今、注目を集めるクラウドソーシングとは?
─今回のテーマは「クラウドソーシング」です。企業にとっては新しい業務依頼の仕方、業務を請け負う個人にとっては新しい働き方として、今注目を集めています。そうしたクラウドソーシングを企業が使ううえで発生するメリットやリスクについて、解説をお願いします。
徳本●まずはクラウドソーシングってそもそも何なの?という説明から入ろうか。
中野●一言でいうと、企業が業務を外注する際のマッチングシステム、およびマッチングを行うサービスのことですね。特定のフリーランスの方に外注するのと違って、インターネットを介し不特定多数の人に募集をかけられる点が特徴です。
徳本●ここ数年で一気に市場を拡大したよね。マーケットリーダーといえるのは、この業界の黎明期からサービスを開始しているランサーズやクラウドワークスといったところだろうか。こうした会社は扱う案件もさまざまで、抱えているフリーランサー(クラウドワーカー)も多い。まさにクラウドソーシングの大手といえるね。ほかにも、クラウドソーシングで検索すると、専門分野に特化したところなど本当にたくさんのサービスが見つかるはずだよ。
中野●どんな業務依頼があるのか、実際にクラウドソーシング大手のWEBサイトを見てみると、いろいろな依頼が出ていますね。WEBサイトの制作、アプリの開発、ロゴのデザイン、チラシ作成、データ入力…。
徳本●比較的誰でもできる業務も多いけど、クリエイティブかつ、ちゃんとしたスキルを必要とする業務もけっこう出ているね。
─企業がクラウドソーシングを使う場合、どんな流れで発注すればいいのでしょうか。
徳本●企業もクラウドワーカーも、まずはサービスに登録するところからだね。登録が完了したら企業は仕事の詳細を掲示して、ワーカーからの応募を待つのが一般的な流れだよ。応募が集まったら、その提案の中から最適なものを選んで発注するんだ。
中野●コンペ形式に近いですね。基本的に報酬は発注側がある程度の幅を持たせて設定します。その金額で受けられる人から応募がくるので、価格設定が無茶だと誰からも応募がないなんてこともあるかもしれません。
徳本●発注する相手を決めたら、あとはやりとりして実際に業務を行ってもらい、納品されたら報酬を支払うという流れだね。
─企業としてクラウドソーシングを使うメリットはどこにあるでしょうか。
徳本●まず、仕事を頼める人が見つかるということ自体がメリットだよね。たとえばオウンドメディアを作ったとして、いざライターやフォトグラファーを探そうとしても、出版業界に縁や知識がないとなかなか見つからない。それ以前に、そもそもどうやって探せばいいのかもわからない。そんなとき、クラウドソーシングなら案件に応じて最適な人材と出会えるというわけだ。
中野●自社の業界とはまったく異なる業界の人に出会える方法として、クラウドソーシングは非常にわかりやすく、誰にでも利用できて便利なサービスですね。
徳本●その業務の規模や重要度によっては、業界のしきたりや従来のやり方に乗っ取って発注すべきものもあるだろうね。そういうものには信頼やこれまでの実績といった、目には見えないけれど強力な後ろ盾が存在するから。ただ、そこまで大掛かりな組織や予算を組むほどの案件ではないけれど、自分たちでなんとかなるものでもないという案件もある。そういうときに役立つのがクラウドソーシングなんだ。
中野●契約などの仲介は、マッチングサービスを運営する会社が行うので、報酬の支払いなどでトラブルが起きにくいということも大きいですね。
徳本●仕事が完了して納品してから初めて支払えばいいわけだからね。いわばサービス事業者が代理店の役割を果たしてくれるわけだ。
中野●それから、クラウドソーシングのもう1つのメリットはコストですね。
徳本●そう、専門の会社に発注すると、かなりのコストがかかってしまう。その点、個人で受けてくれるクラウドソーシングなら、比較的コストを抑えることができる。
異業種間のやりとりゆえに生じるコスト感覚のズレが問題
─聞いているとメリットだらけにも思えるのですが、一方でデメリットというのはないのでしょうか。
中野●先ほど「コストを抑えられる」のがメリットだと話しましたが、実はそれがそのままクラウドソーシングを使うことのリスクにもつながります。
徳本●そうだね。コストを抑えたい気持ちはよくわかるんだけど、結局のところ成果物のクオリティはコストに比例するということを忘れてはいけない。異業種の仕事を発注する場合、そのへんの相場感がわからなくて、意図せずして“買い叩き”になってしまうこともあるから注意が必要だ。通常のマーケット感覚でいうと、そうした価格設定も需要と供給のバランスで一定の水準に収まるはずなんだけど…。クラウドソーシングでは不特定多数の人に募集するわけだから、本来ならその業務に見合わない価格でも「やる」と言う人が出てくる。そうした価格で業務を発注できてしまったことを、「コストを下げられた」と勘違いしてしまうんだよね。
中野●実際にクラウドソーシングでは、通常プロに発注すると考えるとありえないほど安価な案件であふれています。記事作成なら1つ数百円は当たり前ですからね。
徳本●コストを下げてしまったツケはいろいろなところに現れるからね。何かそういったトラブル事例はある?
中野●たとえばシステム開発をクラウドソーシングを使って発注した例があります。本来なら数百万円はかかるシステムを、個人に数十万円で発注し、納品して報酬を支払ったのはよかったのですが、使い始めてからしばらくしてバグが出て動かなくなったのです。
徳本●システムあるあるだね。相手が法人なら損害賠償を請求できるかもしれないけど…。
中野●もちろん、相手が個人でも損害賠償を請求することは可能です。ただし、個人からどれだけ賠償金をとれるのかは…高額な請求はなかなか難しいでしょうね。通常、賠償金額は報酬として与えた金額に、その案件がうまくいかなかったことで発生してしまった諸々の損害も加味するので、高額になりがちなんですが。
徳本●それ自体はクラウドソーシングとは関係なく、フリーランサーと仕事をしていると起こりうるトラブルではあるよね。
中野●ええ。ただし、信頼できるフリーランサーに適正な金額を支払って発注するのと、クラウドソーシングで初めて取引する相手に相場よりも大幅に安く発注するのとでは、トラブルになる確率は大きく変わってくるでしょう。
徳本●そうだね。結局、発注する側の「これくらいでしょ」という感覚が相場からズレていることが、トラブルを増やす原因になりうるんだよね。そりゃあ本来1万円かかる仕事を500円で受けたなら、500円分の仕事しかできないよ。
中野●ただ、ライティングやデザイン、イラスト制作などクリエイティブな業務の相場観は、たしかにわかりにくいかなと思います。
徳本●「イラストなんて30分くらいでちゃちゃっと描けるんだから500円で十分でしょ」みたいに思ってしまうのかもね。それでも受ける人はいるから、一見すると需要と供給が合っているように感じてしまうけど、安くできる人には“安くできるだけの事情”があって受けているんだってことを忘れてはいけないね。
中野●トラブルを避けるためにも、クライアント側にはきちんとした相場感を身につけてほしいと思います。
─クラウドソーシングのメリットとリスクがよくわかりました。ではクラウドソーシングを利用してもいい業務と、すべきではない業務にはどんなものがあるでしょうか。
中野●まず個人情報が含まれるものは当然NGですね。流出してしまったら抑えたコスト以上の損害が発生します。
徳本●守秘義務契約を結ぶとはいえ、外に出してはいけない情報を含む業務は発注すべきではないよね。そうなると、事業の核となる業務でクラウドソーシングを使うのは、ちょっとおすすめできないかな。
中野●現状では、成果物のクオリティに差が出やすい業務は発注すべきではないと思います。逆にいうと、誰がやってもある程度差が出にくく、なおかつ人を雇うほどではない業務については、クラウドソーシングで効率化できるのではないでしょうか。
徳本●僕はクラウドソーシングという仕組み自体はすばらしいものだと思っている。ビジネスは今後、どんどんプロジェクト単位になっていくし、プロジェクトに応じて人を募れるマッチングシステムはもっと発展していくべきなんだ。それは働く人にとっても、自分の能力を新しい仕事につなげていくチャンスになる。だからこそ、クラウドソーシングはきちんとした相場観のもとで、企業とプロフェッショナルとの幸せな出会いの場として機能していってもらいたいね。
[みらいチャレンジ] 長年の広告会社勤務でマーケティング畑を歩んできた徳本昌大氏と、IT企業に特化した弁護士・中野秀俊氏が2016年4月に設立。企業経営にまつわるさまざまな課題をノンストップで解決し、「みらい」に「チャレンジ」する起業家・経営者を増やすのが同社のミッションだ。【URL】http://mirai-challenge.com