第16回 賢い消費者にウソは禁物「POM」のバランスが現代のマーケティング
マーケターが消費者を騙せない時代
「消費者が知識豊富な専門家や数々の情報サービスへと完壁にアクセスできる世界、過去のユーザーの意見を一発でずばり確かめられる世界では、製品やサービスのおおよその利用体験を予測するのはずっとラクになる。そう、つまり製品やサービスの『絶対価値』がまるわかりなのだ。」(イタマール・サイモンソン、エマニュエル・ローゼン)
本書を読むと、今の世界では従来のマーケティング手法が通用しなくなっていることがわかります。なぜなら、その対象である消費者=生活者の購買スタンスが変化しているからです。
ソーシャルメディアの普及で、生活者は製品の情報を得やすくなり、購入に際してシビアな判断を下す「賢い消費者」へと変貌しました。賢い消費者は、商品やサービスの本質的な商品価値を購入のたびに見極めようとします。レストランなどのレビューサイトをチェックしてから入店する人の多さを見れば、人々の購買スタンスが10年前とは激変していることがわかるでしょう。テクノロジーの進化がその手の中にある以上、それは自然な流れなのです。
こうした生活者のスタンスを顧みると、企業が発信している情報にもしウソがあれば瞬時に暴かれてしまうということがよくわかります。インターネットを通じてさまざまな評価や価値基準を知ることのできる生活者は、企業のマーケターが発信する情報を店頭やECサイトで一瞬で評価し、製品やサービスの真実を見つけてしまいます。
このようなインターネットの極端な透明性は、 セグメンテーションやポジショニング、ブランドといった、従来のマーケティング手法を大きく揺るがしています。裏を返すと、簡単に商品やサービスの「絶対価値」がわかる時代になったことで、大企業のように立派なブランドがなくても「勝てる企業」が次々に登場してきました。企業が生き残るためには、そのマーケティング手法を時代に合わせて変化させなければなりません。
本書によると、生活者の購入判断は、自分の経験や趣味趣向(P)、他者の情報(O)、マーケターの情報(M)の3つの影響力ミックスで行われているということです。影響力ミックスとは、生活者がPOMの3要素からそれぞれどの程度の割合で影響を受けるかを考えるフレームワーク。その1要素であるマーケターの情報は以前より信じられなくなってきていますが、製品やサービスによってはまだまだ力を発揮している部分もあります。このPOMのバランスを商品によって見極め、その最適解を考えるのが、今のマーケターの大事な仕事なのです。
徳本昌大
iPhoneやソーシャルメディアのビジネス活用を絶えず考える読書ブロガー。複数の広告会社勤務後、コミュニケーションコンサルタントとして独立。現在は、株式会社Ewil Japan、株式会社ビズライト・テクノロジーの取締役としても活動中。
【URL】http://tokumoto.jp/