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スモールビジネスに革命を起こすSquareの進化と真価

著者: 松村太郎

スモールビジネスに革命を起こすSquareの進化と真価

モバイル決済企業のスクエア(Square)はツイッターの共同創業者としても知られるジャック・ドーシーによって2010年からサービスを開始、iPhoneやiPadなどに対応したクレジットカード決済用の小型リーダのリリースを皮切りに、モバイル決済の世界に革命を起こしてきた。そして今、同社のビジネスが向かう先は新たな地平へと達する。

モバイル決済の次へ

「スクエア・リーダ(Square Reader)」は、iPhoneやiPadなどのモバイルデバイスに接続するだけでクレジットカード決済が可能なIC対応カードリーダだ。月額費用0円、決済手数料3・25%、最短翌営業日の入金といった特徴は、クレジットカード決済端末を導入することが難しかった中小企業や個人事業主にとって革新的で、POSレジアプリ「スクエアPOS(Square POS)」も無料で利用できることから、カフェやデリバリー、イベント、サロン、ホテル、小売等、さまざまなビジネスに導入されている。国内ではそうしたスモールビジネス向けのモバイル決済の面が注目されるが、同社の創業者はツイッターを起業したことでも知られる、ジャック・ドーシー氏。米国やカナダにおいては、モバイル決済にとどまらない先進的なサービスを次々と始めている。

現在のスクエアのビジネスの本質を一言でいうなら、それは「その先へと拡がるスモールビジネスの合理的な支援」だ。スクエアではモバイル決済のみならず、それを窓口としてビジネス分析や従業員管理、マーケティングメール、顧客管理、在庫管理、資金融資といったエリアにまでそのサービス内容を拡大している。

スクエアの地元、サンフランシスコに拠点を構えるコーヒー焙煎所、レッキンボールロースターもスクエア製品を導入してビジネスを行う事業主の1つだ。「サードウェーブコーヒー」の生みの親と、バリスタチャンピオンが起ち上げた伝説的なコーヒー焙煎所。その共同創業者でバリスタを務めるニコラス・チョー氏に、同社のビジネスとスクエアの関係について聞いた。

ICカードの決済にも対応したスクエアリーダ。iPhone、iPad、アンドロイド端末に対応し、価格は4980円。月額手数料やキャンセル料は一切なし。スクエアPOSレジアプリも無料で利用できる。【URL】square.co.jp

スクエアリーダによる決済を基盤に、スクエアではさまざまな側面からスモールビジネスを支援するエコシステムを造り上げている。決済サービス、ファイナンシャルサービス、マーケティングサービスの各ツールの多くは、スクエアアカウントさえ持っていれば無料で利用できる。上記以外にも、オリジナルのプリペイド式カードを作れる「ギフトカード」や、従業員の出退勤管理を行える「従業員管理」、店舗管理を行える「店舗管理」などもある。

レッキンボールへの導入

チョー氏は2002年にワシントンDCで起ち上げたカフェチェーン「マーキーコーヒー」でコーヒービジネスのキャリアをスタートさせた。ただ、スクエアとの出会いは、現在のレッキンボールを始める前に遡る。

「店舗には旧来のレジスターとクレジットカード決済端末を導入していました。しかし、どちらも中小企業にとっては不向きでした。クレジットカード決済端末は決済会社からのレンタルで、驚くような利用料が要求されます。また一定期間が過ぎると買い取るよう要求され、そこでさらに安くないコストが発生します。レジスターも同様でした。中小企業にとって、コスト管理や資金計画は、ビジネスを継続するうえで非常に重要です。旧来のレジスターと決済端末は急なコストの要因となっていましたが、我々のようなカフェの店舗には必ず必要なもので、受け入れざるを得なかったのです」

チョー氏がスクエアのカードリーダとPOSアプリを試したのは、マーキーコーヒーがイベントや出張店舗で営業するときだった。たった10ドルのカードリーダをスマートフォンに差し込むだけでカード決済に対応できる。そして2・75%の手数料(米国の場合)を支払うだけで、それ以上のコストは必要ない。

「スクエアには、良い意味で驚かされました。そして、サンフランシスコのレッキンボールカフェを起ち上げる際にも、必ず利用しようと考えました。現在、市内2つのどちらの店にも導入しています」

サンフランシスコでもっとも尊敬されるコーヒー焙煎所、レッキンボール。カフェは、高級住宅地とショッピングが共存する上品な街、サンフランシスコのユニオンストリートにある。レッキンボールでは、エスプレッソを用いたラテが楽しめるほか、ドリップは目の前で1杯ずつ提供される。

レッキンボールに導入されているスクエアスタンド。レジで接客をするだけで、ビジネス分析のデータや資金調達などを実現する仕組みは、経営上のストレスを軽減してくれる。

データと最適化の世界へ

スクエア製品とカフェ経営の親和性について、チョー氏は次のように話す。

「スクエアリーダ&POSアプリと、カフェの親和性は実に高いと思います。商品が決まっているため、画面をタップしてカードか現金を受け取るだけで決済を済ませることができます。従業員も全員スマートフォンを日々使っているため、使い方を覚える必要もありません。そして何より、壊れないうえ、アプリは日々向上していきます」

また、こうした効率化や最適化は、店頭だけに留まるものではない。

「スクエアPOSには売上データが記録されていきます。そして、無料の『スクエアアナリティクス(Square Analytics)』を活用することでデータ分析が行え、店舗経営に活かすことができます。たとえば2016年にもっとも売れた商品は何だったか? 最近人気が高まってきた商品は何か? アイスコーヒーの需要が高まるのは何月だったか?など、商品の人気や季節変動がつぶさにわかるのです。

また、1週間や1日にフォーカスしたときに何曜日のどの時間帯が忙しいかもわかり、店舗に勤務するスタッフの人数の最適化が行えます。たとえば、1時間に10人の顧客が来るなら1人の従業員でもよいですが、15人以上になると回らないため、スタッフを配置する、という判断ができます」

レッキンボールでは、スクエア製品の導入によって、人気商品を開発したり、混雑する時間帯に合わせて従業員を拡充するなど、サービス向上と効率化を両立させる戦略を立てることができるようになった。

レッキンボール共同創業者でバリスタを務めるニコラス・チョー氏。もう1人の共同創業者であるトリッシュ・ロスギブ氏は、「サードウェーブコーヒー」という言葉を定義し、コーヒー豆の品質管理の基準を作るなど、米国のコーヒー業界に多大な貢献をもたらした人物だ。

実績を信頼に変える

チョー氏が利用しているもう1つのサービスは、「スクエア・キャピタル(Square Capital)」だ。

これはいわゆるビジネスローンで、スクエアを経由するカード決済額から、資金調達額に応じたパーセンテージが差し引かれて返済が進む。中小企業は、ビジネス拡大のための投資や運転資金などに活用しており、レッキンボールではすでに3つのローンを利用したという。その資金はカフェの設立や焙煎所の設備投資などに充てた。

「スクエアキャピタルは中小企業、特に米国では移民にとって非常に重要な、新しい資金調達の仕組みです。銀行を介したビジネスローンや投資では個人の信用力や人脈が重要で、いくらビジネスに見込みがあっても、一定期間順調に成長していても資金が得られるとは限りません。

しかし、スクエアキャピタルでは、スクエアを介したカード決済の履歴を実績として評価し、貸付額や利率のオファーを受け取れ、最短1日で資金確保できます。これまで、7000ドルを明日すぐに調達することは不可能でした。しかも、カード決済で自動的に返済されていきますからローン返済のストレスを感じることもありません。ビジネスを続けるうえでのストレスの半分以上を、お金の返済が占めますから、これは有り難いことです」

チョー氏は、スクエアキャピタルがあらゆる資金調達に向いているわけではないと語る。たとえば、新しいカフェを作る際には、投資家を見つけるなど、別の調達方法のほうがふさわしい。しかし、日常的な資金調達を実現するうえでは、「ただただ、感謝しかない」と話す。

スクエアが成し遂げたこと

チョー氏自身、ITテクノロジーへの理解は深い。ビジネスを行ううえで数値化&見える化を行える部分に関してはテクノロジーは積極的に利用すべきだと考える。その一方で、コーヒーは脳で理解するようなものではなく、感覚に行き渡るような興奮や発見を楽しむものだと語る。

「顧客には、カフェに来てもらって、コーヒーを直感的に楽しんでもらいたい。そして我々も最大限の興奮を提供することに全力を傾けたい。スクエア製品を導入することでオペレーションが簡略化され、本来の目的に集中できました。スクエア製品は、顧客と我々の関係をシンプルにしてくれる、正しいテクノロジーの姿を見せてくれています」

2017年はiPhone10周年の年。スクエアは、iPhoneによるモバイル革命とスモールビジネスを結びつけた非常に重要なサービスだ。個人や小規模の店舗に対して、カード決済を可能にすることによる機会損失を防ぐとともに、POSやビジネス分析、労務管理といった効率化や拡大に欠かせない機能を提供し、個人的なつながりや信用が必要だった金融にも進出している。驚かされたのは、移民であり個人や家族のつながりがない人にとって、スクエアは、ビジネスを成功させるための糸口になっている点だ。これらのサービスを使うために必要なことは、人脈作りではなく、iPhoneでスクエアによるカード決済を受け付け始めること、ただ1つなのだ。

モバイルは人々の移動や通信に自由を与えてきたが、スクエアによってスモールビジネスへも自由と平等性を与えることができるようになった。スクエアは、すでになくてはならないサービスとして認知されているし、今後も新しいビジネスの成長を、見守り支え続けていくことになるはずだ。