3四半期連続の減収減益、iPhoneの減速と、アップルにとって厳しい時期が続いていたが、10~12月期に1年ぶりとなる増収を達成。2016年のホリデーシーズンの成功を示す決算となったが、それだけではない。今回の数字と決算発表のカンファレンスコールには、アップルの今後を予測するさまざまなヒントが含まれていた。
記録づくしの決算
2016年のホリデーシーズンにあたるアップルの会計年度の第一四半期(10~12月)決算の結果を受けて、アナリストの多くが12カ月の想定株価レンジを大きく引き上げた。記録的な四半期業績、屋台骨であるiPhoneが減速から成長に転じた短期的な要素に加えて、長期的にもアップルの事業全体で安定した成長を期待できる材料が示された点が評価された。
簡単に決算を振り返ると、売上高は過去最高の784億ドル。前年同期比3パーセント増という1年ぶりの増収となった。ただし、純利益は179億ドルで、3パーセントの減益。特許訴訟に関する5億4800万ドルの支払い、研究開発費の上昇が利益を圧迫した。製品別では、iPhoneとアップルウォッチが販売数と売上高の記録を更新、Macとサービスの売上高が過去最高だった。
iPhoneは、発熱・発火問題でサムスンがギャラクシーノート7の販売を中止するという敵失も追い風となったが、iPhone 7プラスが好調だった。5.5インチという大きな画面やデュアルレンズカメラなど、ハイエンドな機能と体験を求めるユーザが増え、平均販売価格が6~9月期の619ドルから12月期は695ドルに上昇した。
Macの販売台数は前年同期比1パーセント増にとどまり、需要過多を解消できずに数字を伸ばせなかった。iPhone 7シリーズやエアポッズ(AirPods)、iPadも同様の問題に直面し、需要予測の見直しが課題として残された。
アップルウォッチは販売台数が公開されていない。ただ、さまざまな調査でスマートウォッチ市場における一人勝ちが指摘されている。実際、ホリデーシーズンは需要に供給が追いつかなったという。
12月期の売上高全体に占めるiPhoneの割合は69パーセント。伸びたとはいえ、iPhoneの販売台数の伸びは5パーセントであり、かつての爆発的な成長は今後望めない。売上の大半をiPhoneに依存する状態は楽観視できるものではない。しかし、見方を変えると、今回の決算からはiPhone依存にとらわれるアップルとは別のアップルが見えてくる。
2017年第一四半期決算
2016年10~12月期におけるiPhone、iPad、Mac、サービス、その他の製品の売上高(単位:百万)と販売台数(単位:千台)、そして前年同期からの増減。iPhoneに1年ぶりの伸び、iPadの減速は続くが、「90日単位ではなく、長期的には楽観視している」とクック氏は語る。
売上高全体における主要製品の比率
2016年10~12月の売上高全体における主要製品の比率。iPhoneが69パーセントと依然として大部分を占めるが、パイのサイズが大きいため、9パーセントのサービスやMacでももう少しでフォーチュン100に食い込むような規模である。
サービス事業の伸び
好調な数字が並ぶ12月期の中で、特にサービスの伸びが突出していた。前年同期比18パーセント増で売上高72億ドル。ここ数年サービスは二桁の伸びを続けてきたが、iPhone以外のハードウェア製品がなかなか超えられずにいる70億ドルのラインをついに突破した。
アップルは歴史的にデバイスの企業であり、サービスは付加的な事業と見なされ、アナリストなどから軽視されがちである。だが、今日のサービス事業の売上高は、デジタルサービス分野で成長株のネットフリックス(Netflix)の2.9倍の規模だ。このまま成長すると、今年中に「フォーチュン100(Fortune 100)」にランクインできる規模になる。それだけでも十分に巨大だが、カンファレンスコールにおいてティム・クック氏(CEO)はサービス事業の目標を「これから4年で規模を倍増させる」とした。売上高なら年間500億ドル以上になる。実現したら現在のディズニーに肩を並べる。
計算上では19パーセント前後、つまり2016年の成長ペースを保つと達成は可能である。しかし、4年に渡ってサービスがそれだけの伸びを維持できるのだろうか。
それが現実的な目標である根拠がインストールベース、つまり現在使用されているデバイスの伸びである。具体的な数字は明きらかにされなかったが、iPhoneの販売台数の伸びが5パーセントであったのに対して、インストールベースは良好な二桁の伸び。これはiPhoneだけではなく、アップルのデバイス全体でも二桁の伸びだった。
ここ数年でサービス事業が急成長しているのはサービスの拡充も大きな理由ではあるが、今も良好に拡大している巨大なインストールベースが土台になっている。アップルデバイスのユーザが、アップルのサービスを使い始める。iPhoneとiPadでは同じアプリを使用でき、同じアップル製品の間ならアイクラウドで情報やデータを同期できる。サービスが生み出す製品連係によって、サービスを使い始めたユーザが別のアップル製品を選び、また新しい製品に買い替えるときもアップル製品を選ぶ。サービスの拡大が、さらにインストールベースの増加を後押しするという良循環が起きている。
もう1つ、iPhoneが97パーセント、iPhone 7プラスは99パーセント、iPadプロが96パーセントなど、アップルは製品に満足するユーザの高い比率を維持している。アップルは基調講演でもよくユーザの高い満足度をアピールするが、その数字にこだわるのは、アップル製品への定着を推し量るバロメータになるからだ。
インストールベースの伸びと高いユーザ満足度、そしてサービスの伸びが揃っている状態は、アップルのエコシステムが豊かに繁茂している状態を示す。それらの数字が良好な決算だった。
iPhoneの年間販売台数の推移 (単位:百万)
2008年からこれまでのiPhoneの年間販売台数の推移。2016年にはじめて前年比減となったが、10~12月期はiPhone 7シリーズが好調で過去最高を記録しており、2017年1~3月期の数字が注目される。
独自コンテンツの可能性
カンファレンスコールでクック氏は、自身がホームキット(HomeKit)対応製品とSiriを実際にどのように使いこなしているかを紹介した。同氏は超朝型として知られるが、まだ暗い時間に起きても「おはよう」とSiriに話しかけるだけで照明が点き、コーヒーが用意される。出かけるときもワンタップで、消灯、室温調節、施錠を完了できる。アップルのエコシステムによる快適なホームオートメーションは、すでに現実のものである。
アップルは着実に拡大している。ユーザの自宅のあらゆる場所で、または出かけたときに、フィットネス、そして仕事にも「人々が時間を過ごす分野に私たちのエコシステムは広がっている」とクック氏は述べた。
地域別では、中国を除くすべての地域で売上高の記録を更新した。大きく減速した中国も、中華人民共和国だけなら、記録的な数字だった一昨年とほぼ同じ売上高に達しており、為替の影響を除くと伸びている。こうしたグローバル規模の成長に貢献しているのがアップストアである。発展途上国の開発者にも先進国市場向けにアプリを提供するチャンスをもたらし、そうしたビジネスチャンスの創出が発展途上国におけるアップル製品の成長につながっている。ルカ・マエストリ氏(CFO)は「アップストアは真のグローバルプラットフォームになった」と述べていた。12月期はアンドロイドからのスイッチャーが過去最高で、中国メーカーが成長している中国もスイッチャーの多い市場の1つだった。
また、保有現金額は過去最高の2461億ドルになった。そのうちの94%は米国外の海外留保である。合併・買収に踏み出す可能性については「規模ではなく、戦略的な価値を重んじる」という従来からの姿勢に変わりはない。ただし、今回はオリジナルコンテンツの可能性にクック氏が触れた。今はアップルミュージックのオリジナルコンテンツ提供を通じて慎重に試している状況だが、メディア産業を変えるという大きな目標を見据えた試みでもある。第4世代アップルTVでは、ケーブルTV産業のバンドルビジネスに代表されるTVコンテンツへのアクセスしにくさの解消に乗り出した。買収には言及しなかったが、戦略に適うならメディア企業の買収もあり得ると解釈できる。サービスの成長、メディア産業の問題を指摘するクック氏のコメントから、2003年にiTunesミュージックストアで音楽産業を変えたようなサービスを絡めた変革への期待が高まっている。
カウンターポイント・リサーチの調査によると、ギャラクシーノート7のバッテリ問題で2016年後半にサムスンが米国市場などで苦戦し、400ドル以上の高価格帯でアップルとの差が大きく広がった。【URL】http://www.counterpointresearch.com/press_release/applepulsedec2016/