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『スティーブ・ジョブズ 無謀な男が真のリーダーになるまで』書評(前編)

著者: 徳本昌大

『スティーブ・ジョブズ 無謀な男が真のリーダーになるまで』書評(前編)

第18回 成功の鍵は陽の当たらない時代に隠されている

ジョブズの人生を変えた友との出会い

今月と来月は、2回に分けて同じ書籍の書評をお届けしようと思います。なにせ我らがスティーブ・ジョブズ関連書の最新刊。しかも上下巻。とはいえソフトカバーで、インタビュー中心の読みやすい構成になっていますので、気軽な気持ちで読み始めてほしい本です。

数あるジョブズ本の例に漏れず、本書からは仕事そして人生に必要な多くのことを学べます。著者はジョブズの人生を切り口にしながら、成功者の条件と成長の仕方を本書で整理しているのです。本書の特徴は、今まであまり語られなかったアップル追放時代のジョブズに焦点を当てているところ。このときのジョブズの交渉力と行動力はパワフルで、アップル復帰後の成功の原動力になりました。

この時代の特筆すべきエピソードとして挙げられるのが、ピクサーのジョン・ラセターとの友情です。これが、ジョブズ復活のきっかけの1つだったのかもしれません。当初はあまりピクサーの価値を理解していなかったジョブズも、ラセターの才能、そしてコンテンツの可能性に気づき、自分を変えていきます。ジョブズはピクサー作品の価値を理解し、「ちゃんとしたものを作れば、その作品は永遠に残るんだ」という名言を残します。コンピュータには3年から5年という寿命がありますが、映画などのコンテンツには寿命がありません。

ジョブズはコンテンツの可能性を信じて、持ち前の行動力で動き始めます。彼は自社で映画を制作できるだけの資金を調達して、ディズニーのパートナーになろうとします。自分の才能を信じすぎて失敗した天才が、ラセターの力で生まれ変わったのです。そのラセターもジョブズの交渉力によって、自分たちをメジャーな存在にしていきます。ピクサーのIPO(新規公開株)投資に成功したりディズニーとの興行収入の条件を結び直すなど、ピクサーが活躍するための基盤はこうして固まりました。2人はともに強みを掛け合わせることで、ピクサーを強い組織に変えていったのです。

また、ラセターのチーム統率力が、ジョブズのその後にも影響を及ぼしています。ピクサーチームが団結して制作に当たっている様子を見たり、一緒に楽しく働いている様子に感化され、ジョブズはチームの統率力を学びます。アップルに復帰してから、ジョブズは優秀なプロフェッショナルを集め、彼らに仕事を任せることで、アップルを再生するのです。

実は、その頃集めたメンバーが今のアップルを牽引しています。カリスマ亡きあと、アップルが強い会社で生き残っているのも、ラセターとの出会いによるものなのかもしれません。

スティーブ・ジョブズ

無謀な男が真のリーダーになるまで(上/下)

ブレント・シュレンダー、リック・テッツェリ著

日本経済新聞出版社/各2160円

2016年9月刊

徳本昌大

iPhoneやソーシャルメディアのビジネス活用を絶えず考える読書ブロガー。複数の広告会社勤務後、コミュニケーションコンサルタントとして独立。現在は、株式会社Ewil Japan、株式会社ビズライト・テクノロジーの取締役としても活動中。

【URL】http://tokumoto.jp/