「今年の大晦日はロマンチックに過ごしたい」
前年の年越しを、アフリカのテントの中で過ごしたヨメと僕の意見は、珍しく合致した。蚊と戦いながらの年越しは、それはそれで面白かったのだが、もう少しムードのある大晦日も夫婦旅には必要なのかもしれない。
ヨーロッパを旅していた僕らは、チェコの首都プラハにやってきた。到着したのは、クリスマスの数日後。1000年続くというプラハの旧市街のはずれに、僕らはアパートを借りた。プラハは素敵なアパートが安く借りられる。これは、ロマンチック大晦日の期待がかかるというものだ。
不揃いの石畳に、曲がりくねった細い路地。そしてその両側に並ぶ、歴史ある建物たち。人もまばらな夜に街を歩いていると、薄暗い街灯も相まって、本当に中世の世界にいるような錯覚に陥ってしまう。プラハの魔法だ。
そしていよいよやってきた、大晦日の日。いまだクリスマスマーケットが残る広場は、新年を待つ人々で賑わっていた。ホットワインを買い暖をとりながら、新年が来るのを待つ。
広場から見える時計塔の、時計の針が12時を指した瞬間、歓声とともに広場を花火が取り囲んだ。360度どの方向を見ても花火が上がっている。聖堂の上にも、時計台の上にも。大盛り上がりの人々は、ホットワインで乾杯し、ハグし合う。僕ら夫婦も、思わずおめでとうと言い合って、乾杯した。花火舞う夜空には、雪もちらつき始めていた。
鈴木陵生(Ryosei Suzuki)
映像作家。2011年より夫婦で世界一周を始める。旅の様子を発信する映像サイト「旅する鈴木」が、平成26年度文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に。2014年11月、DVD&Blu-ray「World TimeLapse」(KADOKAWA)をリリース。 【URL】http://ryoseisuzuki.com