アップルは音声アシスタント分野ではSiri、ホームエンターテインメントとオートメーション分野ではApple TVで先鞭をつけながら、伏兵的なアマゾンのスピーカ型AI端末「Echo」に米国市場での主導権を握られた。挽回のチャンスは、今しかない。
先行していたアップルだが…
アップルは、2010年に人工知能(AI)技術を応用した音声UIの開発企業「Siri」を買収し、翌2011年に、同名のアシスタント機能をiOS 5に内蔵した。Siriの名は、まさにそれが実現する機能(発話解析&認識インターフェイス=Speech Interpretation and Recognition Interface)の頭文字から名づけられたもの。高度な音声UIをモバイルOSに組み込むアップルの決断は、当時のグーグルCEOであるエリック・シュミット氏を浮き足立たせたほど先取的な動きだった。
また、macOSシエラからはMacでもSiriが利用可能となり、音声UIへのアクセシビリティはさらに高まった。しかし、今では他社も音声UIを充実させ、iOS上でもアプリ経由で他の音声アシスタントサービスが使えるなど、Siriの独壇場ではないことも確かだ。
一方で、2012年にアップル純正のセットトップボックスとしてリリースされたアップルTVは、視聴可能コンテンツの拡大やアプリ対応、Siriサポートなどを図りながら進化してきた。そして、ホームオートメーション(家庭内の電化製品を一括で制御・操作すること)の核となることが期待されたが、現実の普及状況は今ひとつである。
既存のApple TVは確かに優れた操作感を実現したが、Siriは付属のリモコンのボタンを押さなければ利用できず、何よりテレビに接続して使うという前提が設置場所や利用シーンの点で足かせとなっている部分がある。
エコーの後塵を浴びる
その間隙をついて、スピーカ型の音声アシスタント兼ホームオートメーションデバイス「エコー(Echo)」を市場投入したのがアマゾンだった。2015年にアメリカでの一般販売が始まったエコーは、シンプルなデザインで存在を主張せず、話しかけるだけで天気予報やニュースの取得、情報検索、IoT機器のコントロール、アマゾンへの発注などが行える。
確かにエコーには画面がないことによる制約もあるが、機能を削ぎ落とすことで目的を明確化し、そこでベストなユーザ体験を作り出すという製品哲学は、本来アップルが得意とするものではなかったか?
エコーの核は「アレクサ(Alexa)」という音声アシスタント技術だが、画面がないことで必然的に声による操作が際立ち、消費者はハンズフリーのメリットに気づくと同時に、空間に呼びかけるという利用スタイルを自然に受け入れていった。
そして、エコーのコンセプトが市場に十分浸透したところで、ニーズに合わせたバリエーションや、カメラ、タッチスクリーン付きバージョンを追加しており、かつてホームコンピュータと呼ばれた製品分野を再構築する勢いすら感じる。しかも、ゲームなどに言及することなく、「日常生活を豊かにするツール」というスタンスは崩していない。さらに、ビデオチャットにも対応するモデル「エコー・ショー(Echo Show)」は価格が230ドルと破格で、2台買うと100ドル割り引くキャンペーンすら行っているのだから、売れないほうが不思議といえる。
これまでエコーは、アメリカ、イギリス、ドイツでのみ販売されていたが、日本向けバージョンの登場も近いといわれている。これに対してアップルは、この2年あまり有効な対抗製品を打ち出せずにきた。このままエコーシリーズの快進撃が続けば、ホームオートメーション市場はアマゾンに独占され、巻き返しが難しくなる。
その1つの山場が、米現地時間の6月5日から始まるWWDC 2017(世界開発者会議)であり、ここでSiriベースのホームデバイスを発表できるかどうかが、この分野でのアップルの命運を左右する。しかも、今となっては単なるスピーカ製品では力不足であり、さらに出荷が秋にずれ込むようであれば、その差はますます広がるだろう。その意味で、今年のWWDCの最大の注目点は、各OSの新バージョンでも、新型iPadプロでもなく、Siriデバイスの有無なのである。
円筒形のスピーカというフォームファクタで登場したアマゾンのEchoは、常時オンかつ声のみで操作するというわりきりが、屋内のどこにでも置けてハンズフリーで使える利便性に直結し、特にアメリカで大人気となった。【URL】https://www.amazon.com/gp/product/B00X4WHP5E