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『スティーブ・ジョブズ』書評(後編)

著者: 徳本昌大

『スティーブ・ジョブズ』書評(後編)

第19回 強い会社を作るには経営者も、社員も変わり続ける必要がある

創造的な新陳代謝が会社を強くする

元アップルCEOスティーブ・ジョブズの足跡を、新しい資料と観点から再構築した『スティーブ・ジョブズ』書評の後編。今回は、ジョブズが天才経営者に進化した理由について触れたいと思います。本書に記されたジョブズの成長物語は、最高の経営を実現するための教科書といっても過言ではありません。成功を目指す多くの経営者に読んでもらいたい1冊です。

現在、マーケティングの世界では「顧客志向」という言葉が取り沙汰されていますが、そうした言葉が生まれるずっと前から、ジョブズの姿勢は一貫して、顧客を喜ばせる目的に向かっていました。その目的のためのジョブズの忍耐力、統制、ビジョンが新たな道筋にアップルを導いたと、著者のブレント・シュレンダーは指摘しています。

アップルは世の中のプロダクトやサービスから多くのことを学び、社員の専門知識や体験を組み合わせ、最終的にジョブズがそれを統合することで、斬新な製品やサービスを作り上げていきました。そうした「創造的な新陳代謝」が活性化したのは、特にiPodの成功以後。家電という位置付けで、これまでのコンピュータよりも新製品投入のサイクルを短くする必要があったからです。アップルがアップル自身を超えるためジョブズがしたことは、社員のアイデアやスキルを上手に引き出すことでした。それに触発されるように、社員たちは絶えず新しい技術やマーケットについて学んでいきます。この探究心、チャレンジ精神こそが、アップルの強さの源泉です。こうした新陳代謝を促進する改革が、未来のアップルを強くしたのです。

その後も、ジョブズは新しいチャレンジを仕掛けていきます。それは「買い物をする」体験にも及びました。理想の店舗を作るため、米国有数の小売企業ターゲット社からロン・ジョンソンというプロを引き抜きます。ここから、Macを上質なブランドショップで売るという、途方もないアイデアが現実になっていきました。

その中で、ささやかな逸話も生まれました。このロン・ジョンソンという人物、プロジェクトの途中である重大な間違いに気づき、ジョブズに報告します。以前であれば、怒りを爆発させていたはずのジョブズですが、ここで彼はピクサーで学んだことを思い出します。「いいものができるまでやり直す」という考えによって、ジョンソンとともに成功を勝ち取るのです。自分のプロダクトを愛する男は、アップルストアを一等地に作り、見せ方を工夫することで、アップルをグッチやエルメスのような一流ブランドに変えてしまいました。ジョブズとチームの力がアップルを強くした最高の事例だと私は思います。

スティーブ・ジョブズ

無謀な男が真のリーダーになるまで(上/下)

ブレント・シュレンダー、リック・テッツェリ著

日本経済新聞出版社/各2160円

2016年9月刊

徳本昌大

iPhoneやソーシャルメディアのビジネス活用を絶えず考える読書ブロガー。複数の広告会社勤務後、コミュニケーションコンサルタントとして独立。現在は、株式会社Ewil Japan、株式会社ビズライト・テクノロジーの取締役としても活動中。

【URL】http://tokumoto.jp/