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株式会社お金のデザイン

著者: 栗原亮

株式会社お金のデザイン

株式会社お金のデザイン

あすかアセットマネジメント代表で投資家の谷家衛さんが創業者として名を連ねる資産運用会社。日本初となるロボアドバイザーによる資産運用サービス「THEO」で注目を集める。【URL】https://www.money-design.com

芸術家を支え続けた弟

「資産運用」と聞くと、機関投資家や富裕層が豊富な資産を元手に運用して利回りを得るという、庶民とは縁遠い世界の話に思われがちだ。もちろん、最近は比較的低額から始められる資産運用サービスも増えてきたが、たとえば世界中の金融商品に分散投資してコストを抑えたETFラップ(上場投資信託)でも500万円~数千万円からのスタート。もっとも低価格帯でも50~100万円からで、手数料が3~4%というのが一般的だ。

そこに「10万円からの資産運用」「手数料は運用報酬の1%のみ」というほかに例をみない驚くべきコンセプトで登場したのが資産運用サービス「テオ(THEO)」。同サービスを運営する、株式会社お金のデザインで最高執行責任者(COO)を務めるのが北澤直さんである。

【PERSON】

COO 北澤直さん

お金のデザイン最高執行責任者、弁護士。慶応義塾大学法学部卒業、ペンシルバニア大学大学院修了(LL.M)。弁護士として6年間、日本とNYで金融・不動産関連の法律業務を手がけ、その後モルガン・スタンレー証券に投資銀行員として6年間在籍し、不動産部門の成長に貢献。2014年より現職。

北澤さんはもともと日本と米国で金融・不動産関連の法律業務を扱う弁護士でもあり、名門投資銀行グループのモルガン・スタンレー証券でグローバルに活躍していたエリートバンカーだ。

大口投資家や企業を相手にする華々しい業務から一転、ベンチャー系フィンテック企業で個人向けの小額資産運用サービスという異例の転身を果たす。そこには、日本で働く若者の未来を変えたいという強い思いがあった。

「多くの人にとって、“お金”の問題は老後や雇用と結びついて不安要素の1つになっています。本来、資産運用はこのお金の不安を軽減する手助けとなり得る金融サービスですが、一般的には手の届かない、何が起きているかもわかりにくいものになっているのが現状です。機関投資家やプライベートバンカー、投資運用会社の人たちは主にセミリタイア層から預かった資産を運用して概ね堅実に利益を上げていますが、実はこれまでは将来に不安を抱えている若い世代向けのサービスがまったくといっていいほどなかったのです」

もちろん、多くの若者は将来の時間はあっても毎日の仕事が忙しく、金銭的にも十分な余裕はない。20代の半数近くは保有資産が500万円以下というデータもある。豊富な元手を武器に長期運用して着実に利益を増やしていくスタイルである従来の資産運用が、彼らを顧客ターゲットとして見なしていなかったというのも、費用対効果を考えれば当然のことといえるだろう。

だが、ITテクノロジーはこうした常識すら覆そうとしている。やはり外資系のソロモン・ブラザーズ・アジア証券(当時)で「伝説のトレーダー」と呼ばれた投資家の谷家衛さんが2013年に日本で初めて「ロボアドバイザーによる資産運用を開始する」と聞いた北澤さんはその将来性を感じ、テオの開発に携わることになった。

「テオというサービス名は、誰もが知っている有名な画家フィンセント・ファン・ゴッホの弟テオドルス・ファン・ゴッホの愛称“テオ”に由来しています。これもよく知られた話ですが、ゴッホはその生涯を通じてほとんど絵を売ることができなかったので、金銭的には大変苦労しました。しかし、それでも数々の名画を描き続けられたのはテオの支援があったからだといわれています。私たちも、さまざまな分野で創造的な活動をする一人一人のテオとして支援していきたいという願いを込め、このような名前にしました」

【PRODUCT】

THEO

【URL】https://theo.blue

10万円から始められる資産運用サービス「テオ」は、現状WEBサービスで提供されている。レスポンシブデザインなのでiPhoneからも利用できる。無料診断で最初に9つの質問に答えるだけで、最適な投資ポートフォリオを提案してくれる。「グロース」「インカム」「インフレヘッジ」などの専門用語の解説もあるほか、過去9年間の投資シミュレーションや未来のリターン予想、エリアごとの構成などがグラフィカルに表示され、初心者でも内容を理解しやすくなっている。

ロボアドバイザーにおまかせ

では、北澤さんが全精力を傾けるテオの「ロボアドバイザー」とはいったいどのようなテクノロジーなのだろうか。その中心になるのは金融工学を応用したアルゴリズムであり、これまで「人間」が対面で行っていた資産運用や投資先となる金融商品の組み合わせ(ポートフォリオ)の選択、運用のアドバイスなどを、すべて自動化してくれる。これは現在フィンテックでももっとも注目されている分野である。

「金融工学に基づくアルゴリズムの開発は、京都大学大学院の加藤康之教授監修のもと進められました。投資をする人には将来的なリスクをどう評価するかというさまざまなニーズがありますが、これに人が対応していると数をこなせないだけでなく、主観が介在してしまうためアドバイスが人によって異なってしまいます。このリスク評価とアドバイスをアルゴリズムで置き換えることで自動化したのが“ロボアドバイザー”です。実際に過去数年の運用シミュレーションでは、人間がアドバイスしたものの平均値よりも優秀だという結果も出ています」

この診断シミュレーションは誰でも無料で試せるので、まずは一度MacやiPhoneでテオのサイトに訪れてみるといいだろう。最初に年齢や資産運用の経験、リスクに対する考え方など9つの質問に順番に答えていくと世界中の株や国債、通貨や不動産など約6000のETFの中からその人のタイプに合わせて銘柄を30~40本程度組み合わせて選び出してくれる。これにかかる時間はわずか2分程度だ。

このロボアドバイザーが提案してくれる資産運用のポートフォリオはグロース(株式中心)・インカム(債権中心)・インフレヘッジ(通貨・不動産など実物資産中心)というニーズごとに合わせた比率で円グラフ化されたり、投資先の地域的分散の比率や、2007年のリーマンショック以降過去9年間と未来の運用シミュレーションが表示されるなど見ているだけでも非常に興味深い。

この試算結果はタイプによって異なるが、平均利回りは約3~8%程度で、グローバル分散投資しているだけあって世界の経済成長率とおおむね同調する傾向にあり、極端に資産を損なう危険性は低めだ。

資産を2倍、3倍にするようなハイリスク・ハイリターンなデイトレードやFXとは対照的に、5年、10年といった長期的な視点でじっくりと見守るタイプの運用だということをよく理解しておきたい。元本保証の銀行預金に比べて下振れのリスクはあるとはいえ、少なくとも投資初心者にとってはマイナス金利時代の定期預金よりも魅力的な選択肢に感じられるのではないだろうか。

「非常に専門的な知識を用いた運用を行っていますが、必ずしも投資経験が豊富な方だけが対象ではないのでユーザ視点に立ってサービスを作っています。たとえば、診断シミュレーションに用いている質問項目は日証協(日本証券業協会)のガイドラインや法律に基づいて、ポイントとなる要素だけを抽出して構成しています。わかりやすさを重視したというのもありますが、誰も読まないような長文の免責事項などをリンクで表示しても、それはユーザに対して不誠実であると私たちは考えたからです」

“たかがお金、されどお金。人生を選ぶシーンで必要に迫られて動くのか、自分でコントロールできる自由を持つのかは大きな違いです”

クリエイティブに集中できる

ロボアドバイザーに提案されたポートフォリオの内容に納得できたら、指定の口座に投資したい金額を入金すると運用がすぐに開始される。基本的にあとはすべてロボアドバイザーにお任せだ。

もちろん、ポートフォリオの組み替えも各資産の値動きに応じて毎月自動で行われ(リバランス)、投資した人のリスク許容度や投資目的、資産状況の変化などに合わせた変更(リアロケーション)も定期的に実施される。

基本的にユーザは毎日の値動きに一喜一憂することなく、ときどき運用状況を画面でチェックするだけだ。世界の金融商品の値動きに影響しそうなニュースなども配信されてくるので、世界経済の動きに目を向ける副次的な効果もあるだろう。変更・解約は、365日24時間いつでもオンラインで行えるので心配する必要がない。

そして、ロボアドバイザーのもう1つの大きなメリットが、徹底的なコスト削減による手数料の安さである。ユーザが支払う必要があるのは預かり資産の年率1.0%(税抜)のみというシンプルさ。通常の資産運用では報酬自体の比率が数%以上であったり取引手数料が別途発生したりするのを考えると、とても良心的な仕組みだろう。

「WEBサービスだから実現できたともいえますが、もちろん取引にはさまざまな経費が発生しています。ですが、むしろ重要なのは大切なお金を預かる私たちとお客さんの“信頼関係”だと考えています。主に手数料収入を目的としたビジネスモデルだとお客さんと利益相反が起こってしまいますが、一定の信託報酬だけを得るという仕組みでは運用実績を上げることに注力しますので、お互いの利益が一致するのです。また、アルゴリズムで動くので証券会社の意向に左右されることもありません」

そして利用者にとって重要なのは、いったん預けたお金のことは忘れていても構わないということだ。プロの投資家でもない人間がさまざまな金融商品の値動きを追い続けることは不毛で、長期的に見れば非効率な行動になってしまう。人間は成功したときの経験のみを重視する認知バイアスを持つ傾向があるため、派手で投機的な金融商品に人気が集まりがちだが、実のところリスクを分散してコツコツ積み上げていく運用のほうが成果を上げやすい。これまでこうした高度な資産形成のノウハウは専門家と富裕層の特権であったが、テオは全プロセスをロボアドバイザーによって自動化したことで、この制約を取り払い資産運用へのハードルを限りなく低くした。

最小限のコストで資産形成をサポートしてくれるので、私たちはお金の不安に煩わされることなく(ときどき状況をチェックするにせよ)、自分たちの普段のフィールドでやるべきことに集中できるのだ。北澤さんたちが芸術家を裏で支えた人物の名をサービスに託した真の意味が感じられるだろう。

働き方を創造する

この一人一人が自分の持ち場で活躍するというポリシーは、お金のデザインという会社自身についても当てはまる。

同社は「One life, Enjoy the quest of realizing yourself. 」(一度きりの人生、一人一人が自分らしく生きていく)というスローガンを掲げているが、多くのメンバーが前職の専門分野を持ち寄ってテオの開発や改善、サポートなどの業務に一体で取り組んでいる。

「このオフィスには、金融工学を専門とするスペシャリストやIT出身で業務システム開発をしてきたエンジニア、製造業出身のバックオフィス担当者など、さまざまなバックグラウンドを持った精鋭が約40名集まっています。それぞれ持っている文化が違うのでお互いのコミュニケーションで戸惑うこともありますが、従来の業界のしがらみにとらわれず、よいサービスを作り上げていこうというビジョンは共有できています」

実際に、オフィス内ではフォーマルな服装で外国人と打ち合わせをする社員もいれば、カジュアルでラフな格好でMacの画面を見つめる社員もいた。また、「場所に縛られない働き方」を、1つのプロジェクトとして実践している社員もおり、この日はアメリカに出張中。世界中のどこにいても、ネット接続さえ確保できれば、たいていの業務はこなせているという。「対面」が重んじられる会議や打ち合わせも、不都合がなければグーグル・ハングアウトをとおして行う。

こうした多様性と自由な雰囲気を体現するようなオフィスづくりにも北澤さんは関わっているのだという。

「まず、私たち自らが創造的な働き方を実践していなければ、多くの人から信頼される魅力的なサービスは作れないでしょう」

【WORK STYLE】

??6月に移転した新オフィスはリノベーション物件。開放感のある打ち合わせスペースにはチームラボ作品「生命は生命の力で生きている」が展示され、アートを意識した空間作りが印象的だ。卓球台などのレクリエーション設備や打ち合わせなどに利用できるフリースペースなど社員が快適に働くための環境が整っている。?業種としては金融(第一種金融商品取引業)だが、フィンテックのベンチャーらしく同社で働くスタッフのバックグラウンドはさまざま。?テオの広報活動の一環として、オウンドメディアの「Outliers(アウトライヤーズ)」を運営している。「世界を変えるのは、いつも異端児だ。」のキャッチコピーは同社の創業理念にも通じる。登山家の栗城史多さんのインタビューなど読みごたえのある記事が満載だ。【URL】https://outliers.theo.blue