗できるコアプロセッサがないため、急遽スカイレークXのコア数を増強したモデルをコアi9として追加投入することを決定したものと推測される。
インテルのCoreプロセッサのライバルとなる、AMDの戦略プロセッサ「Ryzen 7」。8コア/16スレッドの高性能プロセッサながら、低価格戦略でインテルの牙城を崩す勢いだ。【URL】https://www.amd.com/ja/ryzen
PC市場の変化も見過ごせない要因だ。スマートフォン市場の成長とともにPC市場全体が世界的に低迷している中で、最近ではゲーム用途に性能を向上させた「ゲーミングPC」の市場が年率20~30%と高い成長を遂げている。またVR(仮想現実)や4K動画編集などマシンパワーを必要とする市場も拡大を続けており、より強力なプロセッサパワーを求めるユーザが増えている。ライゼンはまさにそのようなニーズに向けて登場したAMDの切り札であり、これを迎え撃つべくインテルが用意したのが最大18コア/36スレッドのスカイレークX「コアi9エクストリーム」というわけだ。
この最新のコアi9がすぐにでもMacに搭載されるかといえば、当面それは考えにくい。10~18コアのスカイレークXはその熱設計容量(TDP)が140ワットを越えると推測され、従来のiMac筐体への搭載には冷却設計の強化が必要不可欠だからだ。このことは同じく、18コアのジーオンプロセッサを搭載する新iMacプロの冷却設計が大幅に見直されたことがそれを裏づけている。
むしろアップル製品でもっともコアi9の影響を受けると考えられるのはMacプロだと思われる。というのもコアi9の登場によってジーオンプロセッサ全体の価格が見直される可能性が高いためだ。インテルの発表ではスカイレークXの最上位SKUであるコアi9−7980XEの価格は1999ドルと、同じコア数のジーオンプロセッサと比べて大幅な低価格に設定されている。さらにライバルのAMDもゼンアーキティクチャの32コアプロセッサ「ネープルズ(Naples)」を今年後半にエンタープライズ市場に投入すると発表しており、インテルのジーオンプロセッサも今後厳しい価格競争に晒されることは間違いない。当然これを搭載するMacプロも必然的によりコストパフォーマンスの高いモデルへと生まれ変わることになるだろう。
サンダーボルト3の普及が加速
インテルに関してはもう1つ大きな動きがあった。インテルは今年5月24日、最新のMacBookプロにも搭載されているサンダーボルト3(Thunderbolt 3)のプロトコルを2018年中にロイヤリティフリーで公開すると発表した。これによってサードパーティ製のサンダーボルト3対応チップの製造が可能になり、同規格に対応した機器やケーブルの低価格化とさらなる普及が期待される。
また同じ発表の場で、インテルは将来の同社のプロセッサにサンダーボルト3コントローラを統合すると表明した。具体的なスケジュールは明らかにされていないが、プロセッサにサンダーボルト3コントローラ搭載されれば、現在MacBookプロやiMacに搭載されている「アルパイン・リッジ(Alpine Ridge)」チップが不要となり、その分基板面積の縮小、消費電力の削減、システムのコストダウンに期待できる。
また、より多くのPCにサンダーボルト3インターフェースが搭載されるようになり、同規格の普及が今後加速されることは間違いない。このことはMacBookプロの外部インターフェイスをサンダーボルト3のみに限定したアップルの戦略を後押しすることにもつながる大きな出来事といえるだろう。