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AppleのコーポレートフォントがMyriadからSan Franciscoへ

著者: 氷川りそな

AppleのコーポレートフォントがMyriadからSan Franciscoへ

アップルのコーポレートフォントは、時代とともに変化してきた。ここ数年でまた移行期間が始まっている。新たに採用された書体「サンフランシスコ(San Francisco)」はイメージの刷新という役割だけでなく、ユニバーサルデザインという新たな付加価値も持っており、アップルにとって重要な存在になるはずだ。

アップルらしさを背負う書体

企業のブランドイメージを左右するもので、重要な位置を占めるのがCI(コーポレートアイデンティティ)だ。CIとは、企業文化を構築し、その企業「らしさ」を確立することで存在価値を高めていく戦略のことである。ロゴやコーポレートカラーは企業の独自性を視覚化し、わかりやすく伝える役割を担っており、CI計画を推進するために欠かせない存在だ。たとえば、アップルといえば誰しもが思い浮かぶ「?」のロゴマーク。このロゴがあるだけで、「アップル製品であること」と、そこにある「アップルらしさ」が見た者に伝わるようになっている。

このロゴと同じように、CIに一役買っているのが書体、つまりコーポレートフォントだ。アップルは創業以来、定期的にコーポレートフォントの見直しを図ってきた。創業時は「モッター・テクトゥーラ(Motter Tektura)」という書体が使われていたが、1984年に初代Macintoshが発売された頃から「アップル・ギャラモン(Apple Garamond)」という市販のローマン体の書体をベースにカスタマイズされたものを使用。この書体は初代iMacなどでも大々的に使われ、OS Xがリリースされる2001年まで使われた息の長いものだった。

その後、2002年頃から徐々にゴシック体の「ミリアド(Myriad)」へと移行していく。これもオリジナルはアドビの製品だが、別注でミリアド・アップル(Myriad Apple)を製作。さらに、2008年にMacBookエアが登場すると、その軽さを表現するためか、線の細いウェイトを備えたミリアド・セット(Myriad Set)へと、マイナーアップデートが行われた。2013年のiOS 7でフラットデザインが全面に押し出されるや否や、そのバリエーションはさらに増え、ミリアド・セット・プロ(Myriad Set Pro)へと進化していった。

時代に合わせた新たな進化

そして現在、今度はディスプレイの小さなアップルウォッチ向けに自社でデザインを起こした、ゴシック系のオリジナル書体「サンフランシスコ」を新たにコーポレートフォントとして採用し、ユーザが目にするすべてのアップル製品に使われるイメージを統一する動きに出ている。この新書体のデザインが持つ雰囲気は、前世代のミリアドとよく似ているため、ギャラモンからの転換を図った前世代と比べるとイメージとしてのインパクトは薄いかもしれない。だが、このサンフランシスコにはアップルオリジナルという、今までにない強みがある。

以前の書体はカスタマイズされていたとはいえ、ライセンスはアップルになく、WEBサイトで使う場合には、必ずグラフィックスに変換されて用いられた。しかし、サンフランシスコはこの問題がクリアできるため、サイトでは「SFプロ(SF Pro、SFはサンフランシスコの略称)」のWEBフォントを配置して利用できるようになった。結果、テキストのコピー&ペーストはもちろん拡大/縮小も可能となり、さらには異なるプラットフォームでも同じレイアウトで見えるなど、数多くのメリットがもたらされた。書体そのものが、「ユニバーサルデザイン」という機能性を備えるようになったのだ。

今後アップルは、サンフランシスコを改良した「SFハロー(SF Hello)」という書体も準備していくようだ。これはSFプロにはなかったウェイトを補完しているだけでなく、漢字やかな文字、韓国語、アラビア語といった多言語対応になる予定だという。従来はリュウミンやアクシス(AXIS)といった他社製の書体と組み合わせ、そのうえサイズ調整する必要のあった日本語が、英語と同じ単独の書体で完結するようになるというのは、過去にも例を見ない画期的なことだ。

デザインを大切するアップルの長年の懸案事項でもあった書体問題が、このコーポレートフォントのアップデートで解決へと近づくのは間違いない。ここから次世代のあるべき「ユニバーサル」へ、大きく広がりを見せてくれるようになってくれることを願ってやまない。

●Appleコーポレートフォントの変遷

今年1月に、書体変更されたアップル公式WEBサイト(写真は米アップルのもの)。ディスプレイの小さなアップルウォッチ向けに作成されたサンフランシスコは、可読性の高さが特長の1つになっている。