アプリを使って15秒の音楽ビデオを作成・共有できるサービスを提供するMusical.lyとAppleが提携し、Apple Musicの楽曲にMusical.lyからアクセスできるようになった。Musical.lyは米国のティーンエイジャーから圧倒的に支持されているサービスであり、新たな音楽の楽しみ方を提供するサービスとして注目されている。
あっという間の15秒
ミュージカリー(Musical.ly)というアプリをご存じだろうか。音楽ビデオ風の15秒動画を簡単に作成して共有できる、米国で今ティーンエイジャーに圧倒的な人気を誇るサービスである。しかし、一般的な知名度は米国でも低く、初めて聞いたという方も多いと思う。そんなミュージカリーとアップルがパートナーシップを結んだ。
ミュージカリーの楽しみ方はインスタグラムやスナップチャットに近い。プロフィールを作成し、気になる人をフォロー、またはオススメの動画を楽しむ。ハッシュタグもサポートしている。大きな違いは作成・共有するのが音楽ビデオであるということだ。
基本的なビデオ作成は、ライブラリから音楽を選んで動きのスピードを設定、音楽に合わせて撮影し、編集メニューで調整する。スマートフォンで完結するようにデザインされているのでとてもシンプルだ。だからこそ、端末を持つ手の動きや小道具を使ったトリックなど作り手がアイデアを活かせる。ダンス、顔芸、ショートドラマなどさまざまなコンテンツがあるが、基本的に口パクである。口パク音楽ビデオなんて、楽しいのはやっている本人だけで、見ているほうはつまらないと思うかもしれない。実際、そんな普通の口パクビデオもたくさんある。だが、インフルエンサーと呼ばれる人たちの人気ビデオは、選曲、振り付け、カメラの動きなどさまざまな工夫が凝らされている。クリエイティビティやユニークな発想を楽しめて、15秒があっという間だ。
ティーンが音楽と出会う手段
2014年のサービス開始から3年とかからずにミュージカリーのユーザ数は2億人を超えた。大半がティーンエイジャーである。昨年には36億本ものビデオが作成された。かつてのフェイスブックや少し前のスナップチャットがそうであったように、ユーザが若い世代に偏ったサービスから、時にそれまでの常識を覆すような新たなトレンドが生まれくる。
ジェイコブ・ザルトリウスのようにミュージカリーで一千万人以上のフォロワーを持つティーンの人気者がビルボードチャートにランクインを果たしている。今日の米国のティーンエイジャーはソーシャルメディアに長い時間を費やし、ソーシャルメディアのインフルエンサーを見て育ってきた。そんなティーンエイジャーが今、音楽を発見するきっかけはテレビやラジオ、音楽サービスではなくミュージカリーなのだ。そのためブルーノ・マースやマルーン5、アリアナ・グランデといった人気アーティストも新曲のプロモーションにミュージカリーを利用するようになった。
ミュージカリーは音楽ディストリビュータとして英7デジタル(7digital)と契約しており、これまでユーザはアプリ内で曲全体を通して聴くことはできなかった。しかし、アップルとの提携によって、アップル・ミュージックを契約するミュージカリー利用者は、ミュージカリー内で約4000万曲の音楽ライブラリから全曲をストリーミングで聴けるようになる。楽曲へのアクセスを認めるアップルは、ティーンエイジャーをターゲットに、ミュージカリーをもっとも楽しめる音楽ストリーミングサービスとしてアップル・ミュージックをアピールできる。
ミュージカリーはアップルとの提携が単なるクロス・プロモーションではなく、音楽の価値を高める戦略だと強調している。スマートフォンとソーシャルメディアの時代に、これまで音楽を消費する対象でしかなかったリスナーも音楽を楽しむ表現者になり、そのネットワークが音楽を流通させる。そんな好循環を生み出し、ミュージシャンも巻き込んで回転させていくためのパートナーシップである。
AppleはMusical.lyとの提携の発表に、若者に人気の女優ヘイリー・スタインフェルドを起用、Apple Musicの公式Twitterアカウントにおいてショートビデオで発表した。【URL】https://twitter.com/AppleMusic/status/858057496841170944