誰にも得意・不得意があるものですが、私が不得意なことの1つに「バケーション」があります。そのためなら、忙殺される仕事もなんとか乗り切れてしまう休暇のはずが、休暇にならない。「Macなんて開くものか!」と意気込んで臨んだ休暇も、どうもジッとしていられなくなってしまう。バリのリゾートで、傘とパイナップルが飾られたピニャコラーダを片手に海を眺めていても、カクテルを飲み終わる頃にはムズムズしてきます。
ジッとしていられない性格なんだから仕方がないと思っていた矢先、意図すれば、自分にも心底リラックスしたバケーションが可能であることを発見しました。それは、週末にパームスプリングスに行ったときのこと。カリフォルニア州リバーサイド群に位置するパームスプリングスは、砂漠のリゾート地。わたしが住むロサンゼルスのベニスからは、クルマで2~3時間の距離にあります。
そもそもこの週末は家で過ごす予定でしたが、金曜の昼近くになって主人から「荷造りの準備をするように」とメールが。なんでも、別荘を予約していた知人が急に行けなくなってしまい、代わりにと鍵を渡されたとのこと。そう、パームスプリングスは天から降ってきたバケーションだったのです。帰宅ラッシュに巻き込まれないように慌てて用意をし、1時間以内に出発しました。
今回の週末旅行が、心身ともに癒されるバケーションになった理由は、ほかならぬ「無計画性」。完全に、“spontaneous”(急かつ自然発生し、計画がない状態)だったことが、結果としてリラックスできる状況を作ってくれたのだと思います。衣類などの必需品を荷造りするだけで精一杯で、目的地が決まっている以外は一切の計画がない。別荘は見たこともなければ、イメージすら湧かず。時間がなかったので、近隣のレストランなどを調べることすらしませんでした。
それがクルマを走らせるロードトリップでも、ヨーロッパ旅行でも、普段はしっかり下調べを行う性分の私。日中足を運ぶ場所やそこまでの移動手段、もちろん美味しいレストランも。美術館なら事前にチケットを購入して、地元で評判のレストランには予約を入れて。荷造りもバッチリやって、空き時間ができたらすることまで事前に考えて。こうして考えてみると、バケーションに出かける前から休める気がしませんね(笑)。
別荘に着いたのは、金曜の夕方6時頃。パームスプリングスといえば、ミッド・センチュリー・モダンのデザインが有名。1950~1960年代くらいにカリフォルニアで生まれた人気のスタイルで、飾らないシンプルなデザインが特徴です。あたり一帯に立ち並ぶ家のデザインは統一されていて、家の前のランドスケープもおしゃれ。砂漠リゾートだというだけあって、外からは見えない中庭にはプールがあり、それを大きな窓ガラスから覗くことができる作り。今回お邪魔した別荘にも、広い温水プール、ジャグジー、ヤシの木にかかったハンモックなどがあって、「ザ・リゾート」という感じでした。
食事は、金曜夜だったにもかかわらず人気レストランのバー席を確保でき、また日曜のブランチも時間をズラすことで難なく入ることができました。それ以外は、家でまったり。これまたミッド・センチュリー・モダンなイームズラウンジチェアでくつろいだり、プールに入ったり、本を読んだり。Wi-Fiは完備されていましたが、iPhoneを触る気すら起きず。自然を満喫するようなバケーションを除くと、こんなにくつろいだバケーションは人生で初めてでした。バケーションがバケーションにならないという私のような方には、一度「無計画」な思いつきバケーションに出てみることをおすすめします。
Yukari Mitsuhashi
米国LA在住のライター。ITベンチャーを経て2010年に独立し、国内外のIT企業を取材する。ニューズウィーク日本版やIT系メディアなどで執筆。映画「ソーシャル・ネットワーク」の字幕監修にも携わる。【URL】http://www.techdoll.jp