ユーザコミュニティが成長の鍵
Mac、iOSデバイス、アップルTVなどのアップル製品をビジネスの現場で導入・配備・管理するのに最適なソリューションである「キャスパースイート(Casper Suite)」。その製品名が新たに「ジャムフ・プロ(Jamf Pro)」へと変わり、開発元の「ジャムフ・ソフトウェア(Jamf Software)」も社名を「ジャムフ(Jamf)」へと変更した。
アップルもそうだが、ジャムフもユーザコミュニティをきわめて大切にすることで知られる。ジャムフのユーザコミュニティは「ジャムフ・ネイション(Jamf Nation)」と呼ばれ、アップルITのオンラインコミュニティとしては世界最大規模に成長している。このジャムフ・ネイションのメンバーたちが年に一度、ジャムフ主催のカンファレンスに参加する。これが「JNUC(Jamf Nation User Conference)」 で、そこではさまざまな事例紹介や技術セミナー、新製品のプレビューなどが行われる。今年は、ジャムフの本社がある米国ミネアポリス市で開催され、約1200名が参加した。
日本の開発元の場合、このような大規模コミュニティが形成されているケースはきわめて少ない。開発元がユーザに製品情報を一方通行的に流すということがほとんどだ。実際のユーザ事例などもいったん開発元が集約整理し、ユーザに提供される。しかし、JNUCの場合、ユーザ自身がセミナーに登壇し、直接他のユーザに活用事例を伝える。その場で質疑応答をすることもでき、より実践的な知識を共有できるのだ。
これがジャムフ・プロの定評を高めることに大きく貢献している。ユーザがユーザを育てる場にもなっていて、ユーザ全体のリテラシーが上がっていく。そして使いこなせるから導入効果が現れ、効果があるから評判が良くなる。ユーザコミュニティを中心に、このようなポジティブな循環が出来上がっているのだ。
旧キャスパースイートは、製品名がジャムフ・プロに改められた。キッティング作業、セルフサービスによる管理作業を効率化し、管理者の業務負担を大幅軽減することで定評を得ているMDMソリューション。サーバインストール不要の14日間の試用が可能。【URL】https://www.jamf.com/
ミネアポリスで開催されたJNUC。ジャムフ社だけでなく、ユーザも登壇し、さまざまな事例、知識、テクニックを共有する。英語情報にはなるが、JNUCのセッションの様子は、ジャムフのサイトからビデオで見ることができる(https://www.jamf.com/events/jamf-nation-user-conference/2016/sessions/)。
Mac導入で成功したIBM
昨年のJNUCで一際注目を集めたのが、IBMだ。IBMはアップルとの提携以来、Macを本格的に導入し、MacおよびiOSデバイスの管理にジャムフ・プロを活用している。IBMでは、世界中の事業所ですでに9万台のMacを導入済み。さらに週に1300台ペースで新規導入している。実際には、ウィンドウズPCも使われていて、社内ユーザが好きなデバイスを選べるCYOD(Choose Your Own Device)方式だが、73%の社員がMacを選び、またIBMもMacを選ぶことを推奨している。
Macを勧める理由は、アップルとの提携、優れたユーザエクスぺリンスによる業務の効率化などもあるが、実は最大の理由はコストなのだという。導入時には、社内ユーザがその機器を使えるようにする作業=キッティングが必要になる。アプリのインストールやアカウント登録作業、セキュリティ環境の整備など、配備する機器が多くなればなるほどキッティングには膨大な人件コストがかかってくる。その点、ジャムフ・プロはアップルのDEP(Device Enrollment Program)に完全対応しているため、開封後電源を投入し、ネットワークに接続した時点で必要なセッティングが自動的に行われ、ジャムフ・プロの管理下に置かれる。いわゆるゼロタッチキッティングが実現できるため、キッティングコストが大幅に削減できる。
また、社内サポートコストも大幅に下がった。Macの場合、UIが洗練され、合理的に設計されているため、操作に迷う状況に直面しても直感を働かすことで、ごく短時間の試行錯誤で自己解決できてしまうことが多い。そのため、サポートに問い合わせをする回数が大幅に減り、サポートコストも軽減できたのだ。
さらに面白いのが、Macの場合、一般的なPCと比べてTCO(IT機器の維持管理に関わるすべてのコスト)が4年間で273ドルから543ドル低いという。というのは、本体の購入価格はほぼ同じであっても、4年後の残存価格はMacのほうが圧倒的に高い。なぜなら、4年間使って下取りに出せば常に最新機種を使い続けながら、機器コストを下げることができるのだ。
専門知識がないからこそ
今年のJNUCでも、さまざまなジャムフ・プロの活用事例が紹介された。たとえば、米国ウィスコンシン州ラクロス学区では9400台のMac、iOSデバイスが使われている。小学生にはiPadが、高校生にはMacBookが配布されている。これらのデバイスをジャムフ・プロを使って管理しているのは専門のエンジニアではなく、教師たち。何か問題が生じてもジャムフ・ネイションを活用することで解決しているという。
さらに教師たちに評判がいいのが、ジャムフ・プロのゼロデイ対応だという。MacOS、iOSがアップデートされた場合、その当日(もしくは前後すぐに)ジャムフ・プロも新バージョンのOSに対応するというものだ。多くのMDM(モバイルデバイス管理)サービスではデバイスのOSがアップデートされると、そのデバイスはMDMの管理下から外れてしまう。MDMが新OSに対応するアップデートが行われれば再び管理下に入るが、その間、リスクにさらされる空白期間が生まれてしまう。企業などで使っている場合は、一定期間新しいOSにアップデートすることを禁止するという人的方法で乗り切ることもできるが、子どもたちに配付し、自由に使ってもらっているデバイスではそうはいかない。好奇心からアップデートをしてしまう子どもも出てくるだろう。ゼロデイ対応であれば、このような管理の空白期間を作らずにすむのだ。
また、カリフォルニア大学サンディエゴ校のヤコブズメディカルセンターでは、各病室にiPadとアップルTVを配備して、その管理にジャムフ・プロを使っている。患者はベッドに寝たまま自分のカルテを見たり、iPadから病室のカーテンの開閉・照明などを制御できるアプリを使ったり、電子書籍、音楽配信、映像配信のサービスを利用することもできる。ジャムフ・プロには「セルフサービス」と呼ばれる機能があり、これを利用することで、組織内のアプリストアを持つことができ、アプリだけでなく、構成プロファイルやプリンタ設定、Macのメンテナンス設定などを自動で配付することができる。つまり、患者にiPadを貸し出し、電源を入れたとたんにアップルIDの入力必要なく許可したアプリだけが即時にインストールされ、ネットワークやセキュリティ設定、運用ポリシーが施されたうえで、すぐに患者に使ってもらえる。また、患者が退院するときはリモートワイプをかけて初期状態に戻し、次の患者へとスムースに手渡せる。ヤコブズメディカルセンターでは、患者の住環境を快適なものにすることで、患者自身の自然治癒力を高めたり、また病気と闘う意志を促し、治療効果を高めようとしている。そうした環境においても、ジャムフ・プロの先進的な機能が活きているのだ。
ユーザコミュニティも品質
JNUCで、共有される情報はこのような事例だけではない。今年のカンファレンスでも新バージョンに関する詳細なアップデート情報が公開され、どのように具体的に設定・活用していけばいいのか、などの情報交換が行われた。
ジャムフ・プロのユーザの多くは、企業の中での情報システム担当者である。高度な専門知識が必要とされる職種であるだけに、社内で新しい情報に触れる機会は多くはないはずで、積極的にセミナーに出席したり、書籍、WEBの専門記事を読んで、自分の知識レベルを維持していることと思う。しかし、JNUCのような会議に参加すれば、ジャムフの専門家ならびにユーザ同士でのコミュケーションを通してずっと短時間で濃い情報に触れることができ、すぐに活かすことができるようになる。エンタープライズ管理といった複雑で一筋縄ではいかないソリューションの場合、開発元がこのようなコミュニティを育てているかも、「品質」の重要な要素の1つといえそうだ。