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Mac App Storeでアプリの無料体験が可能に!?

著者: 山下洋一

Mac App Storeでアプリの無料体験が可能に!?

2つのストアの長所を融合

アップルのアップストアには、アプリを無料体験する仕組みが組み込まれていない。また、アプリがメジャーバージョンアップになったときに、既存ユーザが割引き価格で新バージョンにアップグレードできる仕組みもない。アップルはシンプルな体験を重視しており、同ストアでは簡単にアプリを入手でき、スムースに最新版へアップデートできる。一方で、無料体験など機能を増やすことには慎重である。

PC向けソフトでは当たり前の無料体験やアップグレード割引を求めるユーザは多く、アップストアの規約に従いながら、いかにユーザの要望に応えるかが、同ストアを利用するアプリ開発者の課題の1つになっている。そうした中、オムニ・グループがMac用のアップストアにおいて、これまで有料販売していた図形・描画ツール「オムニグラフ(OmniGraffle)」の無料提供を開始。アプリ内購入を使って無料体験とアップグレード割引も実現、同社はアップルストアで有料アプリを購入する「最善の体験」とアピールしている。

オムニは、プロフェッショナルのニーズも満たすプロダクティビティツールをPC時代から提供し続けている。3~4年のサイクルでメジャーアップグレードを繰り返しながらユーザを増やしていく、PC時代のソフトウェア販売モデルで成功しており、そのため無料体験と有料アップグレードへのこだわりが強い。一方でポストPCへの移行にも積極的で、アップストアでも製品を提供しながら、平行して以前と同様にオムニストアを通じた販売を継続していた。この2つの販売モデルを融合するための試行錯誤を重ねて、たどり着いたのがアップストアのアプリ内購入でのアップグレード販売だ。

2016年10月17日時点で、オムニグラフ7はMac向けのアップストアから無料で入手でき、そのまま2週間はフル機能を使用できる。無料体験期間が過ぎると対応ファイルの表示のみに機能が制限される。ダイヤグラム作成などを継続して使いたい場合は、アプリ内購入で標準版またはプロ版へのアップグレードを購入する。アップストアはMacにインストールされているアプリをチェックするので、そのログに照らし合わせて、オムニグラフ6のユーザにはアップグレード割引(50%オフ)をアプリ内購入で表示する。

この方法なら、新規ユーザは2週間の無料体験でソフトウェアが自分のニーズを満たすか確認でき、既存ユーザは割引価格で新しいメジャーバージョンにアップグレードできる。さらに試用期間が過ぎた無料版がドキュメントビューアとして機能するというおまけ付きだ。まったく同じというわけではないが、アップストアとオムニストアのどちらを使っても、ユーザがアップグレード方法の違いに戸惑うことはないだろう。

無料体験のためにアプリを無料配信に切り替え、アプリ内購入という形で標準版とプロ版を販売するオムニ。アップグレード割引の提供は、熱心なユーザとの関係作りに不可欠と主張する。

この販売方法は多くのユーザから歓迎され、オムニ・グループのケン・ケースCEOはツイッターで全製品への拡大を約束した。オムニのソリューションをアップルが今後も認め続けるかが気になるところだ。

iOSにもプロユースのアプリ

アプリ内購入の活用は斬新な方法ではなく、アップルがシンプルなストア体験を維持しながら開発者が利用できるオプションを少しずつ拡大してきた結果、オムニのようなPC時代からのソフトウェアベンダーのニーズも満たせるようになった。オムニはオムニグラフ7を皮切りに、今後は他のMac用ソフトやiOSアプリも同様の方法で提供・販売するという。

数百円程度のアプリなら、買ってみて期待どおりでなかったとしても諦められるが、高額なアプリを体験せずに購入するのは不安が残る。無料体験の提供が広がれば、ユーザはアップストアで高額なアプリの購入に踏み切りやすくなる。これはiOSの新たな成長につながり得る。

今日のiOSアプリの主流はカジュアルなアプリだが、iPad、そしてiPhoneも最新製品は一昔前のノート型PCに匹敵するような処理性能を備える。そうしたパフォーマンスを活かせる高機能なアプリ、プロユーザのニーズを満たすアプリが増えることで、iPadプロやiPhone 7シリーズのようなデバイスが本領を発揮できるようになる。

オムニのように従来の売り切りモデルで工夫するアプリ開発者もいる一方で、新たな可能性としてサブスクリプションに移行する開発者も増えている。サブスクリプションの自動更新に対して無料体験を認めるなど、アップルも普及に熱心だ。【URL】https://developer.apple.com/app-store/subscriptions/